あの『TAXi』シリーズが帰ってきた! 帰ってきたのはいいけれど、ちゃんと帰ってくるのを待っていた人はいたのだろうか。ともかく、1998年の第1作以来2007年まで製作されたフランス製破滅型カーアクションコメディの新作が、この『TAXi ダイヤモンド・ミッション』である。

非アメリカ製カーアクションの雄、ここに復活!
1998年の『TAXi』第1作は、フランスマルセイユを舞台に、ピザ屋から念願のタクシードライバーになったスピード狂のダニエルとダメ刑事のエミリアンが、ドタバタしつつ強盗団を追う映画だった。ダニエルの愛車はボタン一発であちこちからウイングやらなんやらが飛び出し、レーシングカー形態に変形するプジョー406。悪役の強盗団が乗っているのはベンツのEクラス。これらの車が市街地でデッドヒートを繰り広げるカーアクションと、コテコテのギャグがウケたという作品である。

90年代後半~2000年代初頭あたりは、アメリカ以外が製作したアクション映画が注目を集めた時期だった。オランダ人監督がフランスで作った『ドーベルマン』や、同じくフランス映画の『スズメバチ』、配給はアメリカの会社だけどイギリスドイツが製作している『バイオハザード』など、この時期には「アメリカ以外でもアクションをやれるぞ!」という空気が漂っていたように思う。『TAXi』シリーズは、そういった非アメリカ製作アクション映画の代表格だった(まあ、その後アメリカでリメイクされたりしていますが……)。

続く2作目『TAXi 2』での悪役は日本の極悪ヤクザ軍団。乗っているのはランエボだった。つまり、特に2作目までの『TAXi』シリーズは「プジョーが外車をぶっちぎって走り回りボコボコにする」というフランス車万歳映画でもある。破滅的なギャグを挟んだ愛国カーアクションというちょっと変わった映画が、『TAXi』シリーズなのだ。

今度の敵はイタリア車! 世界最大のダイヤを守れ!
で、その最新作『ダイヤモンド・ミッション』では登場人物を一新。主人公シルヴァン・マロは検挙率No.1でドライビングテクニックもピカイチという凄腕の刑事ながら、スピード狂の女たらしというキャラクターだ。マロはパリ警察から特殊部隊への異動を希望していたものの、女絡みのトラブルであえなく南仏の地方都市マルセイユへと左遷されてしまう。新たな任地であるマルセイユ警察の緊張感はゼロで、街ではフェラーリを乗り回すイタリア系の強盗団がやりたい放題を繰り広げていた。

マロがイタリア系強盗団への切り札にしようとしたのは、警察内部に"伝説"として伝わる時速300km越えのタクシー、プジョー407。この1台を探し出すためマロは、最速のタクシードライバーだったダニエルの甥でありながら、どうしようもないヘタレのエディとコンビを組むハメになる。そんな中、世界最大のダイヤである「カシオペア」がマルセイユに輸送されることに。ダイヤを狙って動き出す強盗団を、マロとエディは止めることができるのか。

初代『TAXi』以来の伝統にのっとり、今度の悪役はイタリア車。南仏の市街地の中でフェラーリランボルギーニを相手にプジョーが暴れまわるという、フランス車の対抗意識バッチバチのカーアクションが展開されることに。そういえばイタリア車とまだ戦ってませんでしたね……忘れてた……。

登場人物は一新されたものの、ボタン一発でガチャガチャ変形するプジョーのタクシーは健在。そしてもう一人、シリーズ皆勤賞なのがジベール市長役のベルナールファルシーである。この人、前はマルセイユ警察の署長役で現場を引っ掻き回しまくっていたおじさんだ。祖父をドイツ兵に殺されたことからドイツ人を「クソドイツ人」と罵り、日本語での挨拶を「コ~ニシュワ~~」と練習していたあの人が、今回はとうとう市長に昇格、もはやシリーズ全体の主人公と言っても過言ではない。あ、今やマルセイユの警察署長になっちゃった、アラン役のエドゥアルド・モントートも皆勤賞です。

破滅的ギャグでカーアクションのトレンドに対抗せよ
『TAXi』シリーズが休止している10年余りの間、世界のカーアクション映画の地図は大きく塗り変わった。2011年の『MEGA MAX』で大きく方向性をシフトした『ワイルド・スピード』シリーズがこのジャンルの代表格となり、ヤンキーバーベキュー家族主義と地に足の着いてないカーアクション(車なのに……)で、毎回観客は度肝を抜かれるようになった。この間なんか、とうとう車が潜水艦に勝った。もはや、車にできないことは何もない

で、それに対抗する『ダイヤモンド・ミッション』はどうしたのかというと、破滅的なギャグに精力を傾けることにしたのである。「ダメそうでバカそうな奴が彼女の前でクネクネとラップダンスみたいなのを踊ると面白い」「さらにそこから火事が発生したりするともっと面白い」「人間が車にはねられると面白い」「人間がゲロを吐くと面白い」というような、身も蓋もない小学生ギャグの連打に舵を切ったのだ。

思えばこの「えっ、そんなギャグをこんな頻度で!?」という戸惑いはなんだか懐かしい。というか、忘れていたけど『TAXi』ってこういう映画だった。最初見たときは「もうちょっとマジメにやんなくていいんですか……怒られませんか……?」と思ったものである。カーアクションがすごい映画は世の中にたくさんある。だからこそ、この破滅的ギャグの連打こそが『TAXi』の真価と言えよう。

でもそのくせ、ワイスピの『SKY MISSION』で登場人物が着替えるときにちょびっとだけ流れた名曲『GET LOW』を、なんだかけっこういいタイミングで流したりする。あれ? やっぱりちょっと意識してるのか……ワイスピを……? なんだかんだ言って、『TAXi』シリーズも人の子なのかもしれないな……と思ったのだった。
しげる

【作品データ】
「TAXi ダイヤモンド・ミッション」公式サイト
監督 フランク・ガスタンビド
出演 フランク・ガスタンビド マリク・ベンタルハ ベルナールファルシー サブリナ・ウアザニ エドゥアルド・モントート ほか
1月18日よりロードショー

STORY
パリの刑事マロは、不祥事を起こした結果南仏のマルセイユに左遷される。緊張感ゼロの同僚に囲まれて仕事を始めたマロだが、街にはイタリア車に乗った強盗団が出没。これに対抗するため、マロは警察内部に伝わる「伝説のタクシー」の入手を画策するが……