社会派ドラマからのまさかのホラー、からの「居心地ワル~」でハイ終了!…っていう展開が衝撃的すぎた「ジュリアン」。ドメスティック・バイオレンスを扱う本作で長編デビューを飾ったフランスの新鋭グザヴィエ・ルグラン監督が、第74回ベネチア国際映画祭・監督賞に輝いた話題作なんです。離婚した父と母の板挟みになり、父の”人質”化しちゃうジュリアン君...。繊細な人間模様をすくい取ると同時に、彼の”自己犠牲”が全編に緊張感をもたらす、練られた1本でした!

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主人公は、両親の離婚により、母ミリアム(レア・ドリュッケール)と姉と共に暮らすことになった11歳の少年ジュリアン(トーマス・ジオリア)。裁判所の取り決めで幼いジュリアンの親権は共同となり、彼は隔週の週末ごとに別れた父アントワーヌ(ドゥニ・メノーシェ)と過ごさねばならなくなります。ミリアムは頑なにアントワーヌに会おうとせず、電話番号さえも教えない…。一方アントワーヌは、共同親権を盾にジュリアンを通じてミリアムの連絡先を突き止めようとします。ジュリアンは母を守るために必死で父に嘘をつき続けますが、それが父の不満を募らせていき…、というお話。

ヒールの音がコツコツと響く導入に始まり、離婚調停での形式的会話(15分超!)が捉える”言葉”というほとんど無力な音、シートベルトのアラームやエレベーターの音…。ルグラン監督が、ジュリアン同様に観客を過敏にさせ、普段は気にも留めない生活音で神経を刺激しまくるのよねぇ。無音と騒音のコントラスト&長回しショットの相乗効果で、ラストも怖さも尋常じゃない(泣)。フランス映画独特の音使いの巧さが、また進化してるー。

ヒッチコックシャブロル、ハネケら名匠の名が上がる本作ですが、些細な事で移ろい破壊される儚い感情の表現にはカサヴェテスも感じました。父のハグに苦虫を噛み、父方の祖父母の前で笑みをもらし、「くそったれ」とふてくされ、激高する父に引きつっちゃう(ジュリアン役のトーマス君の好演は役者デビューとは思えない!)…。その小さな心の葛藤をサイコスリラーと共存させ、深刻な社会問題にインパクトをもたせた手腕…、恐るべし。

冒頭&ラストの”傍観者の視点”にもドキッとさせられちゃった。冒頭の離婚協議では、夫婦の見解が異なり、どっちの味方をすべきか悩ませます。この時点では、やたら子供愛を語る父がいい人にも見えて…。裁判官ともどもうっかりだまされ、ジュリアンが「あの男に二度と会いたくない」と訴える手紙をうやむやにしてしまう。無責任にも。ラストはさらに象徴的で、ママに見つめられて扉を閉めてしまう”隣人”を使い、我々に得も言われぬ罪悪感を植え付ける。そしてその瞬間に、現実世界へと放り出されるのです。

実は…、グザヴィエ・ドラン作品と勘違いして観たんですよね、コレ(私だけじゃないよね?)。人違いが功を奏して、素晴らしい逸材の発見に至り、結果オーライでしたけどね(笑)。ドランには負けるけど、こちらも兼俳優ってことで容姿も端麗+大人の色気もバッチリのルグラン監督。早速、”才能あるイケメン”リストに登録させていただきましたっ。【東海ウォーカー】

【映画ライター/おおまえ】年間200本以上の映画を鑑賞。ジャンル問わず鑑賞するが、駄作にはクソっ!っとポップコーンを投げつける、という辛口な部分も。そんなライターが、良いも悪いも、最新映画をレビューします!  最近のお気に入りは「THE GUILTY ギルティ」(2月22日公開)のヤコブ・セーダーグレン!(東海ウォーカー・おおまえ)

ルグランの初監督作であり、アカデミー賞短編賞候補にもなった「すべてを失う前に」(’12)を長編化した本作。ジュリアン役を除き、キャストも続投です!