ROK Ministry of National Defense via YouTube

 去る2018年12月20日、座標未公表の日本海の日本排他的水域(EEZ)内において、海上自衛隊P-1哨戒機にたいし、韓国海軍駆逐艦広開土大王(クァンゲト・デワン、DDH-971)が、射撃管制電探(電波探信儀、レーダー)を照射したとして、日韓間で対立が生じています。

 この事件について、日韓間での主張はおおきく異り、日本では連日韓国を批難するTV放送が流れており、年末年始のニュースを賑わせています。一方で、日本における膨大な量の報道の割に裏付けのある情報はたいへんに少なく、「関係者」や与党議員・代議士発の単なる憶測や怪情報のたぐいが多く流れています。また、韓国政府から発せられる情報もそれほど多くありません。結果として憶測が独り歩きし、荒唐無稽な珍説までまことしやかに流布しています。これは二国間の軍や武装組織が絡むインシデントにおいてはたいへんに憂慮すべき状況と言えます。

 本稿では、日韓両政府から発せられるファクトをもとに本件事態を考えてみたいと思います。

◆両政府見解を比較してみる
●日本側からの公式発表
 2018年12月20日15時ころ、日本のEEZ内の座標不詳の能登半島沖において、韓国海軍広開土大王級駆逐艦から海上自衛隊P-1哨戒機が、火器管制電探照射を受けた。(参照:“防衛省・自衛隊:韓国海軍艦艇による火器管制レーダー照射事案について”平成30年12月21日 防衛省

防衛省サイト

 P-1が収集した情報(電波情報、目視情報ほか)を慎重かつ詳細な分析をした結果、当該照射が火器管制電探によるものと判断した。

“火器管制レーダーは、攻撃実施前に攻撃目標の精密な方位・距離を測定するために使用するものであり、広範囲の捜索に適するものではなく、遭難船舶を捜索するためには、水上捜索レーダーを使用することが適当です。”(参照:“防衛省・自衛隊:韓国海軍艦艇による火器管制レーダー照射事案について”平成30年12月22日 防衛省

 12/24に韓国国防部が本件事態について見解を発表したが、事実関係の一部に誤認があると防衛省は考える。

 採取した電子情報等から、広開土大王から一定時間継続して複数回発せられた電波は、火器管制電探によるものである。

 P-1は、国際法、国内法を遵守し、異常な低高度で接近した飛行を行っていない。

 P-1は、“国際VHF(156.8MHz)と緊急周波数(121.5MHz及び243MHz)の計3つの周波数を用いて、「韓国海軍艦艇、艦番号971(KOREA SOUTH NAVAL SHIP, HULL NUMBER 971)」と英語で計3回呼びかけ、レーダー照射の意図の確認を試みました。”

防衛省としてはこのような事案が発生したことは極めて遺憾であり、韓国側に再発防止を強く求めてまいります。こうした事案によって日韓防衛当局間の連携を損なうことがあってはならず、今後、日韓防衛当局間で必要な協議を行っていく考えです。”(参照: “防衛省・自衛隊:韓国海軍艦艇による火器管制レーダー照射事案について”平成30年12月25日 防衛省

 12/28に防衛省P-1から撮影した本件事態の映像を情報保全のために加工の上で公表した。(参照:“防衛省・自衛隊:韓国海軍艦艇による火器管制レーダー照射事案について” 平成30年12月28日 防衛省韓国海軍艦艇による火器管制レーダー照射事案について 2018/12/28 MOD YouTubeチャンネル

◆一方、韓国側の発表は?
●韓国側からの報道、発表の要点抜粋{括弧内は同一記事内などから牧田による補足}(韓国語は全く読めないので様々な邦訳を参考にしています。)

12/21 「わが軍は正常的な作戦活動中だった。作戦活動の際にレーダーを運用したが、日本の海上哨戒機を追跡する目的で運用した事実はない」韓国国防部発表
(参照:“海自機に射撃レーダー照射 「追跡の目的ではない」=韓国国防部” 聯合ニュース2018/12/21

