地球の深部炭素に関する国際的なサイエンスネットワーク団体、ディープ・カーボン・オブザバトリー(Deep Carbon Observatory:DCO)が驚きの事実を発表した。
地球の地下で生きる微生物の質量は150~230億炭素トンで、全人類を合わせた炭素質量のじつに245~385倍あるというのだ。
地下の奥深くで生命が存在できるはずがないと考えられていたのが、そう遠くない昔のことであるのを考えれば、まったく驚きである。
だが、その発表を詳しく見てみると、さらに驚愕の事実が述べられていた。
地下生命の年齢である。
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科学者の培養実験。細菌は蘇生する。
1920年代末、チャールズ・リプマンという科学者が、岩の中に細菌が、しかも生きたまま存在するのではと疑い始めた。
彼は、密封した瓶の中に入れられた乾燥した土に潜んでいた細菌が、40年後に蘇生した事実について考察していた――もし、細菌が40年間も生きられるのだとすれば、はたしてどこかに限界はあるのだろうか? と。
沼から採取した岩のような石炭は、その実験にぴったりに思われた。彼は石炭を砕き、そのカスから何かが成長するかどうか観察してみた――そして、思ったとおりだった。
石炭の粉末を滅菌水に混ぜて2、3週間放置しておくと、細菌のようなものが現れ始めたのだ。粉末を細菌が大好きな「ペプトン」たっぷりの溶液に入れた場合は、たったの5時間であった。
興味深いことに、この蘇生には、液体に数日間浸かるという水分補給期間が必須であることも判明した。石炭の粉末が湿っていたとしても、そのままペトリ皿のエサ入り寒天培地に入れても、何も育たなかった。
むろん、リプマンはサンプルが汚染されないよう細心の注意を払って実験を行なった。徹底的な洗浄・殺菌作業には、数時間あるいは数日におよぶ洗浄、浸漬、加熱、加圧が含まれる。
だが、これで判明したのは、160度でサンプルを数時間熱したとしても、石炭の内側にいる細菌を殺せないということだった。
それどころか、かえって細菌に力を与えるのだ。加熱時間が長くなるほどに(なんと最大50時間行われた)、その成長は促されたのである。
過酷な環境に耐えるためのアンヒドロビオシス
リプマンは、石炭から手に入れた細菌が、人間の腸内細菌のそれと同じ意味で生きているとは信じなかった。
むしろ、石炭を形成する過程で、カラカラに乾燥し、仮死状態になっていたと信じた。
「石炭の中の微生物は実際に生存者である。石炭はもともとは泥炭のような性質で、おそらくは微生物がきわめて豊富だったろう。だが、そこから石炭が形成されたときに、その中に囚われの身となったのだ。」
「私の意見では、石炭の塊のそこかしこに、一時的な胞子か、それに類する耐久性を備えた休止状態の細菌が散らばっており、時と環境の試練を生き延び、その生命としての特徴や栄養型に変化する力、あるいは状況が繁栄するにふさわしいものになったときに増殖する力を維持したのだろう。」(Journal of Bacteriology)
こうした干からびた状態を現在では「アンヒドロビオシス(anhydrobiosis)」という。これはクリプトビオシス の一つで、凄まじい生命力で知られるクマムシのような動物が、極度の乾燥状態や、宇宙の真空や放射線の集中砲火に打ち勝つため活動を停止する無代謝状態のことだ。
3億歳の微生物
リプマンが使った石炭は、ウェールズとペンシルベニアで採取されたもので、中には540メートルの地下から採掘されたものもあった。
ペンシルベニアの石炭は、ペンシルベニア紀という地質学上の時代の名称の由来ともなっている。そして、それは少なくとも3億年も前の時代のものだ。
リプマンの実験が行われたのは1931年のことだ。おそらく同僚は彼がおかしくなってしまったと考えたことだろう。
しかし2019年の我々の目から見れば、リプマンが別におかしくもなんともなかった線の方が濃厚だ。
世界最高齢の個体は、節くれだったブリストル・コーン・パインやクローンで形成されたアスペンの森林ではなく、地下の岩の中に囚われたちっぽけな微生物なのかもしれない――それが、成長もせず、子孫も残さず、ただ死神をごまかしているだけに過ぎないのだとしても。
地下細菌の寿命の長さを示唆する最近の研究
ここ10年で、堆積物や岩、あるいは地中深くの隙間や亀裂の中で生きているこうした細菌が、予想外に長生きであることを示す研究は増えている。
