プーチン大統領は、日露平和条約締結後に歯舞群島と色丹島が日本に返還された場合に、それらの島々に米軍基地が設置されるおそれはないのか? という議論に関して、「沖縄の辺野古米軍新基地の建設状況から判断すると、日本での米軍基地設置に関して日本政府がどの程度の主権を持っているのか疑わしい」と公の場で発言した。

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プーチン大統領の誤解

 ロシア側の解釈によると、「安倍政権が辺野古滑走路建設を強行しているのは、日本に防衛分野での主権がなく、アメリカの意のままに、日本国防当局、そして日本政府が使われているからである」ということになる。そのため、いくら安倍首相自らが「歯舞群島と色丹島が日本に返還された後に、それらの島々に米軍基地が建設されることはありえない」と明言しても、日本の防衛分野における主権者であるアメリカの確証ではない以上、ロシア側としては安心できないというわけだ。

 だからと言って、日本がアメリカ側に確証を求めることはできない。もしも日本側が、トランプ大統領をはじめとするアメリカ側高官に「歯舞群島と色丹島に米軍基地を設置することは断じてない」と公約でもさせようものなら、それこそ安倍政権は防衛分野における主権を名実ともにアメリカに委ねてしまっていることを国際社会に宣言してしまうことになってしまう(防衛分野における主権は、国家主権のうちでも根幹をなす主権に他ならない)。

 もちろん現実には、アメリカが日本から国防に関する主権を取り上げているわけではない。かつて日本は満州帝国から国防に関する主権を取り上げたが、その状況とは異なる。

 安倍政権が辺野古移設を推し進めているのは、アメリカに強制されているからではない。たとえ沖縄県知事が断固として反対しようとも、沖縄の民意がどのようなものなのであろうとも、自らの決断と確固たる意志によって米海兵隊新施設を辺野古に建設しようとしているのである。したがって、プーチン大統領が危惧の念を表明したように、安倍政権は国防に関する主権を喪失しているわけではなく、国防に関する主権の行使として辺野古沖の埋め立てを強行しているのだ。

アメリカにとっての辺野古移設の価値

 ただし、その主権の行使が軍事的に正しい判断に基づいているのか? と問うならば、答えは否である。

 安倍政権は、国防に関する主権をアメリカに明け渡しているのではなく、軍事的に誤った前提に基づいて国防に関する主権を行使している。この点が、プーチン大統領の認識で修正すべき点といえよう。

 安倍政権の軍事的に誤った判断とは、「アメリカ海兵隊ならびにアメリカ軍当局、そしてアメリカ政府が、普天間航空基地を辺野古新施設に移設することを、アメリカ軍事戦略の観点から極めて重要視している」と考えている点である。

アメリカ軍事戦略にとって辺野古新施設の誕生は絶対不可欠である。そうである以上、すでに20年近くも滞っている辺野古滑走路を一刻も早く完成させなければ、米海兵隊が怒り、アメリカ軍当局が怒り、トランプ大統領が怒り、日米同盟が危うい状況に追い込まれる」──安倍政権は、そうした懸念があると考えるがゆえに、国内的には万難を排して、辺野古沖の埋め立てを強行しているわけである。

 しかし、その懸念は杞憂である。普天間航空基地を辺野古新施設に移設することが、日米同盟を揺がすほどにアメリカ軍事戦略にとって重大な意味を持っているのならば、アメリカ軍当局、そしてアメリカ政府は20年近くも放ってはおかない。とうの昔にあの手この手の強力な圧力を日本政府にかけているか、日米同盟を終結させるかしているはずだ。

 アメリカ軍事戦略にとっては、海兵隊の航空基地が普天間から辺野古に移ることなど、さしたる問題ではないということだ。

在沖縄海兵隊の戦力は低下する

 現に、海兵隊関係者の中にすら、辺野古に誕生しつつある新施設は「普天間基地の代替物がなにもないよりはマシ、といった程度のものである」と公言している者がいる。

 実際に、日本政府が埋め立てを強行して造り出そうとしている辺野古沖滑走路の長さを考えるだけでも、「ないよりはマシな程度」と考えられている理由は明らかである。

 現在、海兵隊が使用している普天間航空基地の滑走路は2740メートルであるが、辺野古沖合に誕生するであろうV字型滑走路はそれぞれ1200メートルオーバーランエリアを加えると1800メートル)しかない。

 普天間3000メートル級滑走路の場合、海兵隊が使用しているすべての航空機の発着が可能である。具体的には、F/A-18戦闘機、AV-8B垂直離着陸VTOL戦闘機F-35B短距離離陸垂直着陸(STOVL戦闘機EA-6B電子戦機、KC-130空中給油/輸送機、MV-22ティルトローター中型輸送機オスプレイ)、AH-1Z攻撃ヘリコプターCH-53E重輸送ヘリコプターUH-1Y汎用ヘリコプターなどである。

 しかし、辺野古に予定されている1200メートル滑走路の場合、理論的には離着陸可能な固定翼機がないわけではないが、安全性確保という観点からは、実際には戦闘機輸送機などの固定翼機の運用はできない。そのため辺野古航空基地は、現実にはヘリコプターとMV-22オスプレイだけを運用するための大型ヘリポートという位置付けに過ぎなくなる。

 したがって、海兵隊航空基地が普天間から辺野古に移ることは運用可能な航空機が減少することを意味し、常に地上戦闘部隊と航空戦闘部隊が両輪となって作戦行動を行うアメリカ海兵隊にとっては、大幅に作戦能力を削がれることになるのだ(MAGTF、本コラム「海兵隊の沖縄駐留に米軍関係者の間でも賛否両論2018年10月11日、拙著『海兵隊とオスプレイ』参照)。

日本はやはり「アメリカの属国」なのか?

 もっとも一般常識的に考えても、保有する航空戦力が低下することによって、沖縄の海兵隊の戦力が低下するということは容易に想像がつくところである。

 それにもかかわらず、安倍政権は口をひらけば「普天間基地を辺野古へ移設することにより抑止力が維持される」と説明している。日本政府は“抑止力を維持するために”海兵隊の戦力を削ぐことが確実な、そしてアメリカ国防戦略においてもさしたる重要性を持たない、辺野古沖滑走路の建設を強行しようとするのであろうか?

 おそらく日本政府は、いくら超高額兵器をアメリカから気前よく購入しているからといっても普天間移設問題を解決しないとアメリカ側の逆鱗に触れてしまい、日本政府が頼りきっている日米同盟が破綻してしまうのではないかと考えているにちがいない。これでは、国防に関する主権を制限されていなくとも、プーチン大統領が指摘するように、日本はアメリカの属国状態であることに変わりはない。

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