中国国家統計局が昨年12月31日に発表した12月の製造業購買担当者指数(PMI)は49.4と、2016年初め以来の低水準となり、重要な節目である50を割り込んでいます。製造業PMIを構成する指数のうち、将来の需要動向を示唆する新規輸出受注も46.6となりました。

同様に、12月27日に発表された11月の工業利益統計は、前年同月比で1.8%減の5950億人民元(約9兆5800億円)と、ほぼ3年ぶりに前年割れとなりました。米国との貿易摩擦の影響や先行きの不透明感から、企業収益に影響が出ていることが見て取れる内容となっています。

市場では、この発表を受けて中国経済の先行きに対する厳しい見方が強まり、特に米国債市場での長期金利の低下と、それを受けて為替市場での米ドル売り・円買いが進みました。ただ、12月の非製造業PMIは53.8と11月の53.4を上回っており、中国政府の景気刺激策が効果をもたらし始めた可能性も示唆しています。

また、工業利益も1-11月で見ると前年同期比11.8%増の約6兆1200億元で、製造業では9.9%増と高い水準であり、単月だけの結果で過敏に反応しすぎることは控えたほうが良いのではないでしょうか。

確かに、中国経済の2018年成長率は2017年の6.9%から、6.4%へと低下する見込みです。しかし、習近平国家主席が大晦日に行った定例演説の内容からは、中国政府が短期的な経済のダウンサイドリスクに対応することへのコミットメントは、相当に強いと見るべきでしょう。

習主席は「様々なリスクや課題があるものの、中国は質の高い発展を目指して経済政策を実行し、成長のけん引役の交代を加速させると同時に、主要な経済指標を合理的なレンジ内に維持してきた」と2018年の実績を評価した上で、2019年は、経済成長の急減速を回避するために、既に発表した企業向け減税を実施すると述べました。

李克強首相も、4日、市中銀行の預金準備率の引き下げや減税、政府の手数料の削減を発表しました。ちなみに、中国政府は既に、1兆3000億元(約21.3兆円)規模の減税や、国内インフラ投資のための約2000億米ドルの特別債の発行に動いています。

加えて、中国人民銀行(中央銀行)は2018年内に、預金準備率を4回引き下げましたが、2019年早々から一段の引き下げに動き、金融緩和姿勢を継続しています。

中国政府は、中国経済の成長率の低下を受け、また米中貿易摩擦からの短期的な影響を抑えるべく、一段の経済対策を取る姿勢を明確にしています。経済対策へのコミットメントは強く、中国経済の先行きに対する厳しい見方がより強まる状況になれば、追加政策の発動の可能性も高まると思われます。

中国経済の抱える長期的な課題とは?

長期的には、中国が抱える経済的な課題は2つあります。

ひとつは「新常態」、すなわち内需主導型の経済への移行という課題です。改革開放の時代からの輸出主導型の経済発展という経済構造からの脱却を進め、消費主導型の経済発展の実現と貿易黒字の削減に取り組むことは、米国が仕掛ける貿易摩擦を通じた圧力だけが理由ではなく、本質的に中国経済が長期的に成長していくためには不可避な課題であり、中国の利益にかなうものです。

輸出依存からの脱却に加えて、もうひとつは、特に地方政府や国営企業に見られるような債務比率の多さをいかに改善するかという課題です。抱え込んでいる累積債務を早期に処理し、債務依存の体質から脱却することには取り組んできていますが、なかなか解消する途は容易ではありません。

現実に、経済成長率が足元で低下する中では、意図に反して「国進民退(国営企業は発展して、民間企業が衰退する)」が進んでしまったり、国家が経済を主導する「計画経済」に回帰することで困難な局面を乗り切ろうとしてしまうのかもしれません。これらには、既に一部に批判が出ていますが、長期的な課題解消への姿勢は不変でしょう。一時的には社会の信用力が低下することもあり得ますが、資金の流れを維持しながら改革を進めていくことになるでしょう。

さて、年明けからは、2月末を期限とする米国との通商協議が本格化する予定です。中国政府にとっては、今年の流れを決めるヤマ場をいきなり迎えることになるでしょう。トランプ米大統領と習主席は昨年12月1日の首脳会議で、米中の貿易摩擦をこれ以上過熱させないようひざ詰めで協議することに合意しました。

中国政府は合意後、米国製自動車に対する報復関税を撤廃し、700品目余りの輸入関税を引き下げたほか、米国産原油と液化天然ガス・大豆の購入を再開するなど、輸入拡大策を次々と打ち出しています。昨年末にも、一部の輸出入品目の関税を2019年に撤廃する方針を明らかにして輸入促進の姿勢を示し、その本気度が十分うかがえる行動をとってきています。

また、知的財産権の侵害との米国の訴えに対しても強制的技術移転を防止するための法案を起草することに着手して、応じてきています。

ただ、貿易摩擦の解消には時間がかかります。実際に、中国の足元の貿易黒字は、関税適用前の駆け込み需要もあり、むしろ増加している有り様です。かつての日米貿易摩擦がそうであったように、議論と妥協を繰り返し、思うようにはついてこない黒字削減の成果に繰り返し向き合い、解消には、長い時間を要するプロセスとなるでしょう。

中国経済のダウンサイドリスクへの手当てを短期的に施しながら、米国からの圧力をやり過ごし、長期的な経済課題に取り組むという中国政府の経済政策は、2019年も引き続き難儀なものであることは間違いなさそうです。