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  量子コンピューターは今やコンピューター科学の一大トレンドである。

 意外にも結構前から存在しており、その第一号が開発されたのは1997年のこと。クロロホルム分子の核磁気共鳴に使われた。あと10年で、史上初の完全な量子コンピューターが完成すると言われている。

 最近もIBMが商用量子コンピューターを発表というニュースが伝えられたが、今後は”量子”というキーワードに注目してもらいたい。

 現在の時点では、その利用例は数えるほどだが、その効果は想像を絶している。

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10. がん治療の改善

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References:First application of quantum annealing to IMRT beamlet intensity optimization

 世界でも主要な死因として毎年大勢の人ががんで亡くなっているが、初期のものであれば治る可能性は結構高い。

 がん治療にはいくつもの方法があり、ぱっと思い浮かぶのは外科手術による切除だろうが、放射線治療もまた一般的な方法だ。

 放射線治療で大切なことは、放射線ビームを最適化して、がん周辺にある健康な細胞や組織への損傷を可能な限り抑えることだ。

 これを行うために、従来型のコンピューターを利用したいくつもの方法があった。

 だが2015年、米ロズウェル・パークがん研究所の研究者によって、世界初の商用コンピューターを謳う「D-Wave」で、これまでよりも速度を3~4倍向上させる方法が考案された。

9. 交通渋滞の改善

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References:dwavesys

 毎日の通勤や通学で渋滞に巻き込まれてうんざりしている人も多いだろう。この問題にはあのグーグルも取り組んでおり、交通をモニターして、空いているルートを示す技術が開発されてきた。

 だが、フォルクスワーゲンによって次世代の技術が登場した。それは2017年に行われた、交通をモニターするというよりは、交通の流れ自体を最適化するという試みだ。

 そのために量子アニーリングコンピューターでQUBO(Quadratic Unconstraint Binary Optimization/二次制約なし二値最適化)を行い、設定された車の台数と可能なルートから最適なルートを見つけ出すという実験が行われた。

 実験は、北京を走るタクシー1万台を対象としており、従来型コンピューターによる結果よりもスムーズな走行ルートを提示することができたと主張している。

 しかしフォルクスワーゲンがD-Waveを採用していたために、この実験結果を疑う声もある。というのも、多くの専門家がD-Waveでそのような高速化が可能とは考えていないからだ。

8. モバイルデータの受信エリア

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References:dwavesys

 スマホがなかなかつながりにくい場所もある。そんなとき、近くのカフェに入って、重たいWi-Fiを使うのも一つの手だ。

 だが、ブーズ・アレンハミルトンという会社が考案してくれた解決策の方がもっとスマートだろう。

 同社による2017年の研究では、最適化された衛星受信サービスエリアを見つけるのは非常に難しいと述べられている。その組み合わせがいくつもあり、従来のコンピューターではそのすべてを確認しきれないからだ。

 ところが先ほど述べたD-WaveでQUBOをすれば、最適な衛星サービスエリアを特定することができる。

 だからといって電波の弱い地域のすべてで受信状態が良くなるわけではない。それでも、うまく電波がつながるスポットを発見できる可能性は飛躍的に上がるだろう。

7. 分子のシミュレーション

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References:technologyreview

 生物学や化学の分野では、分子シミュレーションがきわめて重要で、分子構造やそれらの相互作用を理解したり、新しい分子を発見したりするには不可欠だ。

 従来型コンピューターでもそうしたシミュレーションは行えるかもしれないが、その複雑さゆえに限界がある。

 だが量子コンピューターならばそのハードルをたやすく乗り越えられる。

 これまでのところ、水素化ベリリウムのような小さな分子のシミュレーションにしか試されたことがない。

 それでも、それが7量子ビットのチップで行われたという事実は、もっと多くの量子ビットが利用可能になれば、超複雑な分子ですらシミュレーション可能になることが窺える。

 量子コンピューターの処理能力は、量子ビットが増えることで指数関数的に向上するのである。

6. 暗号を破る

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References:springer

 量子コンピューターが登場したらRSA法やDSA法のような暗号技術は破られるのではないかと懸念されている。

 これは素因数に基づき暗号鍵を生成する一部の暗号技術についてはその通りだ。

 「ショアのアルゴリズム」というアルゴリズムを量子コンピューターで走らせれば、鍵を生成するために使われた素因数を効率的に見つけ出すことができる。

 だが素数に頼らない暗号技術もある。それについても「グローバーのアルゴリズム」を使えば、従来型コンピューターよりも早く鍵を発見できるかもしれない。

 ところが、それによる効率化はショアのアルゴリズムほどではない。したがって、これらの暗号技術については、既存の量子コンピューターよりもずっと速い機体が必要になるだろう。

