尖閣や竹島などといった領土問題により、ナショナリズムが取り沙汰された昨年。現在も一触即発の状況が続くこの難題への対処は、2013年の日本を占ううえでひとつの焦点になることは間違いありません。果たして、日本はこの問題にどのように対処するべきなのでしょうか。

 かつて数々の凶悪犯罪を起こしたオウム真理教のスポークスマンとして知られ、現在はオウムから脱却して自ら設立した「ひかりの輪」代表を務める上祐史浩さんは、昨年末に上梓した『オウム事件 17年目の告白』のなかで、自らの経験と重ね合わせ、加熱するナショナリズムに警鐘を鳴らしています。

 「独善的な思想を持つ者は、宗教であれ、ナショナリズムや経済思想であれ、みな敗者となったのではないか。最近の外交問題の背景にもナショナリズムがあると言われる。国家神道だろうが、中国の中華思想だろうが、韓国の小中華思想だろうが、自国を他国の上に置くのであれば、オウムのようなカルト教団と似てくるのではないだろうか」

 オウム真理教の教祖であった麻原彰晃は信者たちに思想の違う者を否定し、自らを正当化させることによって、数々の凶悪事件を起こすに至りました。上祐さんは、地下鉄サリン事件当時、教団を弁明したことについて、このように述べています。

 「当時の私は『日本人』ではなく、『オウム人』として、麻原とその教団に執着し、依存していた。誤解を恐れずに喩えれば、第二次世界大戦前の日本軍に一部似ている。『自分の国は神の国で、神の国が負けるわけがない』という信仰が充満する中で、客観的に見れば、この戦争が破滅の危険をはらんでいても、神の国である我が国を捨てることはできなかったという心境である。だから、地下鉄サリン事件が発生したときも、表面は日本人の顔を持ちながら、心では別の国(=オウムの国)を守るために、私は必死に教団を弁明していった」

 オウム問題と領土問題を同列に扱うことはできませんが、教団内で「オウムの国」というナショナリズムが必要以上に加熱した結果、オウム真理教は多くの被害者を生み出し、自らも破滅しました。かつてオウム真理教がしてきたことは、決して許されることではありません。しかし、こうした経験の当事者である上祐さんの言葉や考えには、学ぶべき部分もあるのではないでしょうか。