防衛省公開動画より

 2018年12月20日に起きた、座標未公表の日本海の日本排他的水域(EEZ)内における韓国海軍駆逐艦のレーダー照射問題。前回は両政府の見解を改めて比較してみましたが、今回は日韓が公表した映像を検討します。

◆日本側映像の検討
 暮も迫った2018年12月28日、前日までに予告していたとおり、日本はP-1が撮影した映像を公表しました。この映像の公表には防衛省海上自衛隊の背広組、制服組双方が嫌がっていたのを官邸、より具体的には安倍晋三首相の極めて強い意向で実施されたと報じられています。(参照:渋る防衛省、安倍首相が押し切る=日韓対立泥沼化も-映像公開 時事通信 2018年12月28日

 P-1は、世界一と言っても良い極めて優れた哨戒機であり、乗組員もトップクラスで防衛機密(軍事機密)の塊ですので、海自、防衛省が内部映像の公開を拒絶するのは当然のことで、実際に公開された映像は音声が欠けている、映像も欠けている部分が多いものでした。

●韓国海軍艦艇による火器管制レーダー照射事案について(MOD Channel)

 この映像を見ると、次のことが判ります。

・海自P-1は、高度1000~1500ft(300~450m) 距離5km以上 から接近していると思われる。韓国側艦船は、海洋警察の参峰号と韓国海軍駆逐艦広開土大王、ゴムボート二艘、漁船らしきもの1隻。

・被救助船とみられる漁船が大きすぎる様に見える。韓国側発表の1t未満でなく、5~10t程度にも見える。(素人には洋上の物体の大きさは誤認しやすいので当方の誤認かもしれない。)

・事態発生の座標を海自は公表していない。能登半島沖EEZとテロップを出しているが、EEZは排他的経済水域(かつての経済専管水域)であって、無関係。漁労をしていれば関係があるが、この場合海上保安庁の管轄となる。

テロップで流れている風浪階級1m(さざ波が出る程度)は明らかにおかしい。映像でも波が立っている上に白波もあちこちで生じている。風速7m/sであることも矛盾しており、これは波の高さ1m、風浪階級3を誤ったものと考えられる。韓国側の波高1.5m(風浪階級4)という発表からもこのテロップは誤りであろう。

・海自P-1は、公開された映像について機内から洋上を市販のビデオカメラで撮影していると思われる。

・海自P-1、広開土大王の艦尾側から二回接近飛行を行っている。テロップ国際法に則っているとあるが、韓国側の主張どおり高度150m、距離500mであると思われるICAO条約や国内航空法は軍用機に適応されず無関係。(おそらく、民間機並みの制限を守っているという主張だろうが説明として適切とは考えがたい。)

・3回目の接近中でFC(火器管制電探)系を受信したという会話とテロップがある。

・イルミネーターの照射があった場合は、自動的に電子対抗装置(ECM)が起動し、電子戦が開始される。また、最悪の場合ほぼ同時にシー・スパローSAMが発射されるため限界いっぱいの激しい回避行動をとってイルミネーター照射から逃れることを試みる。映像の場合、P-1のECMが自動起動しているとは考えられず、イルミネーターからの回避行動を行っても居ないので、P-1はイルミネーター照射があったとは考えていなかったと思われる。(※:シー・スパローは、セミアクティブホーミングミサイルで、垂直発射機(VLS)から発射後、STIR180などのイルミネーターから照射される電波に誘導されて標的に向かう。接近後、標的まで自機のシーカー(探知機)で誘導し、標的を撃破する。3~5km程度の距離ではP-1はECMに成功しない限りまず逃げられない)

P-1は、広開土大王の砲が自機を向いていないことを確認している。これは広開土大王に交戦の意志がないことを示している。対象は、主砲(5インチコンパット砲)とゴールキーパーCIWSと思われる。平時における軍隊間でのインシデントでは砲の指向によって意思を表す。攻撃の意図がない場合は、砲は通常の位置である。攻撃意図または、排除の意図を持つ場合は、砲を標的に指向する。広開土大王の主砲は対空射撃に対応しており、数キロ先の敵を撃破する。ゴールキーパーCIWSはフルオートの場合、近くの動くものすべてを攻撃、破壊する。CIWSの事故は、海自の「ゆうぎり」がRIMPAC96(1996年太平洋合同演習)で米軍機(A-6)を撃墜したことが有名。

