先日、第16話が放送されたアニメ『転生したらスライムだった件』。順調に発展していくかに思えたジュラ・テンペスト連邦国に、強大な力を持った魔王ミリムが来襲。対応を迫られたリムルは機転を利かしてミリムと親友(マブダチ)になることで、危機を回避したが……。

原作者の伏瀬と菊地康仁監督の対談インタビュー後編では、国家建国というスケールの大きな物語をアニメで描く際の苦心や、今後の見どころなども語ってもらった。

(前編はこちら

転スラ』の一番良いところは魅力のあるキャラクターたち
──菊地監督は、原作2巻までの内容でも十分に2クールの作品として描けると思っていたそうですが、第16話の時点で、3巻の第2章まで物語が進んでいます。監督の当初のイメージよりは、早いテンポになったのでしょうか?

菊地 原作小説は途中で戦記物的な流れになっているのですが、アニメでもそこを丁寧に描いたら、すごく格好良さそうだなと思って。でも、それをやると、1巻1クールぐらいは使っちゃうだろうなと考えていました。実際に2クールを2巻までの内容で描くのは難しいかなと思いながら言ってたところもあるのですが、それくらい内容の濃い作品なのは間違いないと思っていました。ただ、『転スラ』の一番良いところは、戦記物的な展開ではなく、魅力のあるキャラクターたちなので。リムルの会話や思考、動きなどの楽しさや、オーガたちの性格といった個々のキャラクター性を打ち出して、楽しいフイルムにした方が絶対に得策だなと考え直したんです。

伏瀬 大事なシーンを削ると「このキャラクターは何をしたいの?」ということが分からなくなったりするんですよね。監督の仰る通り、キャラ人気で作品が成り立っている面もあるわけだから、削るにしてもキャラクター性はしっかりと伝わるようにしなくてはいけない。それは大前提でした。それに、尺の関係で削られたエピソードもあるのですが、その時は、細かくいろんな場所から削るのではなく、あえて大きくまとめて削ってもらっています。そうすることで、今回のアニメでは描けなかったところも、機会があれば復活できるようにしてあるんです。

菊地 OVAとかの機会があればやりたいですよね。

伏瀬 そうですね。将来に希望を残しています(笑)。

リムル役の岡咲さんのセリフ量がすごいことに
──リムルは、人間の三上悟だった時のキャラクターボイスを男性声優寺島拓篤さんが担当し、異世界に転生してスライムになってからは、女性声優岡咲美保さんが担当しています。このキャスティングの方向性は最初から固まっていたのですか?

菊地 スライムの動かし方は最初から可愛くしようということは決まっていました。ただ、声に関しては、はっきりと決めていなくて。リムルはシズを取り込むことで、スライム状態から人型の姿になるじゃないですか。その時の声はまた別の声優さんにお願いしようという案もありました。でも、スライムから1mちょっとの子供になるだけなら、たぶん声はそんなに変わらないので、そこは変えないでおこうということになったんです。

伏瀬 僕の当初のイメージでは、リムルの心の声は三上悟(男性)の声で、スライム状態では音声を処理するなりして、ちょっとモニョモニョした感じにしてもらう。その後、女性のシズを取り込んだ時点で、スライムの状態の時も人間の姿の時も女の子の声になり、心の声だけは三上悟のまま、というイメージだったんです。でも、そんな風に変わると観ている側が混乱するというアニメ制作サイドの意見を聞いて、「たしかに、そうだな」と納得しました。

菊地 みんなが1話から観てくれるわけじゃないですからね。

伏瀬 そうなんですよね。1話や2話で(男性から女性に)声が切り替わるなら良いのですが、初めて人型の姿になるのは8話なので。そういった理由で、心の声も同じ方にお願いすることになりました。その結果、リムル役のセリフ量がすごいことになりましたけど(笑)。岡咲さんが、すごく頑張ってくださっていますよね。

スタッフに熱意があるからこそ、実現している作業
──リムルが「ジュラ・テンペスト連邦国」を建国するまでの過程で、キャラクターの数がどんどん増えて、そのキャラが進化することでビジュアルも変化していきます。アニメーションで描く際には、大変だったことも多いのでは?

菊地 今回はデザイナーが二人いて。「キャラクターデザイン」の江畑(諒真)さんには人間をメインで担当してもらって、「モンスターデザイン」の岸田(隆宏)さんには、モンスター系をメインで担当してもらっています。これは原作小説のイラストからそうなのですが、モンスターって進化すると見た目が人間に近くなるんですよね。だから、その間の過程のキャラクターの時は「どちらのデザイナーにお願いしようか?」と、悩みました。

