北米最大の家電見本市CESなどで存在感を示すフレンチテックの旗

【詳細】他の写真はこちら


最先端のデジタルガジェットソフトウェア開発のスタートアップと言えばアメリカ、シリコンバレー発、というのが定番だ。だが、最近はそれを横目に一際目を引く集団がある。それが真っ赤な「にわとり」を掲げたフランス発のスタートアップ群「フレンチテック」だ。米ラスベガスで開催されているCESでは毎年規模を拡大。2018年には、スタートアップ企業が集まるエウレカパークの900超のブースのうち、300以上がフレンチテック企業だったという。それほどまでに勢いを増しているのだ。

このフランスの勢いにいち早く気づいたのが、日本のハードウェアスタートアップを牽引してきたShiftall代表の岩佐琢磨さん。フレンチテックのすごさと日本との差について解説してもらった。

Profile

岩佐琢磨さん:Shiftall
パナソニック退社後、ハードウェアスタートアップCEREVOを立ち上げ、様々な製品を生み出す。2018年、新たに新会社シフトールを立ち上げてパナソニック子会社として活動をスタート。

「最初にCESでのフレンチテックの勢いに気づいたのは2017年のCESでした。世界中からスタートアップ企業が小さなブースを出展するエウレカパークというスペースがあるんですが、2017年からフランス系の企業がすごい増えたんです。軽く100社以上、全てハードウェアスタートアップに驚きました」(岩佐氏・以下同)

そもそもフレンチテックとは、フランス国内にあるスタートアップ企業を国内外にPRするために2013年に作られたブランド名であり、ネットワークの総称だ。フランス政府は、フレンチテックとして活動するスタートアップに、様々な支援を行うとともに、インキュベーター(支援事業者)やアクセラレーションプログラムに対して総額2億ユーロを提供して、スタートアップ企業を支援してきた。そして、CES 2017で海外にもその存在を大きくアピールしたというわけだ。

フランスのスタートアップ政策は日本とは規模や取り組みのレベルが異なっているという。日本では経済産業省中小企業庁などが、幅広いジャンルに対して公平に支援をするというやり方が行われてきた。それに対してフランスでは、省庁レベルではなく国策として、官民一体となって、スタートアップを支援。さらに事業内容などを認定されると、運営資金だけでなく徹底したサポートが受けられるのだ。

「例えばフランスでは認定されたスタートアップ企業で働きたいという場合、ビザが発行されます。それだけじゃなくて、フランスでベンチャーを立ち上げたいという場合でも、認められれば、家族の分のビザまで出ますし、資金提供や様々な支援、アドバイスが受けられる仕組みがあるんです。日本でもこの仕組みを参考にして、2018年から『J-Startup』という仕組みが始まりました。これもフレンチテックの成功を目の当たりにしてのことだと思います」

ベンチャー企業の成功には圧倒的なまでの数が必要
CESだけを見ているとフレンチテックの本質を見誤る、と岩佐さんは語る。というのも、CESに来ているのはあくまでハードウェアスタートアップ。フランス国内にはソフトウェアやサービス、フィンテック(金融)など、多くのスタートアップ企業が存在している。

VIVA TECHNOLOGY
2018年5月にフランス・パリで開催されたスタートアップイベント。約9000社ものスタートアップが参加し注目を集める。

BUSINESS FRANCE
フレンチテックの国際化を手掛ける組織。フレンチテック企業の国際的な展示会への出展や、世界中の大企業、スタートアップをフランスに誘致する活動を行う。

それを支えているのがフランス大企業の数々だ。フランスには旅客機メーカーのエアバスルノープジョーシトロエンといった自動車メーカー、そしてLVMHグループ、ロレヤルなどがある。これらが多くのスタートアップ企業を支える仕組みがあり、またハードウエアに強い土壌があるのだ。

「スタートアップのエコシステムにおいて最も重要なのは『数』なんです。レベルの高いスタートアップが10社だけあるよりは、とにかく1万社あるほうがいい。裾野が広いことが大事。2017年のCESには100社以上のフレンチテック企業が出展しましたが、おそらくその当時日本にはハードウェアスタートアップはそんなに数はなかったはずです。スタートアップは成功すると、新しいスタートアップに投資を行ったり、新たな事業を手がけるので循環も起きます」

フレンチテックはスタートアップの数という面でも成功を収めているというわけだ。では岩佐さんの考えるフレンチテック成功の理由はどこにあるのだろうか。一つは前述の通りの国策としてのグローバル展開だ。フレンチテックというブランドを作り上げ、「にわとり」を旗印に一体化してみせた。さらに大企業にもスタートアップを育てる仕組みがある。そしてもう一つがデザインの基礎レベルの高さだ。

フランスのベンチャーと話すと、テクノロジーの前にデザインの話が出てきます。それぐらいデザインを大事にしている。そして意識レベルが非常に高い。だからフレンチテックの取り組みでも、フランスの街並みのような統一性とおしゃれさがあるんです」

フレンチテックの取り組みはこれからも続く。世界中から優秀なスタートアップをフランスに集め、それらを徹底して支援して育て、新しい事業を生み出していく。すでに時価総額が12億ユーロを超えたフレンチテック企業も登場している。2019年もフレンチテックの勢いは止まらなさそうだ。

フレンチテックの勢いをいち早く日本に伝えた岩佐さん。2018年は体制を大きく変えた。それまで率いていたCerevoを離れ、新たにパナソニックグループの一員としてShiftallを立ち上げたのだ。最大級の家電メーカーの一員となったが、行うことはこれまでと同じ、スタートアップ流のものづくり。パナソニック内に眠る様々なアイデアをスタートアップならではのスピードとものづくり力で製品化をしていく。第一弾となる『WEAR SPACE』はクラウドファンディングを成功。日本のスタートアップをこれからもけん引してくれそうだ。
『WEAR SPACE』はパーティションとノイズキャンセリングヘッドホンで、パーソナルワークスペ-スを確保するガジェット。目標額1500万円という高額目標も無事達成した。

【2019年は間違いなくフランスが来る!】

フランスには、誰もが憧れを抱くオンリーワンの魅力がある。
その証として、観光地としてはもちろんのこと、クルマ、時計、インテリア、ファッション、はたまたテクノロジー界隈などどの角度から眺めても、他の国とは違うイケている要素が必ず見つかるのだ。今はたまたまデモなどの影響で、パリの街を中心に荒れた映像が流れている。だが、フランスに対する多くの人々が持つ、秘めたる想いは変わらないだろう。2019年は間違いなくフランスが来る!

※『デジモノステーション』2019年2月号より抜粋。

textコヤマタカヒロ

photo四宮義博
(d.365
掲載:M-ON! Press