どんな仕事が自分に合っているのか、どんな企業を就職先に選べばいいのか、就職活動を前に悩む学生の方も多いのではないでしょうか。
今回は就職活動の基本とも言える「企業選び」の条件について、経済評論家であり楽天証券経済研究所の客員研究員でもある山崎元さんに記事を執筆いただきました。

自らも12回の転職を経験した山崎元さんは「新卒で入った会社で一生が決まってしまうわけではない」ということを体現している好例。そのときの自分に一番よい影響を与えてくれる会社を選ぶのも、就職活動時に必要な目線の1つ。自分の「人材価値」を高める企業を選ぶコツについて、山崎さんが挙げた4つの条件とは?

▼執筆

経済評論家・楽天証券経済研究所 客員研究員 山崎元さん

北海道生まれ。東京大学経済学部卒業後、三菱商事に就職。以後、12回転職を経験。(三菱商事→野村投信→住友生命→住友信託→シュローダー投信→バーラ→メリルリンチ証券→パリバ証券→山一證券→DKA→明治生命→UFJ総研)
2005年より、楽天証券経済研究所客員研究員に就任し、楽天証券のメディア『トウシル』などに記事を執筆。資産運用分野が専門。雑誌やウェブサイトで多数連載を執筆し、テレビコメンテーターとしても活躍中。

企業選びの4原則

大学生就職活動を意識した雑誌の企画などで「10年後、あるいは20年後に成長している会社を推薦してください」といった依頼が来ることがよくあるが、実はこうした考え方はまったく有効ではない。遠い将来に栄えている会社など、誰にも予想できないからだ。こうした質問に対する識者の回答はまったく参考にならないと申し上げておく。回答を見ても、現在すでに知名度のある大企業を挙げていたり、すでに成長ステージが終わったベンチャー企業が並んでいたりする。

他人の予測力や先見性といった曖昧なものを頼るのはやめた方がいい。自分で将来を予測しようと力むのも無駄だ。別のアプローチ方法を考えるべきだ。

結論を急ぐ読者のために、「良い就職先選び」の方法として、筆者が提示したいと思うのは以下の4原則だ。

良い企業選びの4原則

原則1 興味の持てる仕事であること

原則2 価値観に反しない仕事であること

原則3 優秀な人が多い職場であること

原則4 忙しい職場であること

自分に適する職業というものは、論理的に答えが決まるようなものではなく【出会う】ものだ。上記の四原則を満たす会社に「とりあえず」就職してみることから始める以外に、良い方法はない。

それでは、なぜ良い企業選びにこの4つが重要なのか、説明していこう。

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頼るべきは自分の「人材価値」

俗に「人生100年時代」と言われるように、我々の生物的な寿命は延びている。現在は「60歳が定年で、65歳まで継続雇用で働ける」といった条件の会社が多く、22歳で大学を卒業して就職するのだとすると、40数年働くようなケースが想定される。

一方、1つのビジネスの寿命は30年程度ではないかと言われることが多い。技術の進歩や社会の変化があれば、これがもっと短期化する可能性も否定できない。一つの会社なり役所なりに職業人生全体を委ねるのは危険であるのと同時に、現実的ではない。

もちろん、結果的に自分が就職した会社が40年以上保つこともあるのだが、そうではない場合についても考えておく必要がある。

その場合に頼るべきものは、自分の「人材価値」だ。人材価値とは所属する組織の中での評価にも関係するが、転職市場で自分が評価されるような価値のことだと考えておくといい。会社の10年先は分からないとしても、1年1年自分の人材価値を作っていくことは可能だ。就職先の選択は「自分の人材価値にプラスになるか否か」で考えるのが正解だ。

人材価値は、数式で表現すると
「人材価値=(仕事の能力+仕事の実績)×今後働ける年数」
と考えることができる。仕事の「能力」を獲得するにも、「実績」を作るにも時間がかかるため、計画性を持つことが必要だ。

「人材価値」を作り、育てる条件が企業選びの4原則に直結する

さて、就職したばかりの新入社員は、仕事の能力も実績も持っていないので、人材価値の点で非常に弱い条件にある。就職先は「なるべく早く自分の人材価値を作ることができる職場はどこか」という観点から選ぶ必要がある。

仕事を覚えるためには、まず、その仕事自体が興味を持てるものである必要がある。学生にとって興味を持てない教科の勉強が苦痛で成果が出にくいように、興味を持てる仕事を選ぶことがまずは重要だ。

また、興味に加えて、その仕事が自分の倫理的な価値観に反しないものであることが大切だ。例えば、営業職に対して、「努力の成果が数字に表れやすい、やり甲斐のある仕事だ」と思う人もいれば、「顧客に錯覚させてでも商品を売ろうとする、倫理的に良くない仕事だ」と思う人もいる。こうした感じ方の問題は、実際に働いてみないと分からない場合もあるのだが、自分の価値観に反する仕事に就いた場合、自分の努力に対して疑いの気持ちが生じてしまうために、能力を伸ばすことができなかったり、仕事上頑張りが必要な場面で十分力が入らなかったりする場合がある。報酬額の高さや、世間的な評価だけで職業を選ぶと、能力を身に付けることが上手くいかない場合が大いにあり得るのだ。