伏瀬 まさに大鬼族(オーガ)がそうでしたね。オーガは進化して鬼人族になるのですが、「鬼人族の設定はどちらのデザイナーに頼みましょうか? 魔物扱いで良いんでしょうか?」という質問が来て。どちらでもオッケーだとは思ったのですが「魔物ですかね……」とお返事をしました。それで上がってきた設定のイラストがすごく格好良くて。格好良過ぎるくらいだったのですが、「格好悪く直して下さい」なんて言えないじゃないですか(笑)。だから、このままでいきましょう、という話になりました。あと、キャラクター設定だけでなく、村や街の(美術)設定もすごくこだわってくださっていて。ゲルみたいなテントもすごく仕組みが細かいし、区画整理のやり方なども全部調べた上で、描いて下さっているんです。すごく熱意を感じました。

菊地 最初のゴブリン村から移動するのではなく、その場所でどんどん拡大していくので、ゴブリン村の設定を作る時点から、最終的に国になった時のビジョンをイメージして作っています。水の経路はどうなっているのかとか、農地をどのように拡大していくのかとかまで考えているんですよ。

伏瀬 映像的には、数秒映るくらいのものだと思うのですが、そのために、どれだけの労力がかかっているんだって。

菊地 映っても、各話で7秒ぐらい映る程度かなあ(笑)。

伏瀬 本当にスタッフの方に熱意があるからこそ、やっていただけている作業。最初の話に戻りますが、ここまで作品を愛していただけて、本当にありがたいなと感じながら毎回観ています。

皆さんの応援があれば、今回は描けないキャラもアニメで描けるかも
──16話では、見た目は美少女だけれど最古の魔王のひとりでもある人気キャラのミリムが登場しました。今後も新キャラクターがたくさん登場するそうですね。

伏瀬 ミリムはこの作品の中で常に最強キャラの一角にいる存在。この作品の世界観では魔王というのは絶対悪の存在では無いので、傍若無人かつ純粋な魔王の子というイメージで作ったキャラクターです。だから、ミリムと関わることになったリムルたちは、この圧倒的な存在にどういった対処をするのか。怖がってなるべく避けるようにするのか。迷惑を受けることもある程度、甘受しつつ仲良くやって行くのか。そのあたりに注目してください。

菊地 ただ強いだけでもなく、ただ可愛いだけでも無い。強くて可愛いアホの子みたいな形で見せられたら良いなと思っています(笑)。

伏瀬 あと、17話以降の見どころとしては、しれっと温泉回があるんですよ。まだ、完成映像を観ていないので、どんな映像になるのか楽しみにしています

菊地 小説を読まれている方はご存じだと思いますが、この後もいろいろとすったもんだがありますので、楽しみにしていてください。

──最後に、原作小説からの『転スラ』ファンと、アニメから入ったファン、それぞれに向けてのメッセージをいただけますか?

伏瀬 原作から読んで下さっている皆さんは、ずっと読んでいて下さって、ありがとうございます。ついにアニメという形でも、皆さんにお届けすることができました。作者としても非常に満足できるアニメになっているので、読者の皆さんにも喜んでいただけていたら嬉しいです。アニメから興味を持ってくださった方に向けては……。物語は、本当にまだまだ序盤でして、ここからも大きく動いていきますので、できたらアニメだけでなく原作まで追いかけてもらえたら嬉しいです。漫画の方は、アニメの話から続くような形で連載中なので、まずは漫画を追いかけていただいて。さらに興味が沸いてきたら、小説の方もぜひ。アニメの原作は漫画なのですが、その漫画の原作は小説なので、よろしくお願いします(笑)。

菊地 アニメでも、小説の良いところをなるべく入れようと思っているので、小説からのファンの皆さんにも楽しんでいただけていたら幸いです。ただ、小説にはスキルとか世界観に関して、かっこいい描写がいっぱいあるんですよ。アニメでは、それをなかなか入れられないのが少し残念なんですよね。

伏瀬 本文の内容を考えるよりも、必殺技の名前を考える方が時間かかっていたりしますからね。

菊地 必殺技の描写にテロップを入れているのは苦肉の策です。台詞で言うだけだと分からないですから。

伏瀬 子供の頃に『聖闘士星矢』を観ていて、「マッハで攻撃するのなら、叫んでいる技名が聞こえる前に、その攻撃が敵に届いちゃうんだよなあ」とか思っていたのに、同じことをやっています(笑)。でも、そこにロマンがあるんですよね。

菊地 分かります。漢字ならではの格好良さもありますからね。これからもアニメならではの動きをどんどん見せていきたいと思っていて。アイデアをいろいろと絞り出しては、原画マンにもけっこう無茶を言いながら、いろいろと発注していますので、引き続き楽しんでいただけると嬉しいです。

伏瀬 スライムの動きなんて、まさにアニメならではの魅力ですよね。

菊地 あとはラプラスとかも、そうですよね。皆さんの応援があれば、今回は描けない原作のキャラクターもアニメで描くこともできるかもしれません。

伏瀬 皆さんの応援がこの先も、この作品が続くきっかけになるかもしれないので。よろしくお願いします。
(丸本大輔)

アニメ『転生したらスライムだった件』の最新キービジュアル。リムルたちの背後に大きく描かれているのは魔王ラミリス。精霊や妖精が住む“精霊の棲家”の女王でもある