平昌五輪の開会式が行われて、2月9日で1年になった。

この日、開会式が行われた平昌郡のオリンピックスタジアムの場所では記念式典が、フィギュアスケートなどが行われた江陵(カンヌン)市のアイスアリーナでは、フィギュアスケートキム・ヨナスピードスケートの李相花(イ・サンファ)、それにK-POPスターなどが出演して、祝賀イベントが行われた。

【画像】取り壊された平昌五輪の会場

この日の韓国のニュースは、2回目となる米朝会談の場所が、ベトナム・ハノイに決まったことを大々的に報じた。肝心の核放棄は容易でないだろうが、平昌五輪以前の状況を考えれば、対話が続いていること自体が、成果ともいえる。

15日には、スイスローザンヌで、国際オリンピック委員会IOC)と、南北のスポーツ担当大臣、オリンピック委員会の代表の協議が行われることになっており、スポーツの南北交流も平昌五輪を契機に活発になっている。

ソウルの中心部で、北朝鮮金正恩朝鮮労働党委員長を「偉人」と称え、ソウル訪問を歓迎する集会が開かれたこともある。四半世紀前に韓国に留学した私には、近年の変わりようは、驚くばかりである。

保守勢力の反発は根強いものの、平昌五輪を契機に、韓国の中での南北の和解ムードが高まったのは確かだ。

「平昌五輪なのに」開催地の対立

その一方で韓国の内部、とりわけ開催地である江原道(カンウォンド)の中での葛藤は、激しくなった部分もある。

まず2月9日の記念行事であるが、江原道は当初、江陵市で開催すると発表した。これに対して平昌郡の住民は、平昌五輪なのに、なぜ江陵市なのかと反発し、江原道庁前で抗議のデモを行った。

平昌郡にあった平昌五輪の開閉会式の会場は、すでに聖火台などを残して、撤去されている。韓国の人は記念式典へのこだわりが強いことを考えると、1年くらいは残していても良さそうなものだが、大会が終わると、当初の予定通りさっさと取り壊された。

現在のオリンピックスタジアムには客席もないし、外の気候などを考えれば、室内施設のある江陵市で開催するのが合理的だと思う。

もっとも、似たような議論は開幕の4年前にもあった。

開閉会式を当初はジャンプ会場で行う予定であったが、会場が小さいとIOCに反対されると、国は江陵市の総合競技場の改装を提案した。これに平昌郡の住民が、「平昌五輪なのに」と反対し、大会後は撤去される仮設スタンドオリンピックスタジアムが、平昌郡に建設されることが決まった。

私もそうだったが、宿泊施設の多い江陵市を平昌五輪観戦の拠点とした人も多いはずだ。海外の人にとっては、平昌郡と江陵市の違いなどどうでもいいし、江陵を平昌の一部と思っていた人もいたに違いない。

けれども地元の人たちにとっては、この違いは大きい。それに高速鉄道KTX開通など、インフラ整備の恩恵を、より多く受けているのは、人口の多い江陵市の方であるのも確かだ。

結局、式典は平昌郡、祝賀イベントは江陵市という分散開催の形になった。江原道各地では17日まで関連のイベントが行われることになっているが、韓国メディアの報道によれば、こうしたイベント100ウォン(約10億円)もの資金をつぎ込むことに批判も多いという。

パワハラ・セクハラに苦しむ選手たち

というのも、多くの競技場の後利用に関しては、手つかずの状況になっているからだ。


(写真提供=SPORTS KOREA)李相花(左)と小平奈緒



ケルトンの尹誠彬(ユン・ソンビン)の金メダルに沸いたスライディンセンターも、小平奈緒と李相花の友情が感動を呼んだスピードスケート競技場も、シーズン中だというのに氷が張らず、コンクリートのままだ。

韓国ではもともと冬季スポーツの競技人口は少ない。大会後、施設を維持する資金もないし、維持したとしても、使う人は多くないと、大会前からいわれてきたが、状況は当初の想定より深刻になっている。

その一方で、自然保護林の加里王山に作られたアルペンスキー場は、大会後は元の自然に戻すことになっていた。ところが大会が終わると、江原道、旌善(チョンソン)郡などはスキー場の存続を求め、ゴンドラなどの施設を撤去することを求める山林庁や自然保護団体と激しく対立している。

過疎の地域に作られた観光資源を手放したくないという心情もわからないではないが、自然保護の約束を反故にしようという地元の主張は、認められるものではない。

この1年、多くのアスリートがパワハラセクハラいじめなど、数々の不祥事で傷ついた。

シーズン中で、海外遠征をしている選手もいるとはいえ、祝賀イベントに呼ばれたアスリートのゲストは、2010年バンクーバー五輪からスターであったキム・ヨナと李相花というのも、現状をよく表している。

結局、平昌五輪から前に進んだようにみえるのは、文在寅政権が力を入れている南北融和だけなのか?

平昌五輪の1年前も盛り上がりに欠けていた。それでも、五輪までは大会の準備にも、選手の強化にも力が入る。けれども、大会が終わってからどうなっているかで、その国のオリンピックスポーツに対する姿勢がみえてくる。

(文=大島 裕史)

初出:ほぼ週刊 大島裕史のスポーツコリアウォチング

(写真提供=SPORTS KOREA)平昌五輪開会式で聖火の最終点火を行ったキム・ヨナ