12/23 韓国軍消息筋」「関係者」への取材

 韓国軍消息筋による発言
「東海で遭難したとの通報を受けて出動した駆逐艦『広開土大王』が船舶捜索のためのマニュアル通り、航海用レーダーと射撃統制レーダー{MW08}を{対艦モードで}フル稼働していた」
「その後、日本の哨戒機が艦艇の方向に接近し、光学カメラを運用した」
「追跡レーダー{STIR180}が(光学カメラと)共に稼働されたが、ビームは照射しなかった」
「実際に日本の哨戒機を威嚇する行為はなかったことを明確にしたい」

 韓国軍関係者による発言
「遭難した船舶を見つけるため人道主義的な作戦を行ったと説明し、日本もその内容を知りながら問題提起を続けることは理解できない
「{日本側は、}公海上で韓国海軍の活動を制約する意図ではないかと疑われる」
「日本の哨戒機は艦艇が捜索救助作戦を始めてからしばらく後、接近してきた」
「艦艇の上空を飛行するなど、むしろ威嚇的だった」
「日本の哨戒機は国際商船共通網で海洋警察を呼び出し、通信感度も極めて低かった」
「艦艇では海洋警察{Korea Coast Guard:参峰号}を呼んでいると認識した」
(参照:“日本哨戒機接近し撮影用光学カメラ稼働 ビーム放射はせず=韓国軍” 聯合ニュース2018/12/23

12/24 複数の「軍消息筋」への取材

 海上哨戒機P-1が近接してきたため、これを識別するために電子光学標的追跡装備(EOTS)を作動した。消息筋は「当時1.5メートルの波が立ち、1トン未満の北朝鮮漁船を探すのが難しい状況だった」とし「当時、(艦砲とミサイル照準用)射撃統制レーダーのSTIR 180は日本哨戒機に向かってレーダー電波を撃っていない」と説明した。

 光学カメラ赤外線装備をつけたEOTSは、悪天候や夜間に遠く離れた物体を把握する装備で、射撃統制レーダーSTIR 180に装着されている。EOTSを哨戒機側に向けたことでSTIR 180アンテナが一緒に動いたが、STIR 180からレーダー電波は放出されなかったというのが軍説明だ。STIR 180は指揮部の許可を受けないと作動させることはできない
(参照:“日本「味方に銃撃つか」vs韓国「射撃用レーダー撃たなかった」“中央日報 2018/12/24 7:43

12/24 韓国国防部定例発表(国防部イ・ジンウ副報道官)

「わが軍は人道主義的構造のために正常な作戦活動をしたのであり、日本側が脅威を感じるいかなる措置も取らなかった」
「日本側が誤解している部分があるのなら、通常の手続きに基づいて両国当事者間で疎通と協議を通じて解消すればよいことだ」
「きょう開催される外交部局長級会議を含め、国防・外交当局間で緊密に協議していく」
「我々は(20日の事件)当日にも外交経路を通じて十分に事実関係と我々の立場を(日本側に)伝達したと理解している」
「今後こうした疎通と協議を通じて対話をしていけば十分にそのような誤解は解けると判断する」
(参照:“韓国軍「日本哨戒機に追跡目的レーダー運用せず」”中央日報 2018/12/24

12/27 韓国国防部発表

「韓日国防当局は日本哨戒機関連の事案に対して実務級テレビ会議を開催した」
「今日の実務級テレビ会議は韓国側の合同参謀本部作戦部長のキム・ジョンユ陸軍少将と日本側の池松英浩首席参事官らが参加した」

 この日、両者は会議で、相互誤解を解消するために事実関係の確認と技術的な分析などに関して意見を交換した。国防部は「会議は友好的かつ真摯(しんし)な雰囲気の中で行われ、今後、関連実務協議を続けていくことで一致した」と説明した。
(参照:“韓日、レーダー関連実務級会議…「友好的で真摯な雰囲気」“中央日報2018/12/28 6:40

