インフルエンザの患者数が過去最多を記録しました。病院や養護老人ホームの集団感染もたびたび報じられていますが、その中で「インフルエンザの予防薬」との言葉がありました。薬で予防できるのであれば、受験生など「どうしてもインフルエンザになりたくない」人には朗報ですが、誰でも使えるものなのでしょうか。医師の市原由美江さんに聞きました。

重症化の恐れのある人が対象

Q.インフルエンザの「予防薬」というものはあるのでしょうか。

市原さん「特別な『予防薬』があるわけではなく、『タミフル』などインフルエンザの治療に使う抗インフルエンザ薬のことです。抗インフルエンザ薬は、インフルエンザウイルスの増殖を防ぐ作用があり、治療とは別に予防薬としても使用できます」

Q.どのような人が対象で、どのような効果があるのでしょうか。

市原さん「家族や共同生活者がインフルエンザに感染していること、かつ、インフルエンザに感染した場合に重症化する可能性のある人(65歳以上の高齢者、気管支ぜんそくなどの慢性呼吸器疾患、心不全などの慢性の心臓病、糖尿病などの代謝性疾患、腎臓病)が条件です。

ただし、健康保険は使えないため、診察代や薬代などはすべて自費になります。100%ではないですが、インフルエンザウイルスに感染しても発症しにくく、たとえ発症しても軽症で済む効果があります」

Q.どのくらいの期間有効なのでしょうか。

市原さん「成人の場合、薬の種類によって次のようになります」

オセルタミビル(商品名:タミフル)】
1日1回75ミリグラムを7~10日間内服。内服している期間のみ予防効果がある。

ザナミビル(商品名:リレンザ)】
1日1回10ミリグラムを10日間吸入。吸入している期間のみ予防効果がある。

ラニナミビル(商品名:イナビル)】
40ミリグラムを1回吸入、または20ミリグラムを1日1回、2日間吸入。吸入開始から10日間予防効果がある。

Q.シーズン中、効果が持続するわけではないとのことですが、繰り返し服用することは可能なのでしょうか。

市原さん「別の家族がインフルエンザになった場合、再度予防投与を行うことはありますが、薬への耐性ウイルスが出現する可能性もあるため、使用は必要最小限にとどめた方がよいでしょう」

Q.ワクチン接種との違いは。

市原さん「ウイルスへの働き方が違います。インフルエンザワクチンは、インフルエンザウイルスに対する免疫力を高めることで発症を予防し、発症した場合でも症状の重症化を防ぐ効果があります。抗インフルエンザ薬の予防投与は、インフルエンザウイルスの増殖を防ぐことで、同じくインフルエンザの発症を予防し、発症した場合でも症状の重症化を防ぐ効果があります」

Q.副作用などのリスクがあれば教えてください。

市原さん「どんな薬にも副作用の可能性があります。予防投与で服用する場合、副作用の可能性を含めて同意した上で処方を受けることになります」

Q.試験日直前の受験生や「大事な仕事がある」人など、前述の条件にあてはまらない人が予防薬をもらうことはできるのでしょうか。

市原さん「予防投与の対象者は『家族や共同生活者がインフルエンザに感染していること、かつ、インフルエンザに感染した場合に重症化する可能性のある人』が条件です。個人的な理由で予防投与を受ける場合、『適応外使用』という扱いになります。

費用が自費であることは同じですが、副作用が出た場合に利用できる『医薬品副作用被害救済制度』が適用されないというデメリットがあります。この適応外使用を行うかどうかは、医師の考えによるため、診察時によく相談する必要があります」

オトナンサー編集部

インフルエンザの「予防薬」?