最近、女性を対象にした講演会やセミナーの講師に呼ばれると、「シングルマザーが増えたなぁ」と感じることが多くなりました。講演後の質疑応答や、受講者との懇親会で「私はシングルマザーなんですけど……」と前置きした上で、会社や世間から注がれる“まなざし”の厳しさを訴える女性が相当数存在するのです。

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 総務省によれば、シングルマザーの総数は約110万人(2015年時点)で、世帯の区分別にみると、他の家族とは一緒に住んでいない「母子世帯」が75万5000人と全体の7割強を占めています。

 年齢別では「40~44歳」が28.5%と最も多く、次いで「35~39歳」(21.7%)、「45~49歳」(18.2%)と、比較的高めであることが分かります

 また、シングルマザーの数は2000年から05年にかけて増加したものの、それ以降はほとんど変わっていません。しかしながら、「未婚のシングルマザー」に限ってみると……。

 00年に約6万3000人だったのが15年には約17万7000人となり、3倍近くに急増しているのです。

 実は私が「最近増えたな」と実感しているのが、まさにこの「選択的シングルマザー」たち。経済的にも精神的にも自立していて、結婚せず母親になることを選択した“ワーママ”です。

●「選択的シングルマザー」へのまなざしは冷たい

 選択的シングルマザーは「Single Mother by Choice=SMC」の和訳で、アメリカの心理療法士ジェーン・マテス氏が今から40年近く前の1981年に使ったのがきっかけで、世界中に広がりました。

 「彼女たちは独身でありながら、母親になることを選択した人。心身共に成熟した大人の女性であり、責任感にあふれている。そして、シングルマザーになったことについて、被害者意識をもつのではなく、むしろ力づけられたと思っている人たちである」と、マテス氏は選択的シングルマザーを評します。

 「選択的シングルマザーなんて!!」と目を釣り上げている人も多いかもしれませんが、世界では決して珍しい存在ではありません。特に2006年に民法を改正し、婚外子も婚姻関係から生まれた子と同一の権利が得られるようになっているフランスでは、社会的に広く認知され、偏見のまなざしは存在しません。

 それでもやはり「選択的夫婦別姓」でさえ反対意見が多い日本ですから、彼女たちに注がれるまなざしは半端なく冷たい。いや、それだけなら「選択的」に未婚を選んだ女性も我慢できるかもしれません。問題は「未婚」というだけで、会社を辞めなくてはならないリアルです。

 実際、私がインタビューした43歳の女性もそうでした。

●「時短勤務不可」「子どもがかわいそう」未婚の母のリアル

 「39歳のときに出産しました。最初、妊娠が分かったとき、会社を辞めなければいけないと思っていました。でも、そのときの上司に『産休も育休もあるじゃないか。未婚とか関係ないだろ? それともどうしても辞めたい理由があるのか?』と聞かれたんです。それで普通に産休も育休も取って、復職。ところが、その後上司が異動したことをきっかけに、子どもを育てるために会社を辞める選択をせざるを得ない状況に追い込まれました。

 時短勤務は『未婚者には適用できない』と、新しい上司に却下され、子どもが熱を出したりすると『また早退? 面倒見てくれる親とか、きょうだいとかいないの?』と同僚や先輩社員から言われ続けました。

 まだそれだけならなんとか我慢できたかもしれません。でも、『子どもがかわいそう』『子どもペットじゃない』『父親のいない子は一生苦労する』って。どんなに仕事で結果を出そうとも、陰口だけでなく面と向かって言われてしまったんです。

 それで折れた。……それ以上はムリでした。完全に心が折れた。会社を辞め、今の会社に転職しました。以前は正社員でしたが、今は非正規です。

 私は子どもを産むまで17年近く、その会社で評価され、キャリアも順調に重ねてきました。それが未婚というだけで、ゼロ評価どころかマイナスに評価され、白い目で見られるようになってしまった。未婚のシングルマザーでは、会社員失格なんですか? 『女性にやさしい社会』の“女性”に、未婚のシングルマザーは入っていないんでしょうか?」

 ……彼女は実に悔しそうに、厳しい経験と苦しい胸の内を話してくれたのです。

●麻生氏発言、問題は「産んでも歓迎しない社会」

 くしくも、麻生太郎副総理兼財務相が「(年を)取ったやつが悪いみたいなことを言っている変なのがいっぱいいるが、それは間違っている。子どもを産まなかった方が問題なんだ」と、少子高齢化に伴う社会保障費の増加に関して、後援会の集会で発言したことが問題になりました。ですが、「子どもを産んでも歓迎しない社会が問題じゃん!」と思うわけです。

 一応、麻生氏は2月4日の衆院予算委員会で、立憲民主党会派の大串博志氏から「子どもを持ちたいと思っても結果が出ない人もいる。感度の低い不適切な発言だ」と批判され、「誤解を与えたとすれば撤回する」と述べました。しかし、14年12月に行われた衆院選の応援演説でも「高齢者が悪いみたいなイメージを作っている人が多いが、子どもを産まないのが問題だ」などと、同様の発言をしています。つまり、誤解でも何でもなく、心から「子どもを産まない女性たちが悪いんだよ!」と思っているのでしょう。

 そもそもどんなに「子どもを産め!」と女性たちに迫ったところで、東京五輪が開催される20年には「日本人の女性の過半数が50歳以上」です。

 これはジャーナリストの河合雅司氏の算出によるもので、合計特殊出生率を計算する際に「母親になり得る」とカウントされている49歳までの女性人口と、50歳以上の女性人口を比較したところ明らかになった“驚愕の事実”です(国立社会保障・人口問題研究所の推計に基づき算出)。

 個人的には「出産期を終えた年齢」という言葉にグサッときましたが(苦笑)、私を含めた半数以上の女性が50歳以上になるということは……。な、なんと一人で5人も6人も産まないと、政府が目標にする希望出生率1.8には届きません。

●一つ一つの決断が“世間のまなざし”を変える

 選択的シングルマザーが社会に受け入れられているフランスでは、17年、先進国の中でも高い合計特殊出生率1.88を記録。その6割が、結婚していない親からの出生でした。それだけではありません。「どんな家族のカタチであれ、子の権利は同じ」という政治的理念のもと、パリ市では教育と保育福祉には徹底的にお金を使い、全ての子どもたちが同じように質の高い保育と教育を受けられる工夫が施されています。

 一方、日本では、未婚の母子家庭は死別・離別のひとり親に適用される寡婦控除を受けられないなど、税控除や行政の助成の対象から外されてしまうのです。

 さて、麻生氏の発言がいかに見当違いか、お分かりいただけましたね。政治家の一つの決断が“世間のまなざし”を変えることは往々にしてあります。こういうときこそ世界を見よ! 世界をまねろ! と心から思います。

(河合薫)

社会からの“まなざし”の厳しさを訴えるシングルマザーがたくさんいる(写真提供:ゲッティイメージズ)