P-1は、広開土大王に3波で呼びかけを行っている。うち2回は航空無線で、艦船が受信していることは担保されていない。1回は国際VHFで艦船が受信しているが、FM変調のために混信に非常に弱い(弱肉強食特性)

広開土大王は、P-1の呼びかけに応じなかった

P-1が広開土大王の呼びかけに使った言語は英語。カタカナ英語で、文意把握もかなり危うい英語であるが、少なくとも広開土大王に返答を求めていることは分かる

・”Korean Navy” ないし”South Korean Navy” と呼びかけるべきところを、初回”Korean Naval Ship”、二回目以降”Korean South Naval Ship”と呼びかけていることには強い違和感を抱く。誤認のもとなのでやってはいけない事だろう。

・自機をJapan Navy”と呼称していることに問題はない。(自衛隊は、国外では軍隊として扱われている。)

・映像終盤では、広開土大王と参峰号の間に居た漁船(難破船)とゴムボートが居なくなっている。従って、接触時間は映像よりかなり長いのではないかと思われる。

・この映像では機内の警報音などが消されており、射撃管制電探、特にSTIR180によるXバンド、Kバンド電波照射への証拠能力は無い

P-1は、世界最先端の哨戒機(偵察機攻撃機)であり、防衛機密(軍事機密)の塊であるため、映像の加工により証拠能力が無くなってしまうことはやむを得ない。この映像を公開するだけでもP-1の能力が一部とはいえ世界に漏洩してしまっている恐れがある。

◆韓国側公開映像の検討
 一方、年明けの2019年1月4日に対抗措置として韓国側が映像を公開しました。韓国側の映像は、海自側の映像と全く異なり、機密漏洩につながり兼ねない情報は殆どありません。冒頭からBGMを挿入するなど、典型的なプロパガンダ映像ですが、とても良く練られた映像作品です。

[국방부] 일본은 인도주의적 구조작전 사과하고 왜곡을 즉각 중단ROK Ministry of National Defense)

 日本語訳は、徐台教(ソ・テギョ)氏の記事を参照しました。(参照:“[全訳] 韓国国防部「反論映像」全テクスト(徐台教) – 個人 – Yahoo!ニュース”徐台教(ソ・テギョ) 2019/1/4 19:52

 この映像を見ますと、次のことが判ります。

・冒頭に新たな映像が入っており、被救助船がP-1からの映像に映っていた漁船であることが分かる。また、電照施設を持ち、イカ釣り漁船と思われる。

・低空で接近飛行をしたP-1の映像はなく、遠景のみであった。映像として新たな情報は、冒頭のもののみであり、あたり前のことだが機密保持に強く配慮しているものと思われる。

韓国側映像にも証拠能力はない。そもそも、韓国側の主張を周知するためのものであって、論争における証拠として作成されていない。

・韓国側は、ICAO条約の引用など、日本側の主張の弱点を突いている。そもそも、ICAO条約を引用するなどは軍用機では無意味なことで、日本国内向けの説明が国際的には通用しないことを露呈させている。(わざわざ無用な弱点を作っている。)

・韓国艦船の活動は、遭難漁船の人道的な救助活動(SAR: Search and Rescue)であったと一貫している。日韓SAR協定(参照:日韓SAR協定 1990年5月25日)により「必要があれば」相手国(この場合日本)に連絡、情報の提供を行うこととなっているが、今回韓国側は必要ないとしたのであろう。

・韓国側は、P-1が直上を接近飛行し、脅威を感じるものであった(威嚇飛行であった)と主張している。映像からは直上を飛行している場面はない。日本側公開映像からも広開土大王の直上を飛行している場面は確認できない。ただし、4発大型機であるP-1が高度150m、距離500mを飛行すれば、相当な迫力があることは同意できる。

・韓国側はSTIR180を光学捜索モードで使用し、P-1接触時にはそれを用いてP-1を撮影したが、電波の発振はしていないと一貫して主張している。

・韓国側は、北朝鮮籍の遭難漁船への救難活動(SAR)中であり、P-1の行動はそれを威嚇するものであったとして謝罪を求めている

・韓国側は、P-1による国際VHF(FM)による通信を聞き取れなかったと主張している。しかし、映像では、ハルナンバー(艦首番号)まで聴取可能であったことが分かる。録音されているが、通信員には聞こえなかったという説明もできるが、やはり返答しなかったことへの説明にはならない

