テクノロジーの進歩は、さまざまな業界に新たな革新を起こしている。たとえばFinTech(フィンテック)。この言葉を聞かない日はない、と言えるほどである。そしてこれから注目が集まる分野が、不動産だ。

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「FinTechはもはや一巡した感がありますが、不動産業界はこれからが本番です。FinTech以上に盛り上がっていくと思います」

 株式会社NTTデータ経営研究所・ビジネストランスフォーメーションユニット・シニアマネージャーの川戸温志氏は指摘する。不動産業界における技術革新とは、我々にどんなメリットをもたらすのか。その現在地とともに、川戸氏に聞いた。(文・河西泰)

 FinTech(フィンテック)とは、金融(Finance)と技術(Technology)を組み合わせた造語で、金融サービスと情報技術を結びつけたさまざまな革新的な動きを指す。

 最近では金融以外でも、広告:AdTech、教育:EduTech、農業:AgriTech、医療:HealthTechというように、様々な分野でTechnologyとの結びつきが注目されている。

「不動産テック(PropTechまたはReTech)」は、不動産業界におけるそれである。実は、未来のサービスとして身近なものとなりつつあるのだがどれだけみなさんご存じだろうか。

 川戸氏の解説で、まずは5つのサービス領域をご紹介する。

1.誰でも価格が手軽に調べられるサービス

不動産価格の可視化

 2、3年前、日本国内の「不動産テック」黎明期の中で特に多く登場したのが、不動産価格の可視化サービスだった。

「住宅売買の際の参考情報として、現在価格や将来価格を推定するインターネットサービスがすでに登場しています。代表的なものに、LIFULLライフル)社の『HOME'Sプライスマップ』、リブセンス社の『IESHIL(イエシル)』、マーキュリー社の『マンションバリュー』、コラビット社の『HowMa(ハウマ)』があります」(川戸氏)。

 価格推定サービスとは、例えばマンションの価格が知りたい場合、住所や駅名、マンション名などを入力すると、該当するマンションの参考価格と共に所在地や築年数、面積などが表示されるサービスだ。基本的には無料で使うことができ、ユーザー登録を行うとオプションなども利用できる。

 気になるのは、参考価格がどういう質のものであるか、だ。川戸氏は言う。

「これらの参考価格は、収集した物件データに対して独自アルゴリズムや統計的手法を用いて不動産価格の推定値を算出しています。価格推定サービスが現在の不動産価格の推定であるのに対して、不動産の将来収益価格を予測しているのがLEEWAYS(リーウェイズ)社の「Gate.(ゲート)」です。Gate.は、独自に収集した5,800万件を超える物件データに対してAI(機械学習)を活用することで、賃料下落や空室率などを瞬時に予測します。売却時までのキャッシュフロー予測、表面利回りよりも重要性の高い全期間利回りや投資価値判断のための多角的な分析データなど、投資リスクを減らして収益を最大化するための情報をGate.のプラットフォーム上で提供しています」(川戸氏)。

 不動産の価格を知りたい場合、これまではその物件を取り扱う不動産に問い合わせるか、業者を通して情報を得るしかなかった。いわゆる不動産屋に出向き、不動産を売り買い、または貸し借りをした場合、十分な情報が与えられていない、と感じるたことがある人も多いだろう。しかし、こうした可視化サービスが普及することで、よりその透明性が増し、不動産業界が一般的にも身近に感じられるようになってきている。

2.内見した後も契約まで一気に完結するVR

VR内見、電子契約

 VR(バーチャル・リアリティ)と言えば、ゴーグルをつけゲームなどのエンタテインメント分野での発展が指摘されるが、不動産業界にも確実に期待されるサービスである。そのひとつがVR内見。川戸氏がこう説明してくれた。