12/28 韓国国防部の報道官発表

「(駆逐艦の)『広開土大王』は正常な救助活動中だった。わが軍が日本の哨戒機に追跡レーダーを運用しなかったという事実に変わりはない」
「韓日の当事者間の速やかな協議を通じ、相互の誤解を払拭(ふっしょく)させ、国防分野の協力関係発展を模索する趣旨でテレビ会議を開いてからわずか1日後に映像を公開したことについて、深い憂慮と遺憾を表明する」
「むしろ人道主義的な救助活動に集中していたわが艦艇に日本の哨戒機が低空の威嚇飛行をしたことは、友好国として極めて失望的なこと」
「日本側が公開した映像は哨戒機が海上で旋回する場面や操縦士の対話の場面だけが収められており、一般常識的な側面から追跡レーダーを照射したという日本側の主張に関する客観的な証拠とはみられない」
「日本側は国際法や兵器体系に関する正確な理解に基づいて協議していくべきなのにもかかわらず、一方的な内容を収めた映像を公開して事実関係をごまかしていることについて、あらためて遺憾を表する」
「われわれはこれまで日本の一方的な行動について節制した対応を取ってきた」
「日本側のこうした遺憾な行動にもかかわらず、韓日の国防協力関係を未来志向に発展させていかねばならないという立場に変わりはない。日本側は韓国と軍事的な友好協力関係を維持するという精神を持続的に堅持しなければならない」
(参照:“レーダー照射問題 日本の映像公開に「深い憂慮と遺憾」=韓国国防部” 聯合ニュース2018/12/28 17:56

1/4 韓国国防部反論映像公開(字幕の抜粋翻訳)

「日本は人道主義的救助作戦への妨害行為を謝罪し、事実歪曲を直ちに中断すべきだ」
「日本の哨戒機はなぜ人道主義的な救助作戦現場で低空威嚇飛行をしたのか」
「日本哨戒機は『広開土大王』の150メートル上空、500メートルの距離まで接近した」
「艦艇の乗組員が騒音と振動を強く感じるほど威嚇的だった」
「日本は国際法を遵守したと主張するが、果たして本当だろうか」と問いながら、日本側が主張した国際民間航空機関(ICAO)の高度150メートル以下の視界飛行禁止規定は軍用機でなく民間航空機に適用される規定だと反論した。
「『広開土大王』が日本哨戒機に向けて追跡レーダー{STIR180}を作動したとすれば、日本哨戒機は直ちに回避機動をすべきだった」
「しかし『広開土大王』側に再び接近するという、常識に外れた行動を見せた。なぜそうしたのか答えるべきだ」
(参照:“「日本哨戒機が低空威嚇飛行」…韓国が反論映像” 中央日報2019/1/5 10:11

◆論点(争点)はなにか? 改めて整理する
【日本側の主張】
 P-1哨戒機による哨戒飛行中、能登半島沖の日本の排他的経済水域内(EEZ)において、複数の韓国艦艇による活動を発見した。
 国際的手順に従い(ICAO条約と航空法施行規則を例示)飛行を行った。
 韓国海軍駆逐艦広開土大王から射撃管制電探照射を受けた。
 かかる行為は武器使用に直結し極めて危険であり、強く抗議する。
 射撃管制電探による照射を探知後、P-1は広開土大王への呼びかけを3波で行ったが返答はなかった。

【韓国側の主張】
 遭難した北朝鮮籍漁船(1t未満の木造船)を広開土大王(韓国海軍)と参峰号(韓国海洋警察)が救難活動(SAR)中であった。
 広開土大王は、射撃管制電探MW-08(3次元電探)も用いて捜索活動をしていた。
 広開土大王は、射撃追跡電探であるSTIR180による電波照射はしていない。
 P-1は高度150m、距離500mという至近距離を飛行しており、広開土大王側は、脅威を感じた。
 かかる行為は極めて危険であり、抗議する。
 日本側が根拠とするICAO条約は、民間航空機が対象であり、軍用機は対象とされない。
 広開土大王は、日本側からの通信を国際VHS(FM変調)で受信していたが、受信状態が悪く“KOREAN COAST”(韓国海洋警察)と聞き取り、自艦への呼びかけとは考えなかった。

