日本海で墜落したと報じられたロシア戦闘機Su-34は、トイレがついていたり、旅客機のような横に並ぶスタイルの複座型であったりと、かなり特徴的な戦闘機です。どのような役割を果たしているのでしょうか。

墜落したロシア機、世界でも珍しいタイプ

2019年1月18日(金)、日本海間宮海峡)において、ロシア航空宇宙軍(空軍)のスホーイSu-34戦闘爆撃機2機が空中衝突、墜落するという事故が発生したと、ロシア国内メディアはじめ複数社が報じました。19日(土)午前11時現在、乗員の安否についてロシア国防省の発表が訂正されるなど、情報は錯そうしており、詳細はいまだ不明です。

戦闘機は、本来の任務である空中戦能力だけではなく、爆撃機としての任務、すなわち対地攻撃も可能とします。こうした機種を「戦闘攻撃機」ないし「戦闘爆撃機」または「マルチロールファイター(多用途戦闘機)」と呼びますが、このSu-34は世界でも珍しい「限りなく爆撃機寄りの戦闘機」として知られます。

Su-34は、冷戦末期に実用化された大型戦闘機スホーイSu-27を原型としますが、複座式のコックピットは、操縦士席と副操縦士席が旅客機のように横並びとなっており、また通常の戦闘機では考えられない、「立ち上がって伸びをする」「トイレで用を足す」ことが可能であるなど、長時間の作戦において乗員の疲労を軽減するための配慮が最大限、追及されています。機内燃料搭載量に至っては、やはり戦闘機としては最大級の1万2000kgであり、F-15戦闘機の機内燃料タンク+投下型外装タンク2本を搭載した状態にほぼ匹敵。さらに、Su-27にはなかった空中給油装置を有し、最大10時間にわたる作戦が可能だと、スホーイは主張します。

戦闘機としての能力は…?

Su-34の兵装搭載量は最大8000kg。多用な誘導兵器を運用することが可能であり、Kh-31超音速空対艦/対レーダーミサイルであれば、最大6発を携行できます。航空自衛隊が保有するF-2戦闘機は空対艦ミサイル4発を携行可能ですが、これを1.5倍上回りますから、まさに驚異的だといえるでしょう。また、こうした兵装を使うための高性能なレーダーなども搭載しています。

ここまで極端に爆撃機寄りであると、Su-34戦闘機としての能力は、それほど高いといえないのではないかと思われるかもしれませんが、搭載する火器管制レーダーは空対空モードも備え、10目標を同時にロックオン可能であり、うち4目標に対して同時にR-77 RVV-AE視程距離外空対空ミサイルを射撃できる、「同時交戦能力」を有しています。

また抜群の機動性を持つSu-27には見劣りするものの、それでもなお戦闘機として十分すぎる機動性は維持しており、エアショーなどにおいては、重い対艦ミサイルを搭載した状態でさえ軽々と機動する飛行展示を見せています。

同じSu-27派生機でもバリエーションいろいろ

ロシア空軍が現在配備するSu-27系列の戦闘機は、基本形で戦闘機寄りのSu-27SM(単座)、高性能で戦闘機寄りのマルチロールファイターSu-35S(単座)、やや爆撃機寄りのマルチロールファイターSu-30SM(縦列複座)、完全に爆撃機寄りのマルチロールファイターSu-34があり、それぞれに適した任務に使い分けているようです。

Su-34は、ほぼ爆撃機に近い前任機のスホーイSu-24戦闘爆撃機の代替として開発され、飛行機自体は1990年代にはほぼ完成していましたが、ソ連崩壊後の混乱期と重なったため、経済的な理由からなかなか実用化できないでいました。ようやく実働体制に入ったのはここ最近でした。

しかしながら急激に数を増やしつつあり、2019年現在は111機が現役であるとみられます。また、新しい性能向上型Su-34Mの開発も行われています。Su-34の生産が遅れたぶん、Su-24の近代化改修型は、いまだ空軍および海軍に300機近く残っているとみられ、これらがすべてSu-34に置き換えられるかどうかは不明ですが、Su-34は今回の事故に関わらず、今後さらに数を増やしてゆくことは間違いないでしょう。

【写真】同系列で最も高性能「Su-35S」

なかなか実用化できなかったがようやく実働体制に入った量産型Su-34。並列複座型のユニークなフォルムが面白い(関 賢太郎撮影)