「VR内見とは、3DモデリングのVR技術を活用した物件の擬似内見をインターネット上で提供するサービスです。VRを活用した物件の擬似内見は、不動産会社のWebページ等での活用が一般化してきています。NURVE(ナーブ)社の「VR内見」は、不動産店舗におけるお客様との対面接客に活用することで、内見現場へ行く前の擬似内見が可能となり、内見する物件の取捨選別の確度向上や業務効率化に繋がっています」

 部屋の内見となると、より詳しく見るには現場に行くのが常であった。しかし、それでは内見できる物件に限りがある。1日3件でも見ることができれば御の字、といったところだろうか。

 VRサービスは、こうした選択肢の少なさを大きく改善する。一方で、不動産業界にとっても閲覧数が増加することは売約増につながるはずだし、人件費を含めた効率面でも一石二鳥のサービスと言えるだろう。

「NURVE社の場合、見逃せないのが室内画像の取り込みです。動画データとしてスマートフォンで誰でも簡単に取り込むことができ、様々な視点からの室内画像のスナップショットを作り出せる。容易に物件広告用の室内画像が作成可能となるのです。アウトプットの側面が注目されがちなVRの、インプットの側面の有用性が評価されるのは、物件の室内画像の撮影業務という業者側の業務課題に起因しています」(川戸氏)。

 この点において、川戸氏は賃貸取引における新しい動きについての相乗効果を期待する。

「2017年にIT重説が賃貸取引のみ本格的に開始されています。IT重説とは、インターネット等を利用することで従来の対面以外の方法で不動産の売買契約や賃貸借契約における重要事項説明を行うことです。現時点では、IT重説に対応している不動産会社はまだ一握りですし、賃貸だけではありますが、IT重説が解禁したことで、賃貸取引プロセスのオンライン化が実現可能となります」

 川戸氏が言う「IT重説」が本格化すれば、不動産ポータル上で物件を検索し、VR内見もしくはオンライン内見予約・スマートロックによる内見自動化、そして、気に入った物件があればWeb会議システムで重要事項説明、後は電子契約と取引プロセスを一気通貫でオンライン化することが可能になるということだ。

「実際、VR内見のNURVEは2017、2018年頃より急速に拡大し約5400店舗以上へ導入しています。電子契約では「クラウドサイン」や「DocuSign(ドキュサイン)」、「IMAoS(イマオス)」、申込から契約締結の一連のプロセスを電子化した業務プラットフォーム「キマRoom! Sign(キマルームサイン)」などが広がり始めています」(川戸氏)

3.むかし観たSF映画の世界が現実に

スマートホーム

 スマートホームについては、テレビコマーシャルなどで見たことがあるだろう。外出先から、施錠するスマートロックをはじめとして、点灯やエアコンをつける、お風呂を沸かすなどの作業をテクノロジーを使って一元的に可能にするサービスだ。

「スマートホームとは、家電製品や電気等のエネルギー、照明やカーテン、鍵などのセキュリティなどをスマートスピーカー音声認識を通じて一元的にコントロールすることを指します。欧米では『コネクテッド・ハウス』とも呼ばれています」(川戸氏)。

 スマートホームのメリットを消費者の視点から見ると、話しかけるだけで家のあらゆるものが自動的にコントロールできる、まさにSF映画のような世界が実現されること。
 
「不動産業界のプレイヤーでは、特にハウスメーカーがスマートホームの動きを見せています。例えば、大和ハウス工業は様々な住宅設備や家電がIoTを活用することで繋がる『Daiwa Connect』プロジェクトをスタートさせ、Google Homeによる音声操作ができる住宅を目指しています。また、ミサワホームは従来のスマートHEMSに加えIoTを活用してライフサービス機能をワンストップで提供する『LinkGates』を商品化させています」

 昨今では、こうしたサービスの企業広告などをよく見かけるので、なんとなく想像がつく人も多いだろう。川戸氏は続ける。

AIスピーカー、コントローラーパネル、セキュリティセンサー、スマートロック、スマートライトなどのIoTデバイスを提供することで誰でも手軽にIoTの賃貸住宅を提供できるようになるキットの販売を行っているITベンチャーもありますし、スマートホームデバイスを専門で取り扱うリンクジャパン社は、売上高4年連続300%成長を達成するなどスマートホームのIoT市場拡大に一役買うと共にその追い風を受けています。

