(筆坂 秀世:元参議院議員、政治評論家)

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大島議長の苦言は野党へのエール

 大島理森(おおしま・ただもり)衆議院議長が、1月10日、玉川大学での講演で離合集散を繰り返す野党に対して、「政党の変化があまりにも多すぎる。政党に対する国民の信頼感がなくなる」と苦言を呈した。

 1997年の新党ブームの際、「今ワシは、何党かねと、秘書に聞き」という川柳が毎日新聞に掲載され国民の失笑を買ったものだが、この当時に負けず劣らず、くっついたり、離れたりが続いている。こんな野党に期待など持てるわけがない。

 大島議長は自民党の出身ではあるが、昨年(2018年)の通常国会終了時にも、「公文書の改ざんや隠蔽、誤ったデータの提供などが相次いだことについて、民主的な行政監視、国民の負託を受けた行政執行といった点から、民主主義の根幹を揺るがす問題」と与党に対して、厳しい指摘を行なった。

 公正な議会運営に心を配る人である。衆院でも、参院でもそうだが、多くの場合、議長は、議会多数派である自民党から選出されてきた。そのため“どうせ自民党に有利に運営しているのだろう”という誤解がある。現在もそうだが、副議長は衆参共に野党から選ばれている。これが慣例となっている。

 大島議長は、政権与党に正面から対峙できる野党の存在が民主主義には不可欠である、という当然の考えから、野党にエールを送ったのだ。

河野洋平氏の野党への注文

 1月7日朝日新聞河野洋平氏(元衆院議長)と小沢一郎氏(自由党共同代表)へのインタビューが掲載されていた。なかなか面白いものだった。

 河野氏は、「野党が政権与党に対抗するために何が足りないと思いますか」という質問に対し、「野党の最大の課題は、選挙に弱いことだ」と指摘したうえで、風まかせではなく、「どんな風が吹こうが、議席をしっかりつかんでいる人間をどれだけ持ち、育てるかが、野党の最初の仕事だ」と言う。

 これが一番難しいことなのだが、確かにこのことを抜きにして政権交代など望むべくもない。

 さらに与党と野党では、選挙に対する執念が違うという。「集票のための執念だ。選挙に対する執念がないと、野党連携の際に『誰と組むのはいいが、誰とは組みたくない』となる」。

「最大野党の立憲民主党は、参院選では野党共闘よりも党の政策理念を優先しているようですが」という質問には、「ある程度は理解できる」としつつも、理念先行では選挙にならないと戒めている。

 私も立憲民主党枝野幸男代表が、やみくもな野党共闘に消極的な気持ちは理解できる。せっかく作り上げた立憲民主党を、また野党間のあれこれの合従連衡(その時の利害に従って、結びついたり離れたりすること)の渦の中に入ってもろくなことはない。枝野氏がそう考えるのも無理からぬことだと思うからだ。

 ただその立憲民主党にどれほどの理念があるのだろうか。同党のホームページを開くと、いきなり「立憲民主党はあなたです」という言葉が飛び込んでくる。草の根の政党だということを言いたいのだろうが、いかにも無理があるし、地に足が着いていない印象は否めない。

 国民民主党が、「対案路線」を掲げていることに対しても、「与党が暴走している時は、とにかく止めることが第一。対案を出してどうするか、じゃなく、それはやるな、という戦いなんですから。野党は政権党を倒すことが役割。徹底的に政権党を批判しなくてはいけない」と河野氏は指摘する。

 これにも私は大賛成である。小さい野党が何を提案したところでそれが国政を動かすことなどあり得ない。鋭い批判こそが与党を追い詰めるのだ。

 河野氏の提言は、一言で言うと「野党はなりふり構っている場合ではない」ということであろう。選挙で勝つためにはどうするのか、これこそが野党がもっとも真剣に考えるべきことだと言うことにある。

