毎年秋~冬に東海エリアで上演される公演に出演する俳優を対象とした、【俳優A賞】の第4回受賞者が決定した。去る1月14日に日本劇作家協会東海支部(以下、東海支部)の新年会名古屋の「ナビロフト」で開催され、その中で【俳優A賞】の結果発表と講評も行われ、名古屋を拠点にフリーで活動する大野ナツコが、2018年度の栄冠を見事手にした。

第4回【俳優A賞】発表と講評の様子

第4回【俳優A賞】発表と講評の様子

【俳優A賞】は、「舞台俳優を応援する」目的で東海支部が2015年に立ち上げた賞で、毎年9月から12月に愛知・岐阜・三重の三県下で公演を行う団体であれば、全国各地どこからでも応募可能。2018年度は24団体がエントリーし、のべ239名の俳優が審査対象となった。審査員は、東海支部員のはせひろいち(劇作家・演出家・劇団ジャブジャブサーキット主宰)や佃典彦(劇作家・演出家・俳優・劇団B級遊撃隊主宰)、鏡味富美子(劇作家)をはじめ、加藤智宏(演出家・perky pat  peresents主宰)、木村繁(演出家)、西本ゆか(朝日新聞文化くらし報道部記者)、ノグチミカ(演劇ファン)、筆者(編集者・ライター)の8名が務め、全公演が終了した昨年末に審査会を行い、16名のノミネート俳優が決定。続いて行われた二次審査で優秀者9名を選出し、さらに討議を重ねた結果、大野ナツコの受賞が決まった。

第4回【俳優A賞】ノミネート俳優16名
※( )内は所属劇団、下段は審査対象となった出演作品。☆は二次審査通過者

・今泉蜜柑(劇団アルデンテ)
劇団アルデンテ『DDDDーデス屋で働くデーモンダーリン

・上田吉政(フリー)
劇団中内(仮)『平成デメニギス考』

☆太田侑伽(フリー)
平成ーズ『ぼくはタヌキじゃない』

☆大野ナツコ(フリー)
perky pat presets『うみべいきもの』(「とねりこの実」)
劇団さよなら『はやくいかなくちゃ』

☆空沢しんか(劇団ジャブジャブサーキット)
劇団ジャブジャブサーキット『ビシバシと 叩いて渡る イシバシ君』

・きてっと(ゲボゲボ)
ゲボゲボ『グッドグッドグッドワールド』

☆荘加真美(劇団ジャブジャブサーキット)
劇団ジャブジャブサーキット『ビシバシと 叩いて渡る イシバシ君』

・棚瀬みつぐ(フリー)
空宙空地『轟音、つぶやくよう うたう、うたう彼女は』

・永田貴椰(フリー)
平成ーズ『ぼくはタヌキじゃない』

名古屋山三郎(ナゴヤ座)
演劇組織KIMYO『ハンザキ

☆二瓶翔輔(フリー)
   劇団さよなら『はやくいかなくちゃ』

☆平塚直隆(オイスターズ)
オイスターズ『調子に乗れ!』

☆三井田明日香(劇団B級遊撃隊)
劇団ジャブジャブサーキット『ビシバシと 叩いて渡る イシバシ君』

☆みなみりな(劇団翔航群)
perky pat presents『うみべいきもの』(「とねりこの実」)

☆元山未奈美(演劇組織KIMYO)
演劇組織KIMYO『ハンザキ
劇団うりんこ『風を見たかい?』

・吉田愛(オイスターズ)
オイスターズ『調子に乗れ!』

【俳優A賞】発表&講評会には、二次審査を通過した最終ノミネート俳優9名のうち6名が出席。左から・空沢しんか、荘加真美、二瓶翔輔、三井田明日香、みなみりな、元山未奈美

【俳優A賞】発表&講評会には、二次審査を通過した最終ノミネート俳優9名のうち6名が出席。左から・空沢しんか、荘加真美、二瓶翔輔、三井田明日香、みなみりな、元山未奈美

