― 連載「倉山満の言論ストロンスタイル」―

◆おい、安倍!バカ!辞めろ!ハマコーなら……

 おい、安倍! バカ! 辞めろ!

 ハマコーなら、叱りつけているだろう。

 ハマコーとは、浜田幸一代議士の異名。元ヤクザで、殺人未遂の前科者だった。昔の自民党は、「衆議院に7回当選したら、ハマコー以外は誰でも大臣になれる」という政党だった。異様なまでの情報通で、「触らぬハマコーに祟りなし」と恐れられた。ある時ハマコーは、社会党の某代議士に対し「黙れ強姦野郎!」と罵った。

「憲政史上最低の野次」と呆れられたが、ハマコーは「俺を懲罰委員会にかけろ! 社会党の誰に賄賂が渡ったか、金額付きで暴露してやる!」と息巻き、お咎めなし。片や、野次られた某代議士は秘書への常習的なセクハラ明らかになり、政治生命を絶たれた。

 森喜朗元首相など本当にカメラの前で、「おい、森! バカ! 辞めろ!」と罵られていた。国民の不信に耳を傾けない首相に対するご意見番が、ハマコーだった。

 さて、さる1月28日。通常国会が開会した。安倍首相は所信表明で「消費増税に野党の皆様もご協力を~」と言い出した。デフレ脱却前の消費増税8%でアベノミクスが腰折れし、いまだに景気が回復していない。そんな時に10%に増税したら、どうなるか、子供でもわかろう。安倍首相は「増税しても景気が腰折れしないように対策する」と再三再四明言し、今年度予算でもバラマキを拡大している。これでは、増税したら景気が悪くなると自白しているようなものではないか。

 今年10月1日の消費増税10%が迫る状況で、日本経済に何が起きているか理解している人は少ないのではないか。

 断言するが、日本で最も正しい主張を続けているのは、片岡剛士日本銀行政策委員会審議委員である。現在の日本銀行デフレ脱却に向けて、金融緩和を続けている。その効果は消費増税によって減殺されているので緩やかでしかないが、景気を回復させている。これを推進している中心が、黒田東彦総裁、若田部昌澄副総裁、原田泰審議委員である。ほぼ毎月の政策決定会合で日銀の意思決定が行われているが、ここで片岡氏は「もっと金融緩和しろ!」と訴え続けている。

 片岡、若田部、原田、それに岩田規久男前副総裁はリフレ派と言われ、デフレ脱却の枠組みを作った。現に消費増税8%前のアベノミクスは爆上げとなったので、その理論の正しさは証明済みである。ただ、妨害があるので苦しんでいる。リフレ派には、3つの敵がいる。

 第一の敵は言うまでもなく、増税派だ。霞が関最強官庁と呼ばれる財務省と、その御用エコノミストたちだ。彼らはあらゆる詭弁を弄して増税の必要性を訴える。曰く、「日本の借金1000兆円。財政再建が必要だ」「高齢化社会に対応する福祉には財源が必要だ」「安倍内閣は史上最長の好景気だ。もう増税しても景気は悪くならない」云々。

 経営者やビジネスマンでなくとも、まともな経済感覚を持つ者なら、

「借金は利子より儲けのほうが大きければ、問題ないではないか」「福祉が国家予算を圧迫しているのだから、削る努力はしなくていいのか」

総理大臣の発言を聞いていると、10月1日から景気が悪くなるようにしか思えないが」と即座に反論できるだろう。ところが多くは経済紙(誌)を読んで財務省プロパガンダを真に受けている。マトモな経済人はいないのかと疑いたくなる。

 第二の敵は、財政出動派だ。デフレ脱却には金融緩和ではなく、財政出動が必須だと唱える輩だ。この人たちは口では「消費増税反対」を唱えているが、嘘つきの正論など犬のエサほどの価値もない。

 この人たちの嘘は歴史を見れば明らかだ。金本位制の時代ならいざ知らず、現代日本においては財政出動だけで景気回復を成し遂げた例はない。小渕恵三内閣では大規模財政出動をした。だが、最も効果があったのが小渕首相の「株上がれ~」のパフォーマンスという体たらく。麻生太郎内閣ではリーマンショックに日本は何の関係もないはずなのに金融緩和をしなかったばかりに、地獄絵図となった。空前の財政出動をしたが、「世界のキャッシュディスペンサー」と揶揄されただけだ。第二次安倍内閣の8%増税の時も財政出動は何の意味もなかった。

 そして今回、7兆円もの空前の国土強靭化予算が投じられることとなった。この人たちの議論が正しいなら、消費増税の悪影響はないはずだが、どうもそういう声は聞こえない。

 そして財政出動派が絶対に言わないことがある。防衛費増額である。原田泰氏はリフレ派の中でも財政出動に最も懐疑的な立場だが、防衛費だけは意義を認めている。ところが「そんなに財政出動をしたいなら、土木ではなく防衛費ではどうだ」と問いかけても、応えない。

 それは当然で、国土強靭化なる土建屋丸投げを推進しているのは二階俊博幹事長である。ゼネコンの利益代表であるだけでなく、言わずと知れた親中派だ。

 第三の敵が、リフレ派を気取る裏切り者だ。当たり前だが、スパイは熱烈な味方のフリをする。そして、人をミスリードする。

 保守・リフレ派を気取る論者の中には、「安倍首相は増税をやめる」と言いふらした者がいる。一昨年の総選挙、昨年の総裁選挙で安倍首相は「消費増税をやり抜く」と公約したが、味方のフリをしたスパイは「安倍首相を信じろ」と批判を封じた。こういう人たちの特徴は、都合が悪くなると黙る、過去の自分の発言をなかったことにすることである。

 そもそも、ここまで増税を公約して、大掛かりな予算措置までとって、今さらやめるなど許されるのか。もし本当に安倍首相が消費増税をやめる方法があるとしたら、内閣総辞職しかありえない。

 そもそも金融緩和の肝は、インフレターゲットだ。政府と日銀が目標を決めて、「経済成長率を2%まではもっていく」と宣言しているから、国民は安心してお金が使えるのだ(経済学の用語で「インフレ期待」と言う)。増税するとわかっていたら貯めこむに決まっている。安倍首相の態度がアベノミクスを破壊している責任は取ってもらう。

 日本経済の余命は1年を切った。誰かが声を上げねばなるまい。

 そういえばある日のハマコー曰く、「社会党、もっとヤジれ!」

【倉山 満】
憲政史研究家 ’73年、香川県生まれ。’96年中央大学文学部史学科を卒業後、同大学院博士前期課程を修了。在学中より国士舘大学日本政教研究所非常勤職員として、’15年まで同大学で日本国憲法を教える。’12年、希望日本研究所所長を務める。同年、コンテンツ配信サービス倉山塾」を開講、翌年には「チャンネルくらら」を開局し、大日本帝国憲法や日本近現代史、政治外交について積極的に言論活動を展開。ベストセラーになった『嘘だらけシリーズ』など著書多数

日本銀行政策委員会審議委員に就任し、記者会見する片岡剛士氏(右奥)。一人正論を主張し続け、孤軍奮闘する片岡氏が報われる日は、果たして来るのだろうか?(写真/時事通信社)