野党共闘にあきらめムードの小沢一郎氏

 河野氏と小沢氏の考え方には、驚くほど共通点が多い。小沢氏は、立憲民主党などに「永田町の数合わせ」的な共闘に否定的な見方があることに対して、次のように言い切っている。

「数合わせを悪いイメージで捉えるのは間違い。結局、民主主義の基本は数だ。確かに手間はかかるけども、国民のその時々の意思を反映してやるから、歴史的にも大きな過ちをおかさない」と述べた後、「野党間で“好きだ、嫌いだ”“経緯がどうのこうの”と言って、一緒にやれないというのは幼稚だ。自民党は極右からリベラルまで一緒にやっている。公明党創価学会も安倍内閣とずいぶん違った意見を言ってきたはずなのに、一緒になっている」と小沢氏は言う。その通りである。

 そして、「野党に足りないものは何か」という質問に対しては、「執念と志が欠けている。かつて自民党は、社会党を引っ張り込んでまで政権を取った。このしたたかさ、執着心が必要だ」。奇しくも河野氏と小沢氏共に、野党の勝利への執念の欠如を指摘しているのである。

 参院選挙では、32ある定数1の選挙区で野党がどれだけ共闘し、当選を勝ち取ることができるかどうかが、野党にとっての正念場になる。3年前(2016年)の選挙では、すべての1人区で野党共闘が実現し、野党側から見れば11勝21敗であった。その3年前、2013年の参院選では(当時の1人区は31)、野党2勝29敗だった。これに比べれば2016年の11勝は大躍進と言って良い。

 ところが小沢氏は、「3分の2取られた。惨敗だ」と言うのである。ここらあたりは万年野党の共産党との大きな違いを感じる。

 この選挙の直後に行われた党の会議で、志位和夫委員長は、「7月10日に行われた参議院選挙で、わが党は、野党共闘の勝利と日本共産党の躍進という二つの大目標を掲げてたたかいました」「野党と市民の共闘は、全国32の1人区のすべてで野党統一候補を実現し、11選挙区で激戦を制して勝利をおさめ、初めての挑戦としては大きな成功をおさめました」となるのである。

 共産党のこうした選挙結果についての評価は、政権政党の幹事長を務め、二度にわたって政権交代を実現させてきた小沢氏にとっては、政権を真剣に目指さない能天気なものに映るのではないだろうか。

 小沢氏は言う。「今年は政治的、経済的にこのまますんなりといくという情勢ではない。政権基盤自体が非常にもろい。単純に野党が合わさっただけで勝てる。国民は野党が一つになって、選挙戦に臨んでくれないかなあという思いだろう、ほとんどの人が。(だが現状は)ああそれなのに、それなのに、ということだ」。

 相当なあきらめムードが漂っている。

野党共闘の先行きは真っ暗

 いま日本の政治で野党の存在感は、まったくないと言っても過言ではなかろう。大島議長や河野氏や小沢氏らが指摘するまでもなく、これは民主主義の危機である。巨大与党に対抗するには、野党が結束を強めるしかない。

 この結束を妨げているのが、国民民主党(代表は玉木雄一郎氏)のあまりにも低い支持率である。結党以来、1%前後の低空飛行を続けている。小池百合子東京都知事の不評を一身に担っているからである。連合の神津里季生(こうづりきお)会長は、7日の年頭記者会見で「立憲民主党国民民主党の支持率に大きな差がある。統一名簿を目指すべきだ」と訴えたが、立憲民主党は「票が減るだけだ」として、にべもない態度をとっている。無理からぬ話である。

 普通に考えて、いま野党としての存在意義を示している政党は、立憲民主党共産党だけである。ただ共産党との共闘が本当に幅広い支持を結集することにつながるのか、これははなはだ疑問である。

 共産党は、3年前には野党共闘の成功を大騒ぎしたが、早くも途絶えてしまいそうになっている。

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大島理森 衆議院議長(出所:Wikipedia)