Valveは、2018年のSteamを振り返る記事「2018年を振り返って」発表した。ストア、コミュニティ、プレイ環境の拡張など、さまざまな変更が加えられた2018年を振り返りながら、2019年の目標を記している。「真の意味でのオープンプラットフォームの構築」を目標とした2018年は、SteamとValveにとって試行錯誤の年だったと言っていいだろう。

 2018年にはついにSteamに登録されたゲームが3万本を超えた。DLCやデモを除いたゲーム本編のみの数字だ。非公式の統計調査サイトSteamSpyによれば、2017年に約7000本、2018年に約9300本のゲームがリリースされているという。つまり、現在Steamで売られているゲームの半数以上がここ2年で発売されたことになる。それに伴いデータ配信量も増え続けており、2014年から2018年で約4倍の15エクサバイト以上のデータが配信されている。

(画像はSteam「2018年を振り返って」より)

 2017年といえばSteam Greenlightが廃止され、Steam Directがスタートした年だ。Steam Greenlightではリリースするためにはユーザー投票で票を集める必要があったが、Steam Directは直接Valveに必要な書類や預り金を提出することで、Steamでの発売のための審査を直接受けることができるようになった。

 Steam Directの効果は顕著だった。SteamSpyの統計を確認すると、Steam Directがスタートするまでは月平均で500本以下だったゲームリリースのペースが、6月からは平均で700本を超え、多いときでは800本以上のゲームが1ヶ月のうちにリリースされている。

Steamで「hentai puzzle」を検索してみると似たようなシステムで似たような価格のゲームが大量にリストアップされる。中には権利関係が怪しいものも確認できる。
(画像はSteamより)

 ゲームのリリース本数の増加は単純に良いことだけではなく、負の側面も少なくない。リリース審査の単純化はHentai」系のゲーム【※1】や、俗に「アセットフリップ【※2】と揶揄される低品質ゲームの氾濫を巻き起こしていることは、知っている方も多いだろう。

※1:2018年5月に発売されたYourFaveAnime Studioの『Hentai Puzzle』ヒットが大量のフォロワーを生んだ。性的な絵を使い、3×3のパズルのような単純なゲームで、大量の実績やSteamトレーディングカードに対応する低価格なゲームといった傾向にあるゲームを指す。

※2:アセットストアで配布されていると思われる似たような素材を大量に使ったゲーム。ゾンビサバイバルやバトルロワイヤルルールのマルチプレイシューターのような、既存のルールをそのまま使ったオリジナリティが低いとみなされるようなゲームが特に「アセットフリップ」と揶揄される傾向にある。

(画像はSteam『THE DUST: PIXEL SURVIVAL Z BATTLEGROUND』より)
(画像はSteam『SurvivalZ Battlegrounds』より)

 粗製乱造されたゲームと、情熱を持って作られたがどうしても低品質になってしまったゲームをどうやって切り分けるかは難しいところではある。開発規模によっては、どうしても既成品のアセットに頼らざるを得ないこともあるだろう。しかし、こういった粗製乱造の動きはSteamにとってもユーザーにとっても、良い方向に動くことはまず無いだろう。

 この他、Valve偽ゲームと呼ばれるソフトウェアへの対策にも力を入れていることを発表している。リアルマネーで売買できるSteamトレーディングカードのシステムを悪用したゲームや、単純な操作で大量の実績が解除されるような、Steamのシステムを悪用するソフトウェアが偽ゲームに当たる。

 偽ゲームへの対策は、Steamの仕様変更やValveの調査によって行われているが、『Wandersong』などシステムを悪用しない真面目なゲームが誤って配信停止になるようなバグも発生している。

(画像はSteamより)

 大量のゲームリストは、もはや個人的にチェックして回る事ができる領域を超えている。そのため、Steamからゲームをおすすめするディスカバリーやキュレーション、ナビゲーションシステムも精力的にアップデートが続いている。ただし、デベロッパーを含めたすべてのユーザーが満足できるサービスになるにはまだ足りない点もある。

 2018年10月には、Steamディスカバリーのアルゴリズム変更によりトラフィックが激減したことが、とある開発者から報告された。12月にValveは声明を発表し、このアルゴリズムにバグがあったことを公式に認めた。こちらも試行錯誤が繰り返される段階だと言えるだろう。

(画像はSteam「2018年を振り返って」より)

 Valveの発表によれば、Steamの2018年の月間平均アクティブユーザーは9000万人となっている。Steamは現在1ヶ月の間に700本のゲームを審査しながら、3万本のゲームリスト管理し、9千万人の異なる嗜好を持ったユーザーに向けてゲームを届けるという、巨大なプラットフォームとなっている。言語や現地通貨、決済業者への対応も進められ、日本を含めた45カ国ではSteamウォレットカードによる現金決済にも対応した。

 Steamが配信するPCゲームは、コンソールゲームと違ってシステム構成からパソコンに接続された機器まで千差万別だ。ユーザーが9千万人いれば、9千万通りの組み合わせがあると言っても過言ではない。

 2018年8月にはゲームを購入すればすべての対応OSでゲームがプレイできる新バージョンの「Steam Play」が公開された。Windows用ゲームをLinuxで動かすためのソフトウェアだが、コミュニティのテストから3400本以上のWindows用タイトルがLinux上でも動作したことが報告されているという。

(画像はSteam「2018年を振り返って」より)

 PCゲームでは利用されるコントローラーも多種多様だ。PlayStation、XboxNintendo Switch、そしてSteamコントローラーを利用する3670万人ものプレイヤーが、Steamでゲームをプレイしている。Steamに登録されたゲームで共通した入力を実現するSteam入力のアップデートも続いている。

PCでもっとも使われている操作コントローラーは? Steamの統計データをValveが公開

 

(画像はSteamより)

 2017年については、こういった1年を振り返る記事はリリースされなかった。しかし、これまで内部で処理していた部分をあえて公開することで、特に近年不透明であることが危惧されていたSteamの内情を示し、広く理解を求めていく姿勢を見せる方向にかじを切ったと見ることができる。2018年はValveとSteamにとって、まさに激動の1年だったと言えるだろう。

 2019年、ValveはSteamのストアに機械学習を利用して、よりユーザーの嗜好に合致したゲームをおすすめするエンジンを実装する予定となっている。コミュニティ運営にも力を入れるようで、新たなイベントシステムやライブストリーミングの強化も目標として挙げられている。「2018年を振り返って」の記事の最後には、新たな人材を求める言葉も添えられている。

 大手、インディデベロッパーによる脱Steamの流れも起きる中、大きな転換点となった2018年を超え、2019年にValveはSteamをどのようなサービスにするのだろうか。

ライター/古嶋 誉幸