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「働き方改革」のかけ声もどこ吹く風、世はいまだブラック企業の花盛りだ。残業の証拠を自動で残せるスマホアプリ「ザンレコ」を提供する株式会社日本リーガルネットワーク社は、17日、第2回ブラック企業エピソード募集の大賞エピソードを発表した。

今回は「ブラック企業からの転職」をテーマに、脱出が成功したケースに焦点を当てて募集が行われた。

 

■サービス残業は100時間超え

大賞に選ばれたのはペンネーム「雑煮」さんの投稿。東京都に住む30代女性による、以下のようなエピソードだ。

「毎月100時間以上のサービス残業は当たり前、人手不足でも雇ってもらえず、不足分は全て自分がカバーして出勤。1ヶ月休みがないことは当たり前、ひどい先輩は、会社が休みになる元旦から4日以外は全て出勤していました。

 

本来5人で回す仕事を1人で行っていたので、朝の7時から出勤し、店に泊まり込んでいました。閉店後に床にダンボールをひき、ダンボールと作業着をかけて眠り、朝方荷物が運ばれてくる3時から起床し仕事をしていました」

 

とくにタイムカードの不当な使い方が、サービス残業につながっていたようだ。

「タイムカードはありましたが、定時になると全員タイムカードを押しに行き、また仕事を続けていくよう上司から言われていましたので、意味はありませんでした。定時五分前にアラームをセットして押しに行くのです。そのあと何時間残業しようとも意味はありません。

 

現職では定時が15分でも過ぎればきちんと加算されます。残業も前職に比べて月20時間まで減り、転職当初はこんなに休んでは責められるんじゃないかと(普通に出勤しています)眠れない日々が続くほどで、責められたらどうしようと強迫観念に襲われて、休みの日も自宅で事務仕事をしていました」

 

■インフルは「気合で何とか」

サービス残業だけでなく、健康管理についてもとんでもない状況だったようだ。

「また、インフルエンザにかかったときも、前職では『気合いで何とかなる』と出勤を強要され、フラフラで出勤し倒れるまで仕事をし、翌日一日のみ休んだものの電話が鳴り止まず『自己管理ができていない、寝食忘れて仕事をするくらいの気合いがあれば体調を崩さない』などと言われたのですが…現職は有給で1週間休み、フォローもきっちりしていただきました。

 

これが本来の会社なのか、仕事は休んでもいいのか、誰かに仕事を任せてもいいのか、有給は名前ばかりの夢物語ではないのか。色々な意味で驚きました。

 

前職では慢性的な人手不足に加え、社長以外は管理職含め全員が休みなしで働いている状態だったため、中小企業の会社だから仕方ないと思っていました。休みや残業手当がつくのは大企業だけだと本気で思いこんでいたのです」

 

投稿者の女性は体調を崩したというが、不幸中の幸いだったのかもしれない。

「仕事中パソコン前で亡くなった上司、仲の良かった同僚も2人過労で亡くなっています。今ならおかしいと思えるのに、当時は麻痺していたのか訴える気持ちも起きませんでした。

 

結局ストレスによる病で前職は退職に追い込まれましたが、結果として病気には感謝しています。現職はかなり恵まれていますし、休日ゆっくりすることで心身ともに余裕ができたためか、小さな体調不良も解消しています」

■弁護士の見解は…

早野述久弁護士

この企業の場合、法的にはどのような問題があったのだろうか。鎧橋綜合法律事務所の早野述久弁護士に聞いたところ…

早野弁護士:朝7時から出勤して店に泊まり込んで翌朝まで仕事をしているのに、定時になるとタームカードを押させられるという前職の異常な労働環境に驚きを禁じ得ません。前職の労働環境には以下のとおり多数の法的問題が含まれています。

 

(1)過労死基準を超える長時間のサービス残業

早野弁護士:まず、雑煮さんの職場では、いわゆる過労死基準である1ヶ月100時間の残業を超える長時間労働が行われています。これが原因で労働者が疾病を発症したのであれば、当然会社の安全配慮義務違反(損害賠償責任)が認められます。

 

本件では、雑煮さんがストレスで病気になられたとのことなので、その因果関係の立証は必要になりますが、このレベルで長時間労働をさせていた会社の責任が認められる可能性は高いでしょう。過労で亡くなった上司や同僚の方も同様です。

 

勤めているのが中小企業だったとしても、会社はそれを言い訳にすることはできないという。

早野弁護士:また、雑煮さんのエピソードからすると、このような長時間労働のほとんどがサービス残業であり、残業代が支払われていなかったようです。

 

残業代や休日手当の支払いは原則としてすべての企業に適用される法律上の義務であるため、中小企業であるからといって支払わなくてよいということにはなりません。

 

さらに、定時になると社員全員に虚偽のタイムカードを打刻させていたということについては、会社自らが労働時間把握義務(労基法108条)の履行を意図的に放棄し、社員の労働実態を隠蔽する行為であるため違法性が高いといえます。

 

おそらく36協定の上限を超える残業による労働基準法32条違反も認められるでしょう。これらの法令違反については、6ヶ月以下の懲役又は30万円以下の罰金が科せられることになります(労働基準法119条1号)。

(2)インフルにかかっても出勤を強要

有給の取得や健康管理についても、違法性が高い。

早野弁護士:労働者は、原則として有給休暇を自由に取得することができ、会社が有給休暇を取得する日の変更を求めることができるのは、事業の正常な運営を妨げる場合に限られています(労働基準法39条5項)。

 

インフルエンザにかかっているのに、有給をとらせず出勤を強要するなど言語道断です。その上に「自己管理ができていない、寝食忘れて仕事をするくらいの気合いがあれば体調を崩さない」などと述べて叱責する行為はパワハラにあたり違法となり得るでしょう。

 

この場合、上司のみならず会社も損害賠償責任を負いますし、有給取得の妨害について6ヶ月以下の懲役又は30万円以下の罰金が科せられる可能性もあります(労働基準法119条1号)。

 

(3)ブラック企業に就職してしまったらすぐ転職を

早野弁護士:雑煮さんは転職後も強迫観念に襲われるなど、ブラック企業の恐ろしさを感じさせる内容ですが、同じ小売業で恵まれた職場に出会えたことは、現在もブラックな労働環境に苦しむ方の転職の後押しになるエピソードではないでしょうか。

 

大賞エピソードおよび2位〜7位の体験談は、日本リーガルネットワーク社の公式サイトに掲載中。また、その他のエピソードについてもこちらのリンクで見ることができる。

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(文/しらべぇ編集部・タカハシマコト

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