今や「日本の国民食」とまで言われているのが「牛丼」。発祥の地は東京説と神戸説がある。

 1899年に東京・日本橋で創業した吉野家1968年から「早い、うまい、安いの三拍子」をキャッチフレーズチェーン展開を始めると、学生や若いサラリーマンでにぎわう外食店になった。

 畜産農家を保護する農政のおかげで牛肉価格が高止まりしていた時代に、輸入肉ではあるが、牛肉をご飯付きで安く食べられることで人気を博し、吉野家1979年には272店舗、年商250億円まで拡大した。

 しかし、第二次オイルショックで諸物価が高騰した1979年12月、我慢しきれずに「並盛」の値段を300円から350円に値上げすると、粉末つゆや乾燥肉の使用で味が落ちたこともあって、たちまち客足が途絶え、約半年後に吉野家は牛丼一筋80年+1年で倒産してしまう。

 それ以来、牛丼チェーンは「低価格を維持しないと消費者が許さない業界」になり、今や「デフレの象徴」とも呼ばれている。

 最近は熾烈な低価格競争を何度も繰り返し、現在の「並」の通常価格は、業界トップ4の「吉野家」(吉野家ホールディングス、HD)が380円、「すき家」(ゼンショーホールディングス、HD)が280円、「松屋」(松屋フーズ)が280円、「なか卯」(ゼンショーHD)が280円で、吉野家以外は70年代後半の価格水準まで低下した。

 一方で、吉野家2012年10月に「築地吉野家・極(きわみ)」という低価格の新業態を出店し、並を250円で販売すると、すぐに、すき家12月250円の期間限定キャンペーンで対抗するなど、低価格競争はまだまだ終わらない。今回は、競争が激化する牛丼チェーンについて、キャリコネに寄せられた各社社員の声を基に分析していこう。


BSE騒動を乗り切った後は右肩上がりの成長軌道

 牛丼チェーンの市場は、外国産牛肉の輸入が止められ豚丼などの代替メニューでしのいだBSE(牛海綿状脳症)問題の逆風を乗り越えた後、最近5年間は低価格競争を繰りひろげながらも右肩上がりの成長が続いている。また、2011年には、シェアの97.7%をトップ4(3社)のチェーンが独占した。

【牛丼チェーンの市場規模】
 その業界トップ4のチェーンを売上高でみると、トップが「すき家」、2位は吉野家、3位は松屋、4位はなか卯という順位になる。



 その他のチェーンとしては、かつてダイエーグループだった関東ローカルの「神戸らんぷ亭」(ミツイワ)などがあるが、売り上げの規模はトップ4に比べ、1ケタ小さい。


勤務時間が長く、休みが取れない理由とは

 まずは、トップ4の報酬から見ていこう。社員の声から、すき家と松屋は残業代をちゃんと払うようだ。

 「毎月、残業代を入れて本部職員なら給与は差し引き支給額で20万程度。ただ、店舗で働き詰めなら50万近く稼ぐこともある。給与の査定は上司による評価で上がるが、実際はこの年齢ならいくらぐらいという基準があり、群を抜いて高い奴や低い奴がいるわけではない」(ゼンショー20代後半の男性社員、年収467万円)

 「報酬の額は十分満足のいくものである。しかしながら、労働時間を考えれば、もっともらえてもよいと思う。深夜手当はつくが、その他の時間の店舗運営に関しては特別手当がつかなかった。ボーナスは十分に支払われ、満足のいくものだった」(松屋フーズ20代後半の男性社員、年収380万円)

 当たり前のことだが、サービス残業が横行する外食産業では、まだまともと言えるだろう。そのほかのチェーンはどうだろうか。

 「長い勤務時間の割には報酬は少なめである。また深夜、早朝、昼、夜など勤務体系がバラバラなので生活は不規則になりがちである。査定も評価軸がイマイチ曖昧であるので不満はかなりあった」(吉野家HD、20代後半の男性派遣社員、年収144万円)

 「なか卯は安いです。なぜなら、労働時間がかなり多いからです。しかも、管理職扱いになるので残業が出ません」(なか卯20代前半の男性社員、年収360万円)

 また、「店長は忙しくて勤務時間が長く休みがとれない」という悩みは、どのチェーンでも共通している。

 「突如として出勤させられる。1ヶ月30日連勤している人もいる。その人はもう辞めたが。仕事量がとにかく多く、しかも把握しきれていない。社員数が足りておらず、1人の社員が数店舗掛け持ちの店長をしている。よって把握しきれない。クレーム対応なども掛け持ちなので、もうなにがなんだか分からなくなる」(ゼンショー20代後半の女性社員)

 「基本的に残業や休日出勤は避けられません。店舗の状態によっては深夜勤務や通し勤務(朝+夜・夜+深夜)も頻発しますし、年末年始やGW等の繁忙期は人員の確保すらままならないため、丸一日店舗に張り付く形になります」(吉野家HD、20代後半の男性社員)

 「バイト次第で自分の休日が変わり、自分の予定が非常に立てづらい。基本接客業なので、人が好きでなければつらいと思う。深夜勤務の時は、14時間くらい働くこともざらにある」(松屋フーズ、30代前半の女性社員)

 「休めない。365日24時間営業中であるのでお盆や年末年始に休むことはできない。また、アルバイトの欠員を埋めるため34時間連続で働いたこともある。残業代は出ることは出るので給料は良くなるが、人のする事ではないと思う」(なか卯20代前半の男性社員)

 さらに、多かったのが「激務」「体力勝負」「体育会系」という言葉だ。

 「一言で言うと超体育会系。社訓がいくつもあり、全て精神論の世界。体力があれば何でもできるという考え。倒れてからやっと休みをもらえるという状況。体調不調でこれ以上働けないという理由で退職する人が多々」(ゼンショー20代後半の女性社員)

 この会社の企業理念は「世界の飢餓と貧困を撲滅する」というノーベル平和賞がもらえそうな立派なものだが、会社の実態はどこかの独裁国家とあまり差はなさそうだ。


昇進試験に受からないと出世ができない?