 また、そうした高度な量子コンピューターが開発されたとしても、突破不能な暗号技術がある。それは「ポスト量子暗号技術」を利用したものだ。

5. より人間らしいAI

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References:neuralnetworksanddeeplearning

 コンピューター科学では人工知能も大流行りだ。機械学習やニューラルネットワークを通じて、もっと人間らしいAIをと研究が続けられている。

 どこか恐ろしさも感じるが、量子コンピューターならその次元を一つ引き上げることだろう。

 ニューラルネットワークマトリックスに基づくデータセット上で稼働し、行列代数によって計算される。

 一方、量子コンピューターの演算は本質的に、マトリックスを利用して、量子ビットの量子状態を定義・決定するようになされる。

 そのために、ニューラルネットワーク上の演算処理と量子ビット上の変換量子ゲートの利用とはよく似ているのだ。ゆえに量子コンピューターはAIに組み込まれているニューラルネットワークにはぴったりなのである。

 それだけでなく、量子コンピューターなら機械学習の速度を飛躍的に向上させられる。グーグルがAIを研究するため量子コンピューターに投資するのも、これが理由である。

4. 量子暗号技術

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References:Quantum Cryptography

 先ほど述べたポスト量子暗号技術は、量子コンピューターによる暗号破りを防ぐ技術のことだ。しかし、ここでの量子暗号技術は、量子力学を利用した暗号技術のことである。

 量子暗号技術は主に暗号鍵の配送に関するもので、もつれた量子ビットのペアを使う。

 その片方は受信者に送信され、もう片方は送信者が保持する。重ね合わされたもつれた粒子は、片方が影響を受けるともう片方の量子ビットにも影響を与える。

 この量子ビットのストリームは、暗号の鍵で守られているも同然だ。その素晴らしい点は、量子ビットの複製が不可能なことから、盗聴が絶対にできないことだ。

 また量子ビットが受信者に届く前に干渉を受けていないか確かめられるために、観察することもできない。堅固な暗号としてうってつけの性質だ。

3. 正確な天気予報

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References:Can a quantum computer be applied for numerical weather prediction?
 今日は雲ひとつない晴天です……天気予報では確かにそう言っていたはずなのに、なぜか雨宿りをする羽目になっている。

 こんな悲劇も、量子コンピューターがあれば二度と起きない。

 2017年、量子コンピューターで従来よりも正確に天気を予報する方法についての論文が発表された。

 現在のコンピューターでは、天気を左右する膨大な量のデータをうまく処理できず、おのずと限界が生じる。

 しかし量子コンピューターなら動的量子クラスタリング(Dynamic Quantum Clustering)という手法で、従来は不可能だった速度でデータの処理が可能になる。

 だからといって量子コンピューターなら絶対確実な予報ができるというわけではない。それでも傘を持って来ればよかったと後悔することは格段に少なくなるはずだ。

2. 個人に合わせた広告の表示

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References:dwavesys

 検索で広告ばかりが表示されるとうんざりするものだ。最近ではマッチング広告と呼ばれる、ユーザーの閲覧履歴に応じた広告が表示されるようになっているが、それでもまだ完全ではない。

 そこでリクルート・コミュニケーションズは、量子アニーリングを利用して、大量に広告を打たなくても、個人に合わせてぴったりの広告を表示する方法を開発中だ。

1. ゲーム

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References:medium

 量子コンピューターによる高速な演算処理は、ゲーマーなら興味津々のはずだ。

 超絶滑らかなフレームレートで、ぬるぬるゲームが楽しめるのではないだろうか? と。答えは、「そうかも」である。

 今のところ量子コンピューターの技術はまだ黎明期にあり、既存のハードウェアでは量子の絶対的な優位性に到達していない。

 つまり量子コンピューターが現時点で最高のコンピューターよりも速いのかどうかについては、まだはっきりとは言えないのだ。

 その理由は、量子コンピューターのアルゴリズムが従来型のものとまるで違うことだ。じつは数は少ないが量子コンピューターで開発されたゲームはある。

 その一つが『クオンタム・バトルシップ(Quantum Battleships)』というゲームで、ボードゲームの『バトルシップ』の量子コンピューター版だ。

 またマイクソフトが開発するC#ならぬQ#というプログラム言語は、従来型コンピューターでも量子コンピューターでも利用できるよう設計されている。

 いつの日か量子ドラクエのようなゲームが登場するかもしれない。

written by hiroching / edited by parumo

全文をカラパイアで読む:
http://karapaia.com/archives/52269935.html
 

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