・韓国側は12月28日の日本による映像公開を事態の政治利用と認識している。

・韓国側は、実務者協議の継続により、事実確認と相互理解による解決を求めている。

・韓国側の映像を見ると、日韓双方の軍事機密に抵触する映像を避けており、日韓による実務者協議での迅速な解決の道筋を閉ざしていないことが分かる

◆およそ狂気と言うほかない年末年始の日本側報道
 日韓の主張と映像を見る限り、今回の事態は、友好国同士の軍隊による相互誤解をもとにしたインシデントで、“イルミネーター照射がなされていなければ”、謝罪など相互に必要なく、実務者協議で解決し、今後の教訓とするだけのものです。

 ところが、日本で連日報じられるものは、事実に基づかない情報を扇動的に垂れ流し、市民を排外主義と主戦論に誘導する極めて危険なものです。

 それらの危険な情報について下記に列挙し、解説します。

1) 韓国の電探照射に関する説明は二転三転している。

 完全に嘘。典型的なデマゴギー
 韓国側は、電探照射について日本側が主張する“射撃管制電探“FCは定義がおかしく、射撃統制・射撃追跡電探であるSTIR-180(Xバンド、Kバンド射撃電探兼イルミネーター)による電波照射は行っていないと一貫して主張している。韓国側が使っていた”射撃管制電探“はMW-08(Cバンド三次元電探)であると主張している。

 韓国国防部による2018/12/24の定例ブリーフィング後の質疑応答を見ると詳しく分かる
国防部による映像と書き出し
“KJCLUB – 国防省定例ブリーフィング質疑応答” 有志による翻訳と原語書き出し(機械翻訳と照合して使用)

 日本人ヘイターによるこ汚い暴言がぶら下がっており見ていて恥ずかしいほどだ。

2) 当時、海は穏やかであり、韓国側の海が荒れていたという説明は虚偽。

 韓国国防部12月24日の質疑応答のつまみ食いと切り取りによる虚偽。

●合同参謀本部作戦2処長による質疑応答

Q:遭難船舶を捜索する際に射撃統制電探(STIR-180?)を使うことがあるのか?
A:日本側の主張する射撃追跡電探(おそらくイルミネーター)と射撃統制電探は異なる。普通は対艦電探(MW-08?)を運用し、射撃統制電探(STIR-180?)は、波が高いなど、悪天候のときに捜索電探とともに用いる。

 韓国側は、荒天の場合STIR-180を捜索用に使うことがあると主張しているのみ。これを日本側は切り取っている。

 また、日本側公開映像のテロップである「風浪階級1m(さざ波が立つ程度)」はおそらく誤り。波高1m(韓国側主張1.5m)で風浪階級3(韓国側主張に基づくと4)となる。これは悪天候とは言えないが、穏やかとも言えない。

3) 射撃管制電探(STIR-180)がP-1を指向していた。発砲の一歩手前だ。

 イルミネーター照射と混同した虚偽。

●合同参謀本部作戦2処長による応答

A:広開土大王は、STIR-180を光学モードで電波を放射せずに遭難船捜索に用いていた。そこへP-1が低空接近してきたため、光学モード(EOカメラ)で当該機を監視した。電波放射はしていない。

A:対水上、対空電探としてはMW-08を用いており、STIR-180では電波放射していない。

 なお、STIR-180は指揮部の許可を受けないと作動させることはできない。(参照:“日本「味方に銃撃つか」vs韓国「射撃用レーダー撃たなかった」“中央日報 2018/12/24 7:43

4) 広開土大王と参峰号は、北朝鮮漁船とイカの洋上取引を行っていた。南北共同によるEEZ侵害行為だ、とする「瀬取り」(洋上において船から船へ船荷を積み替えること)説

 空想の産物で、全く意味がない。典型的な市民の敵愾心を煽るためのデマゴギー

 証拠が一切提示されておらず、空想の産物でしか無い。
 そもそも、軍艦や巡視船は輸送船でなくペイロードが極めて小さい。具体例として大日本帝国海軍が日本の貧弱な輸送、海上護衛能力のために苦肉の策として多用した“ねずみ輸送“(駆逐艦による補給物資輸送)は輸送船の100分の1未満の効率しか無かった。
 例えば5千トンの輸送船なら5千トンの物資を運べるが、2500トンの駆逐艦二隻で運べた物資は30トン程度。
 また、軍艦に魚介類の洋上取引に使う生簀や冷凍設備はない。イカの場合は大型の生簀が必須であろう。
 軍艦や巡視艇は乾舷が高く、小型漁船と洋上取引するための荷役施設(デリックなど)が必須となるが、見当たらない。

