土日はとにかく寝ていたい。近場でもついタクシーを使ってしまう。階段とエレベーターなら間違いなくエレベーターを使う……。このような運動不足が肥満、高血圧、脳卒中、さらには寝たきりにつながる可能性もある。『寝たきり老後がイヤなら 毎日とにかく歩きなさい!』(すばる舎)を理学療法士の中山恭秀氏と共著で上梓した医師の安保雅博氏は、「簡単な運動で脳卒中のリスクを軽減できる」と話す――。

■寝たきり原因の1位は実は「脳卒中」

寝たきりというと、「加齢により足腰が弱って」というイメージを持たれる方が多いようです。もちろんそれもありますが、実は脳卒中が一番の原因です。

介護を受けるようになるには、必ず原因があります。

支援者では「関節疾患」が17.2%でもっとも多く、次いで「高齢による衰弱」が16.2%となっています。ひざが痛くて歩行が困難、年齢とともに体が動かなくなってきた、というのはイメージがつきやすいでしょう。

一方、要介護者では「認知症」が24.8%でもっとも多く、次いで「脳血管疾患(脳卒中)」が18.4%となっています。

さらに、要介護の中でも介護度の一番高い要介護5は、ダントツで「脳卒中」です。要介護5はまさしく、ほぼ完全な寝たきり状態と言えます。

また、その下の要介護4も、要介護5ほどではありませんが、歩行や立ち上がりがほとんどできず、日常生活すべてに介護が必要な状態です。多くの時間を布団の上で過ごしており、移動は車いすだったりと、「準寝たきり」と言えます。

要介護4では、第1位の認知症と第2位の脳卒中は僅差ですから、脳卒中は寝たきり(に近い)状態の最大原因と言うことができるでしょう。

■脳にダメージが加わっても9割は助かる

脳卒中の患者はどんどん増えていくと言われています。

2000年の脳卒中発症者が約24万人でした。2025年がピークで約33万人、2050年が約30万人と、2000年2050年までの将来予測が立てられています。

2025年には二人に一人が脳卒中(月刊『臨床雑誌内科』2013年5月号 到来 二人に一人脳卒中時代)と言われるようになっています。

脳卒中とは、ひと言で言えば、脳の血管が切れたり詰まったりする病気です。

脳は人の体をつかさどる中枢であり、もっも大事な部分です。けれども、脳卒中によって脳にダメージが加わっても、実は死亡率は高くないのです。

図表2は死因別死亡率推移を示したものです。長い間、死因死亡率の第1位は脳血管疾患(脳卒中)でしたが、現在は減少しています。

約10%が脳卒中で死亡する状況になっています。つまり、9割は助かるのです。

「脳卒中では死ななくなった」と言われます。たしかに、それは事実です。しかし、助かる代わりに、何らかの後遺症が残ることが多いものです。

■アルツハイマーの次に多い脳血管性認知症

脳卒中になると、障害を受けた脳の場所により、片麻痺(へんまひ)や失語症など多彩な症状が出ます。脳卒中発症から5年後の追跡調査として、「3分の2の人に麻痺など障害が残っている」「20%の人が脳卒中を再発している」とされています。

脳という重大な部位へのダメージは、仮に少しの出血でも、場所によって大きなものになります。

もちろん、脳卒中を発症しても、全員が麻痺で寝たきりになるということでは決してありません。また、適切なリハビリテーションを行っていけば、確実に症状は改善されていきます。

しかし、寝たきりを避けるためには、そもそも脳卒中にならないようにすることが、一番の近道と言えるでしょう。

脳卒中は脳の血管の病気ですが、実は寝たきり原因第2位の認知症も、脳血管性のものが多いのです。

認知症というと、アルツハイマー型認知症を想像する方が多いと思いますが、脳血管性認知症はその次に多くなっています。現在は、病理学的所見から両方を合併している例も多いという見解が示されています。

