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「小麦は政府が海外から輸入し、それを各メーカーに割り振っています。輸入小麦を使っているかぎり、どのメーカーの小麦からも検出される可能性があります」

そう言って、測定結果を示すのは、「食と農から生物多様性を考える市民ネットワーク」の小野南海子さん。小野さんと「日本消費者連盟」の纐纈美千世さんたちがスーパーで販売されている、大手製粉会社の「日清フーズ」「日本製粉」「昭和産業」3社の小麦製品を調査したところ、12商品中5つから除草剤「ラウンドアップ」の主成分であるグリホサートが検出された。

WHO(世界保健機関)の専門組織、国際がん研究機関は、グリホサートの発がん性を認めている。

「私たちは、日々、パンやうどん、パスタ、お菓子などを食べています。さまざまな食材の原料に使われているそのような小麦製品から除草剤グリホサートの成分が、微量ながら検出されました。厚労省が定めている残留基準値以下なので違法ではありませんが、毎日のように口にするものなので、安全とは言い切れません」(纐纈さん)

アメリカで食の安全を訴えている「デトックス・プロジェクト」の調べでは、小麦を使用したさまざまなスナック菓子からもグリホサートが検出された。加熱しても分解されにくいことがわかる。

「昨年は、グリホサートが原因で悪性リンパ腫を発症した、という米カリフォルニア州の男性の訴えを裁判所が認め、発売元のモンサント社(現・バイエル社)に対し、約320億円(その後、約87億円に減額)の支払いを命じる判決も出ています。アメリカでは、同様の裁判が約8,000件も起きているのです」(纐纈さん)

こうした事態を受け、アメリカの一部のスーパーやホームセンターでは、店頭からグリホサートの成分を含む除草剤を撤去する動きが出ている。ヨーロッパでも使用を規制する動きが高まっている。

今回、製粉メーカー大手3社の製品から、グリホサートが検出されたが、すべての小麦製品を調べたわけではない。また、残留農薬を測定している農民連食品分析センター(以下、農民連)によると、グリホサートが検出されたのは小麦だけではない。

フランスをはじめ、日本が世界中から輸入しているワインからも、ごく微量ながらグリホサートが検出されています。ぶどう園や、りんご、なし園などでも除草剤として散布されているからです。それが果肉にも付着したのでは」(農民連・八田純人さん)

ほかにも、なたね油の搾り殻や、飼料の綿実などからも、グリホサートが検出されていた。気になるのは、人体への影響だ。国際農薬監視行動ネットワークアジア・太平洋(以下、PAN)の日本代表で、元・国際基督教大学教授の田坂興亜さんは、こう警鐘を鳴らす。

「発がん性以外にも、リスクが指摘されています。グリホサートは、“内分泌攪乱物質”のひとつとして指摘されており、子宮内に入ると、胎児の男性ホルモンの働きを阻害するのです」

PANが’16年に出版した報告書がある。そこには、マウスの実験で米国政府が大豆にグリホサートの残留基準として設定している濃度の40分の1である0.5ppmであっても、アンドロゲン(男性ホルモン)の働きを阻害したという研究論文が紹介されている。

「そうなると、精子数の減少といった問題にもつながる可能性が。今回、測定した小麦から検出された値は、0.5ppmより高いものもありますから、人間に対しても、影響がないとは言いきれません。脳科学者の黒田洋一郎氏は、グリホサートは強い神経毒性を持っているので、発達障害の一因になっている可能性があると語っています」(田坂さん)

厚労省’17年12月にグリホサートの残留基準を引き上げた。小麦で6倍の30ppmに、品目によっては400倍に、である。元農林水産大臣で弁護士の山田正彦さんは、理由をこう語る。

’18年末に発効されたTPP(環太平洋パートナーシップ協定)に加盟するため。TPPでは、貿易の障壁を取り除くために、残留農薬や食品添加物の基準は、世界的な食品規格である“コーデックス基準”に合わせることになっています。しかし、このコーデックス基準がくせもので、決定する構成員の大半がグローバル企業の代表者ですから規制基準が甘いのです」

TPPは、太平洋に面する国々による自由貿易を推進する協定。貿易の支障になる物品の関税を下げたり、企画に有利になる知的財産権を強化したりしている。

山田さんは、厚労省が残留基準値を引き上げたのも、グローバル企業が貿易しやすくするためで「ここまでなら安全」という基準値ではない、と警鐘を鳴らす。

厚労省に見解を求めたところ、「基準値の改正を行った際、ウェブサイトに詳細な説明を公表しているので参照してほしい」という回答があった。公表資料を見ると、次のようなものだった。

内閣府食品安全委員会が行った食品健康影響評価によると、グリホサートには、神経毒性、発がん性等は認められなかったとされています。残留農薬については、科学的知見に基づく評価が行われ、人がその物質を一生涯にわたって毎日摂取し続けても健康への悪影響がないと推定される1日当たりの摂取量が設定されています」