1月27日(日)、2月9日(土)&10日(日)の3日間、東京・秋葉原と茨城・つくば市で「アニメスタジオミーティング(アニスタ)」と題されたイベントが開催されます。

サラリーマンを経てアニメーターになった平松さん。MAPPAの若さに可能性を感じると言います

このイベントにはアニメ業界を代表する複数のスタジオから、業界の第一線で活躍するプロデューサーやクリエイターが参加し、アニメ業界、そしてアニメの制作現場がいかに変化してきたかをアニメファンたちへ向けてダイレクトに発信していく予定です。さらに業界を夢見る者たちに向けた、リクルートイベントも合わせて行われます。

そこで、このコーナーでは毎回「アニスタ」に参加するスタジオから複数のスタッフの方にご登場いただき、自身がアニメ業界を目指したきっかけや就職活動の思い出を語ってもらいます。今回、登場していただくのは「ユーリ!!! on ICE」でタッグを組んだ、MAPPA のプロデューサー・野田楓子さんとアニメーター・平松禎史さんです。

――クリエイティブな仕事に就きたいと思われた、きっかけをお聞かせください。

平松:僕の場合は、両親がともに堅い仕事をしていたのが、ひとつのきっかけだったかもしれません。自分の両親を見て、自分にはあまり地道な仕事は向いてないだろうと思っていたんで。しかも、漫画やアニメが好きだったので、そういう方向にどんどん向かっていった気がします。でも、実は地元で1年弱サラリーマンをやったんですよ。それでやっぱり合わないことを実感したので、親は反対しましたが、上京してアニメ会社に入りました。

野田:私は物心ついたときにはもうクリエイティブな方にいきたいと思っていたんですが、その影響として兄がいるのかなと思います。私の兄はすごく絵が上手で、小さい頃から周りによく絵を褒められていたんですよ。私はそれがとても悔しかったのと同時に、兄への憧れもありました。そんな思いもあって、そのときはアニメは意識していませんでしたが、絵を描いたりデザインしたり、何かしらを表現していく職業に就きたいなと思っていました。

――ちなみに平松さんは小さい頃から絵を描くことがお好きだったんですか?

平松:そうですね。小さい頃はどちらかというと車とかロボットとか飛行機とか、そういうものばかり描いていましたね。でも、これはアニメーターにありがちな話ですけど、クラスの中に自分より絵がうまい子がひとりはいるんですよ。その子と競っているうちに自分は勉強そっちのけで絵ばかり描いて、もともとうまいその子は勉強もできて、大学に行って企業に入るんですよ。そして、気がついたら自分の方がアニメーターになっているという(笑)。アニメーターの後輩とかに聞いても、そういう人が多いんですよね。

――小さい頃はメカニックなものを描くのがお好きだったんですね、

平松:そうなんです。今はメカの作画はしないんですけど(笑)。アニメのキャラクターに関心を持つようになったのは、中学か高校の時期でしたね。そのきっかけとなった作品は「未来少年コナン」でした。でも、アニメ業界は厳しいなと思ったので、一回は普通に就職してみたんです。でも一回離れると逆に興味がより盛り上がってきて、その会社を辞めて最初はテレコム・アニメーションフィルムに入りたいなと思っていました。「ルパン三世」が好きだったし、アニメーターになりたいと本気で思うようになったのが、「カリオストロの城」を観たときだったので。でも、春ではなかったので募集をしている状況ではなく、近い系列の中村プロダクションという制作会社に就職しました。そこで動画として「キャッツ・アイ」の第2期から「AKIRA」までに参加し、原画になって「ミスター味っ子」から「魔動王グランゾート」までに参加しました。

――野田さんがアニメ業界を意識されたのはいつ頃でしたか?

野田:クリエイティブな職に就きたいと思い、大学ではグラフィックを専攻して広告デザインや写真の勉強をしていたんですが、就職時期に「仕事にするには自分の中にもうひとつ決め手になるようなものがないな」と思ったんです。ちょうどその頃に「鉄コン筋クリート」が劇場で上映されて、もともと原作がすごく好きだったので観に行ったんですよ。そうしたら、感情にできない何かが押し寄せてきてずっと泣いていました。お話自体は知っていたので、お話に泣かされるというよりは、映像の力に圧倒されて泣き続けていたんです。それで、もともと私はMAPPAの前職はSTUDIO 4℃で働いていたんですけど、こんなに自分の心に刺さるものってすごいなと思って、「鉄コン筋クリート」の制作会社だったSTUDIO 4℃を受けて入社したんです。

――平松さんは中村プロダクションで原画を手がけるようになったあと、どのようなキャリを積まれたのでしょうか?

平松:その後、「ミスター味っ子」や「魔法陣グルグル」で知られる加瀬政広さんが主催された作画スタジオに参加して、それからフリーになりました。

――では、お二人がお互いにお知り合いになったのは、いつ頃の時期でしたか?