■90代でも元気な人は何が違うか

脳血管性認知症は、脳梗塞脳出血などによって脳の血管にダメージを受けた結果、起こる認知症です。つまり、脳卒中がそのまま認知症の原因となっているのです。実際、脳卒中発症から5年後の追跡調査として、「22~25%の人が認知症になっている」と言われています。

脳卒中になると認知症になりやすくなるというのは、間違いないことだと思います。

ここまでの話を読んで、みなさんは絶対に脳卒中にはなりたくないと思っていらっしゃるでしょう。

病気はどれでもそうですが、脳卒中にはなりやすくなる危険因子があります。それは「修正できない危険因子」と「修正できる危険因子」に分けられます。

修正できない危険因子としては、年齢(55歳以上で10歳ごとにリスクは2倍に)、性別(男性は女性よりハイリスク)、脳卒中の家族歴があることです。

高齢になるほど脳卒中になりやすくなり、要介護になりやすくなる。それは仕方がないことでもあります。けれども、そこには個人差があります。80代や90代になっても、脳卒中になることなく、元気な方もいます。

■脳卒中の「修正できる危険因子」に有効

ここで重要になってくるのが、修正できる危険因子です。

修正できる危険因子としては、高血圧糖尿病高脂血症、心房細動などの心疾患、肥満、喫煙、運動不足、過度の飲酒などがあげられます。

脳卒中にならないためには、この修正できる危険因子をコントロールしてあげることがカギになります。

ではどうしたら、脳卒中の「修正できる危険因子」をコントロールすることができるのか。

高血圧にならないようにし、糖尿病にもならないようにし、高脂血症にもならないようにし、肥満にもならないようにする。なっても、悪くならないようにうまくコントロールする。

実は、これらすべての予防や治療に有効なものがあります。しかも無料です。何だかわかりますか?

「運動」です。適切な運動です。

運動は、寝たきり原因の第3位である「骨折・転倒」予防にも有効です。

骨折は、骨粗鬆症(こつそしょうしょう)という骨がもろくなる状況になると、起こりやすくなります。

■運動で血流が良くなり、骨形成が活発に

骨の強さは、外側の骨密度と骨の中の質が重要であると言われています。

「骨密度が高く骨質の良い人」に比べて、「骨密度が高くても骨質が悪い人」は1.5倍骨折しやすく、「骨密度は低いけれど骨質が良い人」は3.6倍、「骨密度も低く骨質も悪い人」は7.2倍骨折しやすいというデータを、慈恵医大の整形外科の齋藤充先生たちは示されています。

骨粗鬆症があると、寝たきり確率が2倍近くになるともされています。

ではどうやって、骨密度を高くし、骨質を良くするのか。それには運動なのです。

骨は常に、「骨吸収(破壊)」と「骨形成(再生)」をくり返しています。これを「骨代謝」と言い、サイクルは約4カ月です。

運動することで血流が良くなり、骨形成が活発になり、骨がつくられやすくなります。その結果、骨量を増やすことができるのです。

また、骨の材料であるカルシウムを骨に沈着させるには、運動により骨に圧力をかけることが重要です。

■スポーツ苦手でも大丈夫

骨を丈夫にする運動は、同時に筋肉を鍛えることにもなります。運動によって骨を鍛え、筋肉を鍛えれば、寝たきりはどんどん遠ざかっていきます。

要支援の原因で上位にくる、関節疾患も同様です。運動によって骨と筋肉を強くしていくことで、ひざの痛みなども改善されていきます。

運動だけでなく、もちろん「食事」も重要です。また、しっかりと「検診」を受けることも欠かせません。

しかし、食事を変えるだけでは筋肉はつかないし、骨も丈夫になりません。また、先にも述べたように、脳卒中のみならず多くの病気の原因である肥満も、食事改善だけではなかなかうまくいきません。

まずは運動です。運動すれば、自然と痩せていきます。リズムが整い、健康的な生活を送れるようになります。

とはいっても、「スポーツは苦手だから……」という方も多いかもしれません。

大丈夫です。ハードな運動は必須ではないのです。

■一生続けていくことが重要

健康のための運動は、毎日続けてこそ効果があります。1カ月や半年など、決まった期間だけすればいい、というものではありません。ハードな運動はたいてい長続きしません。それよりは、「つらくない」運動を、それこそ死ぬまでずっと続けていくのが重要なのです。

