かなりチャレンジングなサスペンスでしたねー、デンマーク発の「THE GUILTY/ギルティ」。”電話からの声と音を頼りに誘拐事件を解決する”っていうワンシチュエーション作品です。聴覚情報によって”十人十色の脳内映像”を描かせる点が、かなり斬新! ライブ感満点のドラマは先入観や道徳についても考えさせ、「88分の尺によくこんなにも押し込んだな」ってほど濃密でした。

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主人公は、緊急通報指令室のオペレーターとして働くアスガー・ホルム(ヤコブ・セーダーグレン)。ある事件をきっかけに警察官としての一線を退き、交通事故による緊急搬送を遠隔手配するなど、些細な事件に応対する日々を送っています。そんなある日、「今まさに誘拐されている」という女性からの通報を受けるアスガー。彼に与えられた事件解決の手段は”電話”だけ。車の発車音や女性の怯える声、犯人の息遣い…。かすかに聞こえる音を手がかりに、”見えない”事件を解決することはできるのでしょうか…!?

これが長編映画デビュー作とは信じがたいよ、グスタフモーラー監督。「たった一人の主要登場人物である主人公が、緊急通報指令室の室内のみで、電話越しにほぼリアルタイムで事件を追う…」という、登場人物・空間・時間を過激に制限した舞台設定は根性ありすぎ(笑)。唯一の視覚情報となる部屋も簡素で(すこぶる低予算!)、着信音や車の走行音など些細な雑音にまで否応なく集中させます。「ヘッドセットを装着しての会話の親密さと、通報者から遠く離れた場所にいることのギャップ」に着目したというこの職業のチョイスもベスト。主人公は、条件反射的な思い込みによる”自分の筋書き”に執着し、深みにはまっていく。同時に観客には、ミスリードを誘いつつ”勝手に想像する”楽しみを与えています。

誘拐事件の謎解きと並行し、主人公・アスガーの過去の罪が明かされていく構成も秀逸。涼し気で鋭い目が印象的なヤコブ・セーダーグレンの、 複雑な内面を悟らせない名演が素晴らしかった。冷静沈着な正義の味方に見えた男の不安定さが鼻につき始めたと思ったら、彼は、警察官時代に起こした”事件”で翌日に出廷を控えており…。口裏合わせを頼んだ元相棒にもやたらと高圧的で、なんだか不穏な空気に…。別室にこもったアスガーがキーボードやらに当たり散らした時、彼の顔を赤いライトが照らしたのが暗示的でした。終盤の通報者の女性とのやり取りは、事件のどんでん返しを超える衝撃! そしてラスト、部屋を出て携帯電話を取り出すシーンの余韻がなんとも皮肉で、「誰に電話したの?」と最後の最後まで想像が膨らむね~。

事件の当事者たちは”声”のみの出演ですが、「声だけのオーディションを行った」だけあって、切羽詰まった感が圧倒的でした。誘拐された女性やその娘の声の情報量の多さをちょっとナメてたので、もう1回観て確認したいー。特にママの救出を訴える娘が果たす役割が大きいです。ついでに、雨音など渾身の音響も、全神経を集中させて聞きましょう!

ギルティ=有罪”が意味するところをしっかり意識して、北欧映画特有の閉塞感や深みを堪能してくださいねっ。本作のハリウッド・リメイクも決定してますが「ペラくなるんだろうよ…」と心配だ…。が!、主演はジェイク・ギレンホールだって! ひとまずキャスティングには文句なし(笑)。【東海ウォーカー】

【映画ライター/おおまえ】年間200本以上の映画を鑑賞。ジャンル問わず鑑賞するが、駄作にはクソっ!っとポップコーンを投げつける、という辛口な部分も。そんなライターが、良いも悪いも、最新映画をレビューします!  最近のお気に入りは「ブラック・クランズマン」(3月22日公開)のアダム・ドライバー!(東海ウォーカー・おおまえ)

サンダンス映画祭で「search/サーチ」(NEXT部門)と並び、観客賞(ワールド・シネマ・ドラマ部門)を受賞。アカデミー賞外国語映画部門のデンマーク代表作品にも選出!