大野ナツコは今回、perky pat presents14 瀬辺千尋短編戯曲集 其の二『うみべいきもの』の一作、「とねりこの実」(昨年9月5日~9日に「七ツ寺共同スタジオ」にて上演)及び、劇団さよならの『はやくいかなくちゃ』(昨年11月2日~4日に「G/pit」にて上演)の両作での演技が評価され受賞となった。

「とねりこの実」では、ある男性入院患者とその関係者の様子について警察らしき人物に尋ねられ、証言をする病院の看護師役を演じ、片や、発達障害幼なじみの男の子(同じくノミネートされた二瓶翔輔が演じた)との関係が長年に渡って描かれた『はやくいかなくちゃ』では、幼女から大人の女性までを熱演。二作とも二人芝居ながら全くテイストの異なる登場人物をそれぞれ好演した。主な受賞理由と、大野の受賞コメントは以下の通りだ。

出演作のひとつ、劇団さよなら『はやくいかなくちゃ』より

出演作のひとつ、劇団さよなら『はやくいかなくちゃ』より

【受賞理由】

・俳優賞を決める時は作品自体が面白くないと難しいところがあるが、『はやくいかなくちゃ』は抽象的な二人芝居の小さい世界でありながら、人類の誕生や進化にも及ぶ大きな話になっていて、作品自体もかなり面白かった。その中で大野さんは、いつも舞台上でちょっと不機嫌そうな感じでいるのが印象的だが、その一方で、この作品では相手役を包み込むような大きさも裏側に持っているように感じた。
・『はやくいかなくちゃ』では、障害を持った“遅い子”と呼ばれる相手役の幼なじみや姉を演じたが、その受け方が非常に印象に残り、面白い俳優だと思った。
・『はやくいかなくちゃ』に出演した大野さんと二瓶さんは、作家の意図を深く読み取っていた感じがして両者とも推薦したが、夢野久作の「ドクラ・マグラ」のような世界があったり、二人の世界があったり、太古の歴史のような部分があったり、それぞれ色合いが違う世界を結果的に大野さんが演じ分け、その繋ぎ方も実に明瞭だった。演出力を持った切れる女優さんだなと評価した。
・『とねりこの実』は、別々の場所にいる二人の登場人物が、それぞれある人物の証言をしていくモノローグ仕立ての話。看護師役を演じた大野さんは、相手役との絡みもなく、大半が正面を向いて話すという制約された条件の中で、忙しく働きながら質問に対応する看護師の雰囲気をクールかつ如実に表現していて、その説得力のある演技に魅了された。

賞状とトロフィー、副賞の5万円が、この日出席できなかった大野の代理として、『はやくいかなくちゃ』の劇作と演出を務めた長谷川彩に審査員長の木村繁から授与された。 「大野さんは、私が劇団を立ち上げた時に一番最初に出ていただいた役者さんで、一番信頼している役者さんなので本当に良かったと思います。ありがとうございます」と、長谷川

賞状とトロフィー、副賞の5万円が、この日出席できなかった大野の代理として、『はやくいかなくちゃ』の劇作と演出を務めた長谷川彩に審査員長の木村繁から授与された。 「大野さんは、私が劇団を立ち上げた時に一番最初に出ていただいた役者さんで、一番信頼している役者さんなので本当に良かったと思います。ありがとうございます」と、長谷川

【大野ナツコ 受賞のことば】

「私的な事ですが、このタイミングで賞を頂けた事はとても意味のある事でしたのでとても嬉しく思います。心がけている事は特にありませんが、普段から好きな役者さんのお芝居を熱心に見て自分のアプローチの仕方を探る作業はしています。今後の目標というか願望ですが、血湧き肉躍るお芝居に出たいです。その日の為に体力作りを始めています」

大野ナツコ

大野ナツコ

尚、【俳優A賞】は今年度も引き続き開催予定で、エントリーは6月頃から開始予定につき、詳細については下記、東海支部公式サイトのご参照を。

■日本劇作家協会東海支部 公式サイト:http://jpatokai.php.xdomain.jp