 牛丼チェーンの正社員のキャリアパスは、直営店の店長を務めた後、直営店、FC店を統括するスーパーバイザーになり、実績をあげれば本部スタッフに引き上げられるというものだ。

 外食産業では一般的な人事システムである。早ければ20代前半で店長を任されて“管理職”になる。だが、その後のキャリアはどうなのだろうか。例えば、ゼンショーHDでは「昇進試験がすべて」と20代後半の男性社員は述べている。

 「完全実力主義で、定期昇進試験に合格しないと昇進及び昇給はしません。しかも、定期昇進試験は3カ月に一回行われ、4回落ちると一生そのままの役職でそのままの給料です。他社みたいに年齢で役職が上がっていくことはないので年功序列が良い方にはお勧めしません」 これは吉野家でも松屋でもなか卯でも基本的には同じで、よく言えば人事が近代化されている。ただ、上司のお気に入りしか出世できない情実人事が横行する会社よりは良いのかもしれない。

 牛丼チェーンは、「価格」を軸にした、まさに弱肉強食の競争社会だ。なか卯ゼンショーが商社から買収し、すき家とのダブルチェーンで運営している。社員は買収された側の企業の悲哀を味わっているようだ。かつて店長を務めていたという元社員の女性はこう言う。

 「今や、親会社はゼンショーすき家メニューになってきており昔のなか卯の味が消されていく感じで・・・もちろん人事も変わり体制も大きく変わりました。とくに大きかったのは牛丼の味、たれ、具の中身等ですね。全体的に寂しい感じがします」 一方、「松屋」の女性店長は、社員の視点から最近の低価格競争をこう見ている。

 「近年のデフレ状況の中、激戦化する『牛丼戦争』に勝ち抜くためには、どうしても人件費削減が必要となっています。当然ですが一人当たりの負担が増え、サービスの低下、増加するクレーム処理と悪循環になっています。スタッフのモチベーション低下が否めません。お客様の満足はもちろんですが、もっと従業員の満足も考えてほしいと思います」(松屋フーズ20代後半の女性社員)

 低価格戦争が激化すればするほど、社員一人ひとりの負担とストレスは重くなっていく。お客さんは牛丼を安く食べてスタミナを補給できても、社員はスタミナ切れ寸前だ。


牛丼チェーンは「三国志時代」

 牛丼チェーン業界は、BSE騒動の洗礼や低価格競争で、「どんどん」(友伸フーズ)、「牛丼屋さかい」(さかい)、「牛丼太郎」(深澤)などのチェーン店が消え、トップ4(3社)の寡占状態になった。しかし、最近になって果敢なチャレンジャーが出現した。

 それが三光マーケティングフーズだ。2011年6月に初出店した「東京チカラめし」で、首都圏を中心にFC方式によって1年で100店舗以上の大量出店を行って話題になっている。

 メニューは、他チェーンのような煮込んだ牛肉ではなく焼いた牛肉を乗せる「焼き牛丼」で、価格は並が290円でみそ汁サービスする。財務基盤が脆弱で相当無理をしていると指摘されるが、居酒屋チェーンという異業種から参入してきた新興勢力の登場で、トップ4の地位も決して安泰とは言えなくなってきた。

 そのトップ4も、「低価格の維持」という面で将来に向けて問題を抱えている。輸入牛肉はBSE問題以来の米国産の月齢規制がさらに緩和され価格が安くなる方向だが、円安が進めば相殺される。

 また、国内産米が全体的に価格が上がっており、コストアップにつながりなりかねない。だが、安い輸入米の使用には消費者の抵抗感が強い。その他にも出店費用や人件費の上昇や値引きキャンペーンなど、コスト増の要因は多く、それに消費税の増税が追い打ちをかけようとしている。

 こうした状況で牛丼チェーンは、売り上げは伸びていても利益が出せない産業になっている。例えば、吉野家HDは、かつて10%以上の営業利益率を誇っていた。しかし、2013年2月期業績見通しでは2%まで減少した。消費者は低価格に慣れきっており、牛丼チェーンは、今後もやせ我慢での価格設定が続きそうだ。

 そうなると企業戦略の要となるのは、「店舗増によるスケールメリットの追求」で、輸入牛肉や国内産米のような原材料の仕入価格を下げて利益を確保することになる。これは、もう一つのデフレの象徴である家電量販店の戦略と全く同じだ。

 その家電量販店は今、上位企業同士の業界再編の嵐が吹き荒れている。ゼンショーHD、吉野家HD、松屋フーズが天下に覇を競う「牛丼三国志」は、「東京チカラめし」という“異民族”の捨て身の攻撃による刺激も受けながら、いずれどこかに統一されてしまうのだろうか。

 


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