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 前回は「北海道には雪がない」という智恵子抄のようなことを申し上げたんでありますが、納車日の今日に限って降り始めまして、なにやら吹雪で大変なことになっております。みなさま、いかがお過ごしですか。年も改まりまして「新車を買った情報2019」。私は四本淑三でございます。

 本日も話題の中心は、マツダロードスターRFなんでありますが、さっそく「お前のクルマチョイスはどうなんだ」と、任意保険の契約にあたって保険屋がケチを付けにまいりました。中学で同級だったもので、この男は言いたい放題なんでありますが、まあそれも当然のことであります

 なにせ2座席のオープンカーですから、2人しか乗れない。荷物も積めないし、うるさい。なんだか目立つし恥ずかしいと、いろんな理由でケチが付く。ご家族のいらっしゃる方であれば、さぞかし説得に難儀されることでしょう。だからなんでありましょうが、初代ロードスター発売当時の宣伝コピーがこうでした。

 「このクルマを手に入れるほんの少しの勇気を持てば、きっと、だれもが、しあわせになる」

 そう、勇気がいるんであります。くわえてここは北海道クルマは毎日の生活に欠かせない、ご飯と味噌汁のようなもの。その毎日の半分、およそ半年間は雪か氷の上を走ることになる。なのにお前はよりによってこのクルマなのかと。

 正直申し上げまして、私もしくじったかなと思いました。

冬でもロードスター大丈夫理論

 この手のクルマが嫌がられる理由は、フロントエンジン後輪駆動であること。略称FRなんて言いますが、これはもう雪道で走れないクルマの代名詞のように言われております。ほかにも「寒いのにオープンって馬鹿なの?」「車高低くて大変だねえ」「燃費悪そう」と散々な言われようであります

 それぞれ言い返したいところですが、かくいう私も35年ぶりに北海道へ戻ってきたばかり。北海道で自分のクルマを持つのも、FRを自分で所有するのも、これが初めてであります。くわえてマニュアルトランスミッションにも30年のブランクがありまして、ちょっとくらいはシフト操作や挙動の確認をしたかったですねえ、雪が降る前に。

 ところが予定は遅れに遅れ、ついにスタッドレスタイヤ装着で納車となってしまいました。いきなり冬、これで走るんであります

 「いや、全然平気だから」と、お店の社長にキーを渡されるわけですが、この男もまた中学の同級生でして、おまけレースもやるような人なものですから、まあ容赦ありません。そらあんたは平気だろうが、俺の身にもなってくれ。

 なんて泣き言を言っても始まりません。書類の準備が終わり、公道へ放っぽり出される前に、私は納車までずっと考えていた「冬でもロードスター大丈夫理論」を、念仏のように唱え続けたのであります

オープンでも寒くない」は常識

 まずオープンでも寒くない。これは常識であります。特にマツダは、昔から風の巻き込みが少ないエアロキャビンを作るのが上手でありまして、ヒーターさえ効かせておけば頭寒足熱の状態が保てるのであります

 問題は路面状況。いかにもオープンカー日和の、晴れた暖かい昼間が一番厄介なんであります。陽が当たっている路面では雪や氷が融け、それを周りのクルマが跳ね上げる。おかげで融雪剤や泥にまみれた飛沫を浴びせられかねない。

 それでもチャンスさえあれば、私はオープンで走る気満々であり、クルマの方も躊躇なくオープンにできる。それがRFの利点で、幌と迷ったときに、まあこっちにしとくか、ということになった理由でもあります。

 走りやすい日は、適当に冷えて路面が締まっている。当然ながら寒いわけでして、気温が低いと、幌は硬化してまいります。表面が凍結した状態で無理に開けると、幌が切れて防水が効かくなってしまう。だから初代や2代目ロードスターオーナーの方は、たいがい冬用にハードトップを確保されているようです。

 ただ、あんまり寒くても、頭寒足熱どころの騒ぎではなくなるのではないか。そこらへんの塩梅が未知数なもので、不安といえば不安でありますねえ。

意外と最低地上高は高いが……

 もうひとつ不安といえば、最低地上高です。冬でも大丈夫と言いつつ、さっきから不安ばかり申しておるんでありますが、これが低いと雪がクルマの底につっかえる。いわゆる「亀」になっちまうわけであります。あれは情けない上に、脱出するのもひと苦労。

 だから最低地上高は高い方が安心というわけですが、最近は除雪も行き届いておりまして、都市部に住んでいる限り、滅多なことでは亀になりません。除雪車が回ってこない、家の前で立ち往生しそうなほど積雪のペースが速い、なんて日にはどのみち高速道路通行止めで、幹線道路も渋滞していますから、家でじっとしているのが無難であります

 厄介なのは、春先の雪解けの季節なんであります。これがもう本当にひどい。氷が融けてデコボコしている上に、アスファルトが割れたり穴が開いたりで、オフロード競技でもできそうなガタガタ道になっているところもあります。冬の間アスファルトに水が浸み込み、それが凍結して膨張することを繰り返した結果であります

 一般的な乗用車の最低地上高は150mm程度。これくらいあれば普段は十分なんですが、それでも春先、たまーにガリッっと擦っちまうんですね。そこへ行くと「ジムニー」なんかはさすがに高くて、205mm。逆にコーナリング性能を重視するスポーツカーぺったんこ。現行の「GT-R」なんかは110mmぽっちしかありません。

 ところがロードスターRFの最低地上高は、スポーツカーのくせに145mm。これはマツダコンパクトカー「デミオ」と同じ数字で、ちょっと目を疑うんでありますが、最低地上高は空車状態で計測する決まりになっておるんですね。人が乗るとサスペンションが縮んで、車高が下がるんであります