 そもそも、たかが数十万円から数百万円程度のイカを、軍艦や巡視船が二隻も出向いて取引しても燃料代にすらならない

5) 広開土大王は、国旗、軍艦旗を示していない海賊船だ。

 映像の解像度が低いことを利用した嘘。典型的な市民の敵愾心を煽るためのデマゴギー

 公開されている写真を見ると、外洋航行中はメインマストに太極旗を掲げている。解像度の低いP-1からの映像でも、低速のためかマストに巻き付いている太極旗と思われるものが、掲揚位置に見られる。

外洋航行中の広開土大王 photo by Republic of Korea Armed Forces via flickr(CC BY-SA 2.0)

6) 南北融和による日本への侵略行為だ

 いわゆる真っ赤な嘘。半島デタントを快く思わない人間による典型的な市民の敵愾心を煽るためのデマゴギー。十分な証拠を提示した上で主張されたい。

 南北融和によるデタントの動きは昨年9月来急速に進みつつあり、日本政府はその事実に反発している。

 しかし、実際には両国、両軍の緊張状態は継続しており、相互に緊張度の高い休戦国同士の関係であることは変わりない。

 遭難漁船の生存者と遺体について、本人の意志を確認の上で北朝鮮に送り返したことがデタントを象徴しているが、脱北者や工作船だった場合も考えられ、極めてデリケートで危険を含むSAR活動であったことは想像に難くない

7) 日本のEEZ内で韓国艦船が行動するなど許せない。国際法違反だ。

 完全に誤った主張。

 まず、日韓両政府ともに当該事態の発生した座標を発表していない。当該水域は、日本側EEZ、日韓共同開発水域、韓国側EEZが存在しており、座標を公表しないことと関係がある可能性がある。

 EEZは排他的経済水域であるが、公海である。商船、軍艦、巡視船は航行と行動の自由を持っている。漁労や資源採掘、資源探査については沿岸国の主権が及び、コースガード海上保安庁や海上警察)が取締を行う。今回はSAR活動であり、漁労や資源探査・発掘は関係ない。要するにEEZであるか否かは全く無関係。

 難破船がどこにいようとそれは不幸な難破船であり、SAR活動は一切阻害され得ない。日韓両国はSAR条約批准国であり、日韓SAR協定も締結から28年目となる。

 韓国側がSAR活動について日本側に通告しなかったことについては、協定では「必要があれば」という但し書きがあり、協定違反とは言えない。

◆目に余る日本側のヘイト報道
 ほかにもありますが、年末年始、あまりにも目に余る金太郎飴のようなヘイト報道に呆れ返り、私はBBC World Newsからチャンネルをかえなくなってしまったために大晦日頃から日本のヘイト報道をそれほど見ておりません。ただ、私の尊敬する思慮深い方ですら連日のヘイト報道に強く影響されるさまを見て、極めて憂慮すべきことが起きていると痛烈に感じました。

 金太郎ヘイト報道に終止する日本メデイアに対して、韓国側の報道の質の高さには愕然とさせられます。(参照:“韓国がレーダー放射したか、日本哨戒機が威嚇飛行したか…真実攻防” 中央日報 2018/12/26

 今回の事態は、今後の日韓両国にとってたいへんに大切な教訓を多く含んでいます。日本側の醜態は、それよりはるか以前の問題ですが、今回の事態において、考えうる仮説と今後に生かされるべき教訓を次回、執筆しようと思います。

『コロラド博士の「私はこの分野は専門外なのですが」』番外編――広開土大王射撃電探照射事件について2

<取材・文・撮影/牧田寛 Twitter ID:@BB45_Colorado
まきた ひろし●著述家・工学博士。徳島大学助手を経て高知工科大学助教、元コロラド大学コロラドスプリングス校客員教授。勤務先大学との関係が著しく悪化し心身を痛めた後解雇。1年半の沈黙の後著述家として再起。本来の専門は、分子反応論、錯体化学、鉱物化学、ワイドギャップ半導体だが、原子力及び核、軍事については、独自に調査・取材を進めてきた。原発問題についてのメルマガ「コロラド博士メルマガ(定期便)」好評配信中

防衛省公開動画より