そこでおすすめなのが、「歩く」ことです。ウォーキングです。

寝たきりとは、つまり歩けないということです。逆説的ですが、歩き続けることを目標にすれば、必然的に寝たきりになりません。歩いているかぎり、大丈夫ということです。

逆に、歩かなくなると、人は簡単に動けなくなります。リハビリテーション医療の現場でも、簡単に動けなくなるものだと実感しています。

脳卒中の代表的な後遺症は麻痺ですが、全身麻痺で寝たきりになるケースは少数です。けれども、たとえば片足麻痺や高次脳機能障害によって外出がおっくうになり、歩かなくなる。結果として、体がどんどん衰え、寝たきりに……という悪循環に陥ることも多いのです。

よく、大きな手術をした後も、病院ではすぐに歩かされるという話を聞きますね。それは寝たきりの状態だと、あっという間に身体機能が衰えてしまうからです。

これを「廃用症候群」と言います。

われわれの入院患者さんへのリハビリテーション治療も、主に廃用症候群を防ぐために行われます。

■人間の体は、遠くに移動するようにできている

絶対安静で筋肉の伸び縮みをさせないと、1週間で筋力は10~15%落ちてしまうとされています。1カ月も寝たままだったら、筋肉は半分になってしまいます。

若い人なら、仮に筋肉が半分になっても、もともとの筋肉量があるので、回復も可能です。

しかし、もともとの筋肉量が少ない高齢者の筋肉が半分になってしまったら、元の状態に戻すのはかなり難しくなります。

体は動かさないと、あっという間に衰えていきます。けれども、動かし続けているかぎり、元気な体でいられます。

仮に要介護になったとしても、歩くことです。

高齢で元気な人というのは、たいていよく歩いています。元気だから歩いているのではありません。「歩くから元気」なのです。

人間の体は、遠くに移動するようにできています。

「歩く」ことこそ、人間の根源。「生きる」ことと同義です。

脳卒中のリハビリテーション医療の現場でも、それまで車いすでぼんやりしていた人が、自分の足で立ち上がり、歩き始めたとたん、急にしゃきんとするのを目の当たりにします。

自分で動ける=若さです。歩けているうちは若いのです。

ぜひとも、今日からたくさん歩き、いつまでも健康に長生きしましょう!

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安保雅博(あぼ・まさひろ)
リハビリテーション科医
東京慈恵会医科大学附属病院副院長。リハビリテーション科診療部長。1990年東京慈恵会医科大学卒業。1998年2000年までスウェーデンのカロリンスカ研究所に留学。2007年よりリハビリテーション医学講座主任教授。2016年、同病院副院長に就任。編著書、監修書に『脳卒中マヒが改善する!腕と指のリハビリ・ハンドブック』『脳卒中の重度マヒでもあきらめない!腕が上がる手が動くリハビリ・ハンドブック』(以上、講談社)などがある。
中山恭秀(なかやま・やすひで)
理学療法士
理学療法士/博士(リハビリテーション科学)。東京慈恵会医科大学附属病院リハビリテーション科技師長。1992年東京都立医療技術短期大学卒業。1998年明治学院大学卒業、2001年筑波大学大学院リハビリテーションコース修了、2012年筑波大学大学院人間総合学科研究科修了。2013年から分院技師長を経て現職。4つある附属病院の統括所属長として、多くの理学療法士や作業療法士等を束ねる。臨床経験27年、あらゆる領域の理学療法を担当。なかでも脳卒中後の片麻痺(かたまひ)やパーキンソン病など、「中枢神経系」の問題で生じる歩行障害や動作障害の改善について、三次元動作解析などをもとに研究。編著書に『臨床データから読み解く理学療法学』『3日間で行う理学療法臨床評価プランニング』(以上、南江堂)などがある。

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