 もとよりこの手の遊び車は、荷物を積むことなど考えていませんから、余計に下がる気がいたします。ガソリン満タン、2名乗車。これでどれくらいの高さになるか、納車されたら確認しておきたいところであります

アイスバーンの上ではみな平等

 最後に、最も外野から言われるのが駆動方式であります。同じ後輪駆動でも、エンジンを後ろに積むRRやMRはまだマシなんですが、ロードスターのようなFRは、確かに雪道に弱い。それは重量物であるエンジンが前にあるので、後ろの駆動輪に荷重がかかりにくいからであります。おかげで坂道を滑って登れないばかりか、平地の発進ですらスリップしてお尻を振ってしまいがちであります

 だから北海道では4輪駆動車の人気が高いですねえ。ビスカスカップリングを使った簡便なものから、電子制御でトルク配分を決める複雑な仕組みを持ったものまで、ほんのちょっとの上乗せ料金で、四輪駆動が手に入るご時世です。なのにわざわざ後輪駆動を選ぶのは、まあ、よほどの物好きしかおりません。

 四輪駆動を成立させる方式にはいろんなものがありますが、いずれも蹴り出す能力の高さ、トラクションなどと申しますが、それについてはほかより優れていることは間違いありません。凍結路の坂道なんかでも、四輪駆動スイスイ登って行きやがりますから、まあ癪ですねわねえ。

 それでも過信は禁物です。なぜなら止まる性能に駆動方式の差はないからです。アイスバーンで滑り始めてしまえばみな同じ。むしろ四輪駆動はほかより安定して高い速度で走れるものですから、いざ滑り始めてしまうと運動エネルギーも大きいわけでして、カーブなんかでは急にコントロールを失いがちです。

 ですからみなさま、どうか、ぜひお気をつけて運転なさってください。

好きだったら多少の面倒は我慢できる

 そう考えますと、走るにしても曲がるにしても、急の付く動作をするとすぐに滑り始めるFRは、逆に安全と言うこともできます。限界が低いので、大したスピードも出せませんから、万が一のことがあっても被害は少ない。

 そもそも後輪駆動がまるでダメというわけでもありません。それが証拠に、北海道タクシーのほとんどが、まだクラウンコンフォート。これは昔ながらのFRであります。丁寧な運転を心がければ、除雪の行き届いた平坦な市街地や幹線道路なら、当たり前に使えるんであります

 それに少数派とはいえ、北海道では、まだ結構な種類の後輪駆動車が走っております。トヨタの86、スバルBRZを筆頭に、RX-7RX-8S2000、日産だったらフェアレディZ、そしてS660ビートNSXMR2といったミッドシップ勢、もちろん歴代ロードスターは、RFも含めてみんな走っております。

 後輪駆動クルマを買おうにも、いまどき車種は限られている。だから、みなさんクルマがお好きなんでしょう。そして、好きだったら、多少の面倒は我慢できるわけです。私は我慢しますよ、ええ。だってカッコいいんだから。

 要は使いようなんであります。どんなクルマにも能力の限界はある。大切なのは、それを理解して、限界を超えないように使うこと。つまり試されるのはクルマよりも自分。そういうことなんであります

 それでは吹雪の中走り出した様子を、いつものようにVTRに撮ってございますんで、ご覧ください。

相変わらず不躾にやっておりまして

 ここでお詫びが2つございます。いつもの口癖で言ってしまいましたが、VTRはございません。ドライブレコーダーの設定に不手際がありまして、この日の画像をうっかり上書きしておりました。そしてお気付きの方もいらっしゃるでしょうが、この原稿の体裁であります

 「これは三本和彦のモノマネか?」と言われましたら、まったくそのとおり。話せば長いんでありますが、どうでしょうか? あ、まだ少し時間がある。はい、では申し上げますと、あれはもう40年近く前の話であります

 私が大学の受験で上京した折、ホテルテレビ神奈川の音楽番組をボケーっと見ておりましたところ、なにか強面のおじさんが出てきて、自動車メーカーの担当者にケチを付けているんですねえ。これが、まあ絵に描いたようなべらんめえでして、のんびりした北海道で育った高校生には、まるでケンカを売ってるようにしか聞こえません。

 なるほど自動車の世界というのは自由なものだ、言いたいことが言える世界なのだと感心いたしまして、どうにか大学に潜り込んでからは、その番組を毎週欠かさずビデオに録って見るようになりました。それが自動車ジャーナリストの三本和彦さんがやっていた「新車情報」という番組です。

 実際は三本さんが頑張っていただけで、自動車の世界が自由だなんてことはこれっぽっちもなかったわけですが、おかげでまるで興味のなかった自動車がおもしろくなってきまして、気がついたら運転免許まで取っていた。そういう次第ですから、クルマのことを考えるときには、今でも頭の中はべらんめえ。俗に言う「三本節」が回っております。

 長寿番組だった新車情報がなくなって、もう14年になりますでしょうか。そのせいもあるんでしょうが、私のクルマへの関心もすっかり薄れてしまい、駐車場にほっぽらかしていたクルマも、屋根にコケを生やすような始末で、もう7~8年も前に売っぱらっちまいました。

 それでもたまに見慣れないクルマを見かけると、これは三本さんだったらどう評するのだろう、メーカーの担当者をとっ捕まえてきては、カメラの前でどんな風にどやしつけるのだろうと、心の中の三本和彦が動き始め、つい妄想してしまうわけです。

 それをまんま書いたのがこれであります。誠に不躾とは存じますが、ほかに書きようも思い付きませんで、今回だけということで、ひとつ大目に見てやってください。

 そして私とロードスターRFの運命やいかに。それではまた来週。

(撮影協力:ジークフリード

マツダ ロードスターRFで北海道の雪道は走れるのか