たとえば、2000年代初頭、帯水層や堆積物の微生物が呼吸をする速度は、地上にいる微生物のそれよりもずっと遅いことが明らかにされた。
そのバイオマス回転率(細胞の分子が置き換わるためにかかる時間)を計測すると、数百から数千年の長さであった。
「こうした地下環境の微生物が、ゆっくりとしたバイオマス回転率に応じて生殖するのか、それとも数百万から数億年も分裂することなく生きているのかは、不明である。」(Reviews in Mineralogy & Geochemistry)
2017年の研究は、日本の沖合に広がる太平洋の海底2キロの地下で採取された500万~3000万年前のサンゴと頁岩に、低密度(1立方センチあたり細胞50~2000個)の細菌が発見されたと報告している。
それは極端にゆっくりとしたものであるが、それでもちゃんと能動的に生きている。
推定によれば、その世代時間は数ヶ月から100年以上までの範囲があるとされているが、著者は、それでもなお推定値は短い可能性が高いと述べている(ちなみに大腸菌の世代時間は15~20分でしかない)。
2018年の研究は、南太平洋環流の深海に積もっている堆積物の中で生きる微生物についてのもので、そうした堆積物の中で彼らが身につけた適応は、成長を念頭においたものではなく、ただ生存するためだけのものであると結論づけている。
こうした微生物の唯一の食料源は、たまたま彼らと一緒に埋もれてしまったものだ。そして、彼らが自分を維持・修復するために毎年消費する炭素は、その細胞が保有する炭素量のたったの2パーセントでしかない。
「手付かずの微生物細胞がこの古代の生息環境から発見されたというその事実は、こうした生命が持つ回復力に関する注目すべき意味合いを示唆している。」(Geobiology)
微生物は400万年で成長を止める
2018年の研究で用いられたコンピューターモデルで、数百万年分のシミュレーションを行ったところ、400万年が経過した頃に、すべての細胞が成長を止めた。
まるで映画のマッドマックスに登場する、荒廃した世界を必死に生きる生存者のように、彼らはおんぼろの体を維持するために、使えるものは手当たり次第に取り込むだけだった。
このゼロサムゲームはいつまで続くのか? いつの日か、飢え死にしてしまうのか? リプマンが主張したような活動停止状態へとメタモルフォーゼするのか? あるいは、それには特別な条件が必要なのか?
少なくとも、こうした栄養に乏しい超高齢の細菌が”ゾンビ”ではないという証拠は増えている。
だが反対に、地中奥深くに潜む微生物をもう少し過ごしやすい環境におくと、すぐに蘇生することを明らかにした研究がいくつもある。
これらを総じて考えると、こうした発見はその見た目ほど馬鹿げたものではないのかもしれない。
なにしろ、地下深くならば恐るべき宇宙からの放射線から守られるとも考えられるのだ。そうした放射線は、地上であれば、着実にDNAに突然変異を起こすであろう。
小惑星よって宇宙に生命のタネが撒かれているという説をパンスペルミア仮説という。
ここで紹介した研究結果に加え、地球上で環境が整うとすぐさま生命が誕生したという最近の発見をあわせて考えると、パンスペルミア仮説は再考の余地があるように思える。
地下の囚人になる代償としての不死
このあたりで話をまとめよう。地球の地殻には、不活発な古代の細菌がうじゃうじゃいる。それは省エネモードにあるが、ギアはいつでも入れられる状態にある。
永遠に思える時間を暗闇の中に閉じ込められ、静寂の中、かろうじて食べ、かろうじて呼吸し、かろうじて動く――それでも死んでいない、生きているのだ。
もしチャールズ・リプマンが正しかったのなら、恐竜が登場するより5000万年も前に生まれた地球内部の細菌細胞は、明日にでも再び分裂を再開するかもしれない――なんと驚愕の事実であろうか。
だが、こうした魔法のような力を発現させるために、細菌は地下牢獄に囚われていなければならない。その代償として、事実上の不死が与えられているのである。
References:Microbes That Cheat Death - Neatorama/ written by hiroching / edited by parumo
全文をカラパイアで読む:http://karapaia.com/archives/52270778.html
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