「サインが書かれたりシールが貼られたりして海の向こうからやって来る。そうした段ボールのストーリー性に惹かれるんです」と語る島津冬樹氏
サインが書かれたりシールが貼られたりして海の向こうからやって来る。そうした段ボールストーリー性に惹かれるんです」と語る島津冬樹氏

青果物や飲料、日用品などの梱包手段として使われる段ボール。使い終わったら捨てられ、再利用されるのが一般的だ。だが、そこに新たな命を吹き込み、さらなる価値を生み出すアーティストがいる。

段ボールはたからもの 偶然のアップサイクルの著者である島津冬樹氏は、世界中で拾い集めた段ボールから財布を作る、唯一無二の"段ボールアーティスト"だ。

彼の活動は、今やアートとエコの両観点から世界中で注目されており、昨年末には映画化もされ話題に! いかにして、彼は段ボールに魅せられたのか。世界各国の段ボールで埋め尽くされた自宅兼アトリエで、じっくり話を伺った。

* * *

――世界中で段ボールを拾い集めて9年。きっかけは何だったのでしょう。

島津 美大生時代に、使っていた財布がボロボロになってしまい、買い替えるお金もなかったので家にあった段ボールで財布を作ってみたんです。すぐに壊れるかと思ったら、1年以上も使えて、とても優れた素材だと感心しました。

段ボールを収集するようになったのは、観光で訪れたニューヨークがきっかけです。日本とは違う色彩豊かな段ボールに驚き、「世界中の段ボールを見たい、集めたい」と思うようになりました。

――そこから段ボールの収集や財布の制作が始まったと。どこに惹(ひ)かれたんですか?

島津 まず、ストーリー性があるところですね。海の向こうの遠い国から運ばれてくる段ボールをよく観察すると、手書きサインや貼られたシール、底についた土などの"あしあと"があります。

見知らぬ土地の空気を吸い、いろいろな人の手を渡り、どんな旅をして日本にやって来たのか。想像するとワクワクします。それだけ大変な思いをして届けられた段ボールも役目を終えると捨てられてしまう。そうした儚(はかな)さにも惹かれます。

――新品ではなく、できるだけヤレている方がグッとくると。

島津 そうです(笑)。あとは箱の文字やイラストデザインです。段ボールの外側のデザインは20年くらい前から変更のない、ひと昔前のレトロデザインが残っていることが珍しくないんです。

今は洗練されたデザイン段ボールが増えてきましたが、古くから続く生鮮食品の段ボールデザインには生産者さんやデザイナーさん、産地の思いが込められていて、温もりを感じます。デザインの"向こう側"にある思いを読み解くのも楽しいんです。

青果物や飲料などの、色とりどりの段ボールから作られる長財布。 中にはお札やカード類が入るようになっている
青果物や飲料などの、色とりどりの段ボールから作られる長財布。 中にはお札やカード類が入るようになっている

――そう考えると奥深さを感じます。日本の段ボールにはどういった特徴がありますか?

島津 ゆるキャラが描かれているのが最大の特徴ですね。ゆるキャラブームのずっと前から、生産者さんが手描きで生み出したであろう、オリジナルキャラクターは新鮮で発見があり、とても勉強になります。1色や2色、多くて3色と、色数が少なく色合いが淡いのも日本独自の段ボール文化のひとつですね。

一方で欧米の段ボールは、地の色からして茶色ではなく、黄色、赤、青と色味がはっきりしている傾向があります。

――言われてみると、海外の段ボールは確かに原色が多い気がします。

島津 これは僕の推測になりますけど、日本人は水墨画や浮世絵など、古くからあまり色を使わずに濃淡で表現することが多かったと思うんです。一方で、欧米は昔から油絵などで原色を使うことに慣れていた。そうした文化的な背景が、段ボールに表れている気がします。

――各国の文化が反映されていることもわかるんですね。

島津 そうですね。特に海外で拾う場合は、珍しいデザインやその国の文字などの要素を重視しています。1月に訪れたマレーシアでは、エジプト産の野菜の段ボールを拾いました。マレー半島に隣接するマラッカ海峡は、東西を結ぶ要衝なので、アフリカや中東など世界中から段ボールが集まります。