【双方が明らかにしていないこと】
 当該事態が発生した座標

◆日本側主張への検討
 まず、日本側は事態が発生した座標を明らかにしていません。報道では日本側EEZ内の能登半島沖としていますが、EEZは、排他的経済水域であって海洋資源の利用、採取を除き単なる公海です。従って、韓国側艦船は航海の自由を持ちます。北朝鮮籍漁船は、遭難、漂流中ですのでこれもEEZは関係ありません。(漁労をしていれば話は別)

 次に、P-1哨戒飛行中に発見した艦船に接近するのは日常的業務ですので、それ自体は問題ありません。

 韓国側主張にある高度150m、距離500mへの接近は、日本側の公開した映像からも概ねその程度と考えられます。これは航空法やICAO条約には則っていますが、これらの条約法規は、軍用機は対象外です。日本側は、民間航空機並みに自己規制していると主張したかったのでしょう。

 日本側は、射撃管制電探による照射を受けたと一貫して主張していますが、一方でMW-08(三次元電探)であったか、STIR180(射撃電探、イルミネーター両用)であったかは執筆時点に至るまで明らかにしていません。両者はともに射撃管制電探に類されますが、深刻さは全く異なります。イルミネーターで照射された場合、それは発砲、ミサイル発射一歩手前であり、極めて危険です。

 3波による広開土大王への呼びかけは、うち2波は航空用であり、艦船が受信していることを担保されえませんが、国際VHSは受信しています。ただし、FM変調のために混信には極めて脆弱ですので、意思疎通できない事態もありえます。

◆韓国側主張への検討
 韓国側も事態が発生した座標を明らかにしていません。独島(竹島)から北東100kmの地点としているだけです。この海域は日韓共同開発水域が双方のEEZに挟まれています。なお、今回の事態にEEZは無関係です。

 韓国側は、高度150m、距離500mでP-1が接近飛行をしており、それはたいへんに脅威を感じるものであったとしています。脅威の評価は日韓それぞれ独自に行うことですし、韓国側が脅威を感じると主張する以上、そうであったのでしょう。P-1は四発機(エンジン4つ)でB737程度の大きさですので、150mの高度、500mの距離ですと、かなり迫力があったとは思います。

 韓国側は、一貫して射撃電探に類せられるMW-08(三次元電探)を稼働させていたが、STIR180は稼動させていないと主張しています。STIR180は光学モードで(望遠カメラとして)動作させたためにP-01を指向していたが、電波は発していないという主張です。STIR180による電波照射(おそらくイルミネーターモード)は、指揮部(おそらく司令部)の許可がなければできないという主張は妥当です。

 P-1からの呼びかけは、国際VHFで聞き取っていたが、受信状態が悪くKorea Coastとしか聞き取れなかったので自艦への呼びかけと考えなかったと主張していますが、韓国側映像ではハルナンバーまで聞こえています。”Korea South Naval”という呼びかけは本来”South Korea Naval”であって、かなりおかしな英語ではありますが、返答しない理由にはならないと思います。

 以上、日韓双方の公式見解をファクトとして羅列しました。次回以降、これらを受けてメディアがどのように報じたかについて論考を述べたいと思います。

『コロラド博士の「私はこの分野は専門外なのですが」』番外編――広開土大王射撃電探照射事件について1

<取材・文・撮影/牧田寛 Twitter ID:@BB45_Colorado
まきた ひろし●著述家・工学博士。徳島大学助手を経て高知工科大学助教、元コロラド大学コロラドスプリングス校客員教授。勤務先大学との関係が著しく悪化し心身を痛めた後解雇。1年半の沈黙の後著述家として再起。本来の専門は、分子反応論、錯体化学、鉱物化学、ワイドギャップ半導体だが、原子力及び核、軍事については、独自に調査・取材を進めてきた。原発問題についてのメルマガ「コロラド博士メルマガ(定期便)」好評配信中

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