トットナム戦で“テキストから逸脱”したプレーで好セーブ連発

 子どもの頃、フットサルプレーすることは、サッカー選手の育成に良い影響を及ぼすことは広く知られてきた。そのほとんどはフィールドプレーヤーの育成について語られているが、GKの育成においてもフットサルは有効なのかもしれない。それを示しているのが、マンチェスター・ユナイテッドスペイン代表GKダビド・デ・ヘアだ。彼のゴールを守るテクニックが異質であることを、英衛星放送「スカイスポーツ」が報じている。

 デ・ヘアは、1月13日プレミアリーグ第22節トットナム戦で、後半だけで11回のセーブを記録。相手の攻撃をシャットアウトし、1-0での勝利の立役者となった。しかし、さらなる称賛を呼んでいるのは、その11回のセーブのうち、4回が足でのセーブだったことにある。過去10年間を振り返っても、プレミアリーグの試合で1試合に4回以上のシュートを足で止めた守護神はいなかった。このデ・ヘアの“テクニック”がゴールキーパー界に波紋を呼んでいる。

 プレミアリーグでGKの経験があり、ポッドキャスト番組「ゴールキーパーズ・ユニオン」を作ったリチャード・リー氏は、「テキストを逸脱している」と、デ・ヘアの動きについてコメントし、その動きについて「ロシアダンサー並み」と絶賛している。

トレーニングのなかで、足で止める練習なんてした覚えがない。デ・ヘアはプレミアリーグのGKで誰よりも多く、2回、3回と足でセーブする。テキストからは全くもって外れているが、足を使ったほうが圧倒的に早く反応できる。彼は瞬時に足を使うべきタイミングを判断するマスターだ」

 しかし、そもそもデ・ヘアはこの“テキストには載っていない”技術をいつ、どこで、どのようにして習得したのだろうか。

 イングランドでは普通ではないかもしれないが、そこに不思議はない。デ・ヘアは多くの若いスペイン人選手のように、5人制の“フットサル”をプレーして育ったのだ。

ケインやアリの決定機を止めたセーブは“フットサルの守り方”

 デ・ヘアは、14歳までフットサルフィールドプレーヤーを務めていた。それが彼の素晴らしいフットワークにつながり、同時にフットサルのGKの守り方を見て育ったことが、サッカーセオリーとは異なる守り方ができる要因になっているようだ。

 リー氏は「彼のセービングを“運が良い”とする向きもあるが、そうじゃない。あれは彼がスペインフットサルをやっていた時に身に着けたテクニックだ。リアクションがベースになっていて、低いボールを止めるのに役立っている。彼には、その動きが染みついていて、スタンダードな技術になっているんだ」と解説する。

 また、フットサルの世界で長らく“最高のGK”と称されていた元スペイン代表GKルイス・アマド氏は、過去に「デ・ヘアを見ていると鏡のなかの自分を見ているようだ」と話していた。

 また、約10年にわたりフットサルイングランド代表GKコーチを務めたトニーエリオット氏も、「トットナム戦を見て、フィニッシュが悪かったと言う人がいるが、それは馬鹿げた話だ。もし他のキーパーが守っていたら、いくつかのシュートは入っていただろう。なぜなら、彼らはテキストどおりにセーブしようとするからさ。デ・ヘアはそれをやらない。彼はやるべきことをやる。私にとっては、それが素晴らしいゴールキーピング」と惜しみない賛辞を送った。

 エリオット氏は、トットナムイングランド代表FWハリー・ケインとの1対1を止めた場面について、「フットサルのGKがよく見せる足を使った守り方だ」と言い、同MFデレ・アリとの1対1をブロックしたプレーも「フットサルの“K-ブロック”という技術だ」と、練習のなかで身につく動きだと説明した。そして、ケインの低くて速いシュートを右足で阻止したシーンは「もし彼が手で守ろうとしていたら間に合わなかった。だから彼は足を大きく開いてゴールを守ったんだ」と、解説している。

「ユース年代でフットサルプレーしない唯一の国がイングランド

 長年、インランドゴールキーピングの指導をしてきたエリオット氏は、フットサルの導入を検討すべきと考えている。「ヨーロッパにおいて、ユース年代でフットサルプレーしない唯一の国がイングランドだ。教えていることは変わらない。体をボールの正面に向け、両手を横に下げて構えるとか、常に同じ指導をしてしまう。それによって何が起きるのかと言うと、キーパーは特定のテクニックしか教えてもらっていないから、それと異なる状況になった時、どうやって守ればいいかが分からないんだ」と、イングランドにおけるゴールキーピングの指導法の問題点を指摘した。

「こうした技術を教えないというGKコーチの知識や経験を、否定するつもりはない。でも、彼らにはサッカーは進化すると伝えたい。サッカーは変わっていくし、近代サッカースピードアップによって、GKにもかつてないほど、素早く判断する力が求められている。サッカーフットサルでは、ゴールの大きさは違う。でも、それだけの違いなんだ。デ・ヘアのセーブを見返せば分かる。彼が2メートル以上、体から離れたボールセーブした回数が何度あったか? 全身を使ったセーブは2本あったけど、ほとんどは2メートル以内に飛んできたボールを止めている。フットサルの小さいゴールを守ることで、むしろ簡単に飛び込まない動き、素早く反応することを身に着けられるんだ。サッカーに生かせる技術が養えるんだよ」と、イングランドサッカーの変化に合わせて、新たな選手育成論を探っていくべきだと強調した。(Football ZONE web編集部)

マンチェスター・ユナイテッドGKデ・ヘア【写真:Getty Images】