エジプト段ボールにはピラミッドスフィンクスと、その国を象徴するものが描かれていました。他にも、国旗の色を配色するなど、一目でどこの国の段ボールなのかがわかる工夫もあります。こうした「ご当地性」も面白いところです。

こちらはコインケース。段ボールの一部が、ワンポイントのようなアクセントになるのも面白い
こちらはコインケース段ボールの一部が、ワンポイントのようなアクセントになるのも面白い

――訪れた先で、そこの国のものではない国の段ボールを拾うというのも、物流ならではという感じがしますね。

島津 例えば、フィリピン産のバナナ段ボールは現地で手に入らなかったりします。国内の物流に段ボールを使うのは豊かな国だけですから。発展途上の国で運搬に用いられるのは麻袋やプラスチックのトレーなど、繰り返し使えるものです。国の豊かさの違いも見えてきますね。

――段ボールで作る財布は、資源の再利用だけではなく、そこに新たな価値を加える「アップサイクル」としても世界から注目されています。

島津 アメリカや中国、ドイツ、台湾などでワークショップを行なってきましたが、アップサイクルにとても関心が高いと思いますね。特に中国は、環境問題をデザインで解決する機運が若い人を中心に高まっています。

政府が主催するイベントで、世界中からデザイナーを招いたりしていますし、広大な会場で入場制限をするほどの人気ぶりです。日本ではまだそんなに広がっていない印象を受けますね。

――確かに聞き慣れません。なぜでしょう?

島津 日本はまだ「リサイクル」と混同していることが多いですね。実は、僕も自身のドキュメント映画を作るまではアップサイクルという言葉を知らなかったんですよ。

――え、そうなんですか!? 

島津 映画を観て「あ、自分の活動はアップサイクルなんだ」って(笑)。僕がやっていた「不要なものから大切なものへ」というコンセプトを、世間ではそう呼ぶと映画を通して教わりました。僕自身はデザインカッコいい、かわいいなという段ボールの魅力から入ってもらえたらいいなと思っています。

――今後は段ボールを使ってどのような活動を?

島津 いつか世界中の段ボールを展示するミュージアムを開くのが夢ですね。今は財布以外のラインナップとしてクラッチバッグや簡単なテーブルを作り始めています。

こうした活動を通じて、僕にとっての段ボールのように、ひとつのことに集中してやり続けていればいつか成果になる。一歩踏み出せないでいる人たちに向けて届けたいです。どんなものにも可能性を感じてもらえるようになってくれたらうれしいですね。

●島津冬樹(しまづ・ふゆき
1987年生まれ、神奈川県出身。多摩美術大学情報デザイン学科を卒業後、大手広告代理店アートディレクター職を経てアーティストへ。「不要なものから大切なものへ」をコンセプトに、2009年より路上や店先で放置されている段ボールから、財布を作るプロジェクトartonをスタート。日本のみならず、世界30ヵ国以上を周り、段ボールを集めては財布を作ったり、コレクションしている。現在、活動を追ったドキュメンタリー映画『旅するダンボール』が公開中。同作のBlu-ray版は3月発売予定。AmazoniTunesほかでは3月13日より配信開始予定

■『段ボールはたからもの 偶然のアップサイクル
(柏書房 1400円+税)
世界の街角で捨てられた段ボールを拾い集め、かわいくてカッコいい財布を作る。島津冬樹氏の活動は本人の思惑を超え、ものに新しい価値を見出す「アップサイクル」として世界中から熱い視線を集めている。本書は世界の段ボールを探し歩いた島津氏の冒険の記録であり、アップサイクルという新しい発想について気づかせてくれる一冊。「ご当地段ボール」を展開するヤマト運輸への取材、段ボール財布の作り方など盛りだくさん

撮影/下城英悟

「サインが書かれたりシールが貼られたりして海の向こうからやって来る。そうした段ボールのストーリー性に惹かれるんです」と語る島津冬樹氏