平松:それは「ユーリ!!! on ICE」からですね。

野田:もちろん私はお名前も知っていましたが、「ユーリ」のタイミングで山本(沙代)監督から、ぜひ今回の作品には平松さんに参加してもらいたいという要望があって、私自身も平松さんとお仕事がしたかったので、お声がけさせていただいたんです。

平松:沙代さんの作品にはガーリーなイメージを持っていたので、スポーツものと聞いて、少し意外でしたね。でも、詳しく話を聞いていると男子フィギュアスケーターにある美しさを表現したいということだったので、腑に落ちるところがありました。僕にとってもやったことのないジャンルだし、面白そうだと思ってお引き受けしました。

野田:やっぱり“色気”が描ける方、しかも、ど直球の色気というより、リアルでありながらフィギュアスケートの選手たち特有の美しさをきちんと描ける方ということで、山本さんは平松さんにお願いしたいとおっしゃっていました。そこを描ける方はすごく限られているんです。しかも、山本さんは「平松さんの女性キャラクターは結構見ているけど、男性キャラクターで色気が出ているものはあまり見たことがない」とおっしゃっていました。それでも平松さんだったら絶対に描けるはずだと(笑)。私もそれを見てみたいと同意したのを覚えています。

平松:これまで描く機会がなかっただけかもしれないですね。まあ若い人はともかく、中年以降の男性は描いていて面白いんですよ。屈強なタイプもいれば、フェロモンが漂うような色気のあるタイプもいて、いろんなタイプを描けるので面白いんです。モブとかでおじさん描いているとすごく楽しい(笑)。そういう意味で「ユーリ」はキャラクターの幅がとても広いですし、すごく面白かったですね。

――「ユーリ」でのお仕事を通じて、お互いをどのような方だと見られていますか?

平松:実は「ユーリ」のテレビシリーズが動いていたときは、野田さんはお子様がね?

野田:そうなんです。ちょうどその当時は出産で抜けていたんです。お腹が目立ち始めて、もう限界だというくらいまで参加していたんですが。

平松:「もう子供が生まれるんで、すいません」という話をされたとき、それまでまったく顔にも出していなかったので、「だから新人の制作の子と一緒にすごく頑張ってたのか」とようやく納得しました。これは信頼できる人だと思い、出産後に戻ってきたときにもぜひまた仕事を一緒にやりたいと感じました。

野田:ありがとうございます。平松さんとご一緒して感じたのは、単純にあげてくださるものが完璧でそれ自体に説得力があることと、とてもお仕事をしやすいお人柄なんですよ。例えば制作進行たちが細かいミスをしたときも、「ここはこうやるといいんだよ」と教えてくださるんです。なかなかそこまでしてくださる方は少ないと思います。

――では、お二人が感じられているMAPPAというスタジオの良いところとは?

野田:制作たちの年齢も会社が設立された年数自体もまだ若い会社なので、挑戦できることがすごく多い会社だと感じています。今の世の中の流れを踏まえて、こういうことをしてみた方がもっと社員の環境も良くなるし、環境を良くすればより良いものが作れるのではないかと、日々社長ほかスタッフとも話しています。それもトップの数人だけではなく、現場で働いているデスクたちからも意見を聞いているので、とても風通しの良い会社であるのは間違いありません。自分の能力次第で上に上がっていける、すごくわかりやすい構造にもなっているので、そこもモチベーションに繋がりやすいかなと思っています。

平松:一緒に作業していても、やっぱり若い会社だと可能性をたくさん感じさせてくれるので楽しいです。今はスタジオが三つあるので、直接顔をみられない人もいますが、「ユーリ」のときもいろいろと個性的なアニメーターやスタッフがいたので、そういうところも一緒にやっていて気持ちよかったです。気付いたら自分が最年長みたいになっているので、どう見られているのかは気になりますが(笑)、すごくやりやすい会社だと思いますね。

――では最後に、アニメ業界を志す方へメッセージを一言ずついただ毛ますか?

平松:落ち込むことはいっぱいあっても、好きなことだけは忘れないでやり続けて欲しいということですね。好きだという感情や感動する気持ちを忘れずに、次々と見つけていくことが大事だと思います。

野田:平松さんのおっしゃっていることと言葉が違うだけかもしれませんが、目標を失わないで飛び込んできてほしいなと思いますね。初めて社会人として業界に入ったときに持っている目標が、その後、自分がレベルアップしていくための成長を促してくれるものになると思うので。目標があるのとないのとでは働き方も全然違ってくると思います。その目標=「好きなこと」、「興味あること」だと思いますが。

平松:好奇心だよね。

野田:はい。「こういうことに自分は心を動かされる」とか、「あの人みたいになりたい」という気持ちを持って仕事をしたら、絶対上にいけると思います。

平松:でも、小さい目標を達成したとき、その繰り返しでいいやとなってしまうと伸びないんだよね。しかも歪んでいく(笑)。そうではなくて、達成できたことはそれで良しとして、次なる目標というか、そこからどんどん好奇心を広げていくようにするといいかなと思いますね。

お二人とも、子供の頃からの思いを仕事で実現されているんですね。

そんな生き方に、あこがれませんか?

現在、イベントのチケットはWIT STUDIOのアプリ「WITアプリ」で発売中。

各スタジオのファンや、アニメ業界を志す皆さんは、今すぐ申し込みを!

●野田楓子(のだ・ふうこ)/アニメーションプロデューサー。STUDIO 4℃を経て、MAPPAに参加。「パンチライン」、「ユーリ!!! on ICE」、「牙狼<GARO>-VANISHING LINE-」といった話題作のプロデューサーを務める。

●平松禎史(ひらまつ・ただし)/アニメーター。「彼氏彼女の事情」、「寄生獣 セイの格率」、「ユーリ!!! on ICE」などのキャラクターデザインを担当。また、「新世紀エヴァンゲリオン」、「フリクリ」などに作画の主要スタッフとして参加している。(WebNewtype・【取材・文:橋本学】)

「ユーリ!!! on ICE」をきっかけにお仕事で組むことになったお二人。野田さんが平松さんの信頼を得たエピソードとは?