▽「好き」と「価値観」の掛け算

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さて、ここまでの2つの条件で「仕事」を適切に選べたとして、次に、どのような会社(あるいはもっと具体的に職場)を選んだらいいかという問題がある。

効果的に仕事を覚えて自分の人材価値を作る上では、職場に仕事の習得に親切に手を貸してくれる「先生」がいてくれるといいのだが、理想的な先生はなかなかいないのが現実だし、先生の側も自分の仕事があるので、後輩の人材価値のためにだけ時間を使ってもらうわけにはいかない。

多くの場合、仕事というものは自分で試行錯誤しながら覚えていくしかないのだが、この際に重要なのが周囲の競争環境だ。率直に言って「優秀な人が多い環境」に身を置く方が、自分の仕事のスキルを高める上で有効なのである。優秀な人は同時に手強いライバルにもなるのだが、それ以上に、自分のスキル自体を高めてくれる効果を持っている。

加えて、最後の条件である「忙しい職場であること」だが、仕事に限らず「スキル」というものは実際のケースを多く経験することで覚えるのが効果的だ。「量を伴わないスキルの向上はない」と言ってもいい。忙しい職場の方が、仕事を覚えて人材価値を作る上では良い環境なのだ。

もちろん、中には無意味に忙しいだけで、働いていても人材価値の向上につながらない所謂「ブラック」な職場もあるので、こうした職場に就職してしまった場合は早く逃げ出すに限る。しかし、評価の高い会社に転職するような先輩社員がたくさんいるような職場なら、忙しい職場であることは喜ばしいことだと考えるべきなのだ。

これで、人材価値を作り育てる4つの条件、すなわち良い企業選びの4原則を一通りご説明したことになるが、ご納得いただけただろうか。

入社後の心得

「自分の人材価値を作るため」という目的意識を持って企業を選び、入社したとしよう。まず新入社員は何をしたらいいのだろうか。

2つ申し上げておこう。

1つは、年齢の近い先輩社員で「この人は優秀だ」と思える人を競争上のターゲットに設定することだ。前述のように、仕事を覚えていない新入社員は人材価値の上で大変弱い存在だ。仮に会社という船が沈んだ場合に、地力で泳げるくらいの力を早く養わなければならない。この際の目標の持ち方として、もっとも分かりやすいのは、前を走る先輩に追いつき、追い越すことだ。

もう1つ考えておきたいのは、仕事のために自分の時間と努力を「投資」することだ。例えば、日本の多くのサラリーマンは週休2日制の職場で働いているが、2日の休みのうち一方の日の半分くらいの時間を、何らかの意味で仕事にプラスになる活動に投資することを考えるといい。

このように説明すると、「随分あくせくと競争するのですね」という反応が返ってくることがあるのだが、仕事の世界では、相対的な競争が大きな意味を持つのが原則であり同時に現実だ。例えば、プロ野球選手を考えるとして、打率が2割7分のバッターと3割のバッターでは、ヒットの生産性は10%しか違わないかも知れないが、両者の年俸の差は何倍にも及ぶのが通例だ。価値は、相対的な「差」に宿るのだ。

「3分の1」に対する想像力

さて、情報収集に励み、よく考えて就職先を決めて意欲満々で働き始めたとしても、職場が自分に合わないという状況は起こり得る。新卒での就職者が3年以内に3割辞めるというのは有名な話だが、就職でも転職でも「3回に1回くらいは失敗があり得る」というのが、筆者の実感だ。

結婚でも、3組のカップルのうち1組は離婚に至ると言われているから、人生の重要な決定というものは、3回のうち1回くらいは失敗するものなのだと考えるくらいがいいのかも知れない。

就職に関して言うならば、「就職は一生に影響する問題だが、一生を決めるほどの大問題ではない」と言える。もちろん、時間は貴重なので、失敗した場合の対策は早いほうがいいが、「失敗してもやり直しがきく」ということは覚えておこう。

筆者は読者の成功を願っている。ご自身の「時間」と「努力」の良い「投資先」を見つけて欲しい。

関連リンク

企業研究のクチコミ・掲示板 - みん就(みんなの就職活動日記)

編集:楽天証券の投資・経済情報メディア「トウシル」編集部

楽天証券の投資情報メディア「トウシル」編集チーム。「お金と投資をもっと身近に」をテーマに、政治・経済とお金の関係など、日々の生活や仕事にも役立つ情報を、初心者からプロフェッショナルにまで、分かりやすく提供しています。
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自分の「人材価値」を高める、企業選びの4原則