最近は『ソードアート・オンライン』』(川原 礫:著、abecイラスト/アスキー・メディアワークス)や『スカイワールド』(瀬尾つかさ:著、武藤此史:イラスト/富士見書房)など、ネトゲを題材にしたマンガラノベブームで、それをきっかけに実際にネトゲを始める人も増えているようだ。しかし、その一方では、相変わらずネット上でコミュニケーションをとることについて警戒する声も多い。その1つは、やはり“匿名性”に対する心配だ。ネットでは簡単に別人格になれるため、無責任な言動に走ったり、現実からの逃避を招くというもの。確かに、ネットで別人格を演じていたことによって、現実社会でのトラブルや犯罪に巻き込まれるケースがあるのも事実だ。

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 でも、12月1日に5巻が発売された『俺のリアルネトゲラブコメに侵蝕され始めてヤバイ』(藤谷ある:著、三嶋くろねイラスト/ホビージャパン)を読んでいると、ネットで別人格を演じることも決して悪いことばかりではない気がしてくる。

 主人公の鷺宮慧太は、女の子キャラを使ってネトゲプレイしているネットオカマ、いわゆる“ネカマ”。男子校出身で、ほとんど女の子と接したことがなく友達もいない慧太は、三次元女の子なんて何を考えてるかわからないし、うるさいし、別の生き物みたいだし、もうどうでもいいと思っていた。ところが、ゲーム内で女の子を演じることで、普段なら絶対に話しかけられない女の子にも勇気をだして話しかけることができるようになる。一緒にギルドを立ち上げたり、ひとりぼっちプレイヤーを狩る集団に襲われそうになっていた女の子を助けたりもする。その結果、慧太の所属するギルドには彼に惹かれた女の子たちが集まり、彼が演じるプレイヤーが男か女かなんて関係なく、メンバー全員から愛されるようになるのだ。

 しかも驚いたことに、このネットでの愛されキャラは、リアル生活にも反映されていく。所属するギルドで突然オフ会を開くことになって、慧太が女の子ではなく“ネカマ”であることがバレてしまうのだが、軽蔑されるかと思いきや、以前にもましてメンバーに慕われるようになる。そして、普段なら女の子が近づくだけで緊張してまともに話せなかった慧太自身も、ギルドメンバーと会う時だけはゲーム内でのいつものテンションで接することができるようになるのだ。

 一方、同じ12月1日に発売された『不本意だけどハーレムです。ただしネットに限る』(伏見ひろゆき:著、仁村有志:イラスト/角川書店)は、“魂の恋人”を見つけるために主人公の夜空翔が自ら開発したSNSピュアランド」で運命の恋人探しをするという話。どんなに可愛い人でも、どんなに普通を装ったとしても「ネットでこそ人は本性を表す」と考えていた翔は、ゲームに用いるピュラと呼ばれるアバターを、プレイヤーの中にある願望がビジュアル化され、思ったまま行動してしまうように設計する。その結果、翔はほんとうに“魂の恋人”に出会い、好きになった相手への思いが止められなくなっていく。

 ネットで別人格を演じているうちに、本物の恋が始まったり、リアルな生活が充実していったりするこれらの作品。しかし、彼らは別人格を演じることで相手をだましたわけじゃない。自分がネカマになることで女の子に対する見方が変わり、リアルでも少し積極的になれた慧太。どんな人にもなれるネットの中だからこそ、リアルでは隠している心の奥底にあった本音をさらけだせ、自分の気持ちに正直になって思いをまっすぐに伝えることができた翔。むしろ、かれらはネットの中で勇気を得て、本当の気持ちを出せるようになったのだ。

 ネットの中ではいくらでも嘘がつける。でも、それと同時にネットだからこそいくらでも本音を言える部分もある。それに、どんなに姿を偽っても、心の中で本当に思っていること。こうなりたいと願う自分の理想の姿は、自然と出てしまう。

 こんなふうに、誰かを演じることで少しだけ勇気を出せたり、素直になれるのなら、ほんのちょっとだけ、別人格を演じてみるのも悪くはないかもしれない。

ダ・ヴィンチ電子ナビより)




『俺のリアルとネトゲがラブコメに侵蝕され始めてヤバイ』