 ただ、スマートホームの本質は取得可能なIoTデータに基づく、真のOne to Oneマーケティングにあると見ています。詳しくは、また別の機会にお話しますが、GoogleやAmazonのような巨人達もスマートホームに参入していますが、その狙いの1つはこうしたデータの取得と、それに基づく次世代マーケティングにあると考えられます」

4.空いているスペースはすべてオンライン上で有効活用

スペースシェアリング

「スペースシェアリング」とは、短期〜中長期で空き不動産や空きスペースを貸し出し、オンライン上で貸し手と借り手のマッチングや決済を行うサービスのこと。

「空きスペースを有効活用し、遊休資産をシェアすることで新たな事業機会を創出します。代表的なものに、スペースマーケット社の『スペースマーケット』や、スペイシー社の『Spacee(スペイシー)』軒先社の『軒先ビジネス』があります。貸し出す空きスペースとしては、オフィスや会議室、パーティールーム、商業ビルの催事場などが一般的ですが、最近ではトレーニングジムやフィットネススペース、楽器演奏やダンス用のスタジオ、映画館や無人島までバリエーションも豊富です。他にもAkippa社の『Akippa(アキッパ)』、軒先社の『軒先パーキング』のような個人が所有する空き駐車場を貸し借りする、駐車場のシェアリングサービスも広がっています」(川戸氏)。

 あらゆるスペースがオンライン上でマッチングでき、有効活用できるわけだ。利用する側のメリットだけでなく、ビジネスチャンスとしても大きな可能性を秘める。このあたりが、不動産テックが現在注目されている大きな理由である。

5.資金調達や投資・・・様々なプロジェクトでの活用

不動産クラウドファンディング

 いまや市民権を得たといえるクラウドファンディング。少額なものから高額なものまで、資金調達のプラットフォームとして活用されている。

 実は、このクラウドファンディングも不動産業界では大きな注目を浴びている。一見、なじまないように見える不動産とクラウドファンディング、果たしてどのようなサービスが、活用されようとしているのだろう?

「不動産クラウドファンディングとは、インターネットを活用して不特定多数の人から資金調達を行い、不動産プロジェクトへ投資するプラットフォームサービスです。一般の個人投資家が、数万円レベルの小額から投資が可能となっており、新たな不動産投資機会を創出しています。プラットフォーム上では、数千万円から数億円の資金が集まり、多いものでは2桁億円の資金が集まるプロジェクトもあります」

 信じられない規模であるが、どんな企業が行っているのか。

「代表的なのは、ロードスターキャピタル社の『OwnersBook(オーナーズブック)』、クラウドリアルティ社の『Crowd Realty(クラウドリアルティ)』などがあります。OwnersBookがマンションやオフィスビル・商業ビルのプロジェクトを募集しているのに対して、クラウドリアルティは京町家再生プロジェクトという京町家の取得および宿泊施設へのリノベーションを行うプロジェクトや、渋谷区上原保育園プロジェクトなど珍しいプロジェクトを扱っているのが特徴です」(川戸氏)

 不動産クラウドファンディングにおいては、資金の調達にとどまらず、不動産投資、商業施設のプロジェクト、地域再生やリノベーションという分野まで広がりを見せている。

 不動産=高額というイメージが一気に取っ払われる可能性もある。

 こうして見ていくと、「不動産テック」はいずれも既存のイメージを大きく変えることで、我々に新たなサービスを提供し、一方でビジネスチャンスを提供しているといえる。これからの課題はどこにあるのか。

 順風満帆に見える不動産テックの未来だが、いくつかの問題点もあると川戸氏は言う。とくに日本国内においての課題について後編でご紹介する。

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