埼玉への徹底的なディスりがインパクトを放つ、魔夜峰央の衝撃的コミック『翔んで埼玉』が実写映画となって登場。原作コミックは未完のままとなっているが、完成作を観た魔夜は「大満足。漫画の続きを描くとしても、映画に引っ張られてしまって描けない。この映画が完成したことによって、漫画は完全に完結です」と最大の賛辞を送る。ギャグと耽美性の融合した“魔夜ワールド”をスクリーンに出現させた武内英樹監督とともに、映画『翔んで埼玉』の“成功の鍵”について語り合ってもらった。

【写真】武内英樹監督&原作者・魔夜峰央、『翔んで埼玉』インタビューフォト

 埼玉県人が迫害されている世界を舞台に、東京の名門校「白鵬堂学院」の生徒会長・壇ノ浦百美(二階堂ふみ)と、アメリカ帰りの転校生・麻実麗(GACKT)が出会うことから物語はスタート。麗に心惹かれていく百美だったが、麗は埼玉の自由を願う“埼玉解放戦線”のメンバーだった…。

 実写化の話が持ち上がった際には、「正気か? と思った」と笑う魔夜。「監督について聞くと、『テルマエ・ロマエ』や『のだめカンタービレ』を手がけている武内監督だと言うので、それならば大丈夫だと。完全にお任せして一切、口を出していません」と快諾したそう。映画では原作コミックの“その後”が大胆な解釈でつづられていくが、「自分が描いたとしてもこうなるだろうなと思った。感性が似ていると思いました」と文句ナシの“その後”だったという。

 武内監督は「本屋さんで手に取り、読んでみたらものすごく面白かった!」と原作との出会いを告白。「僕は千葉県出身なので、埼玉だけがこんな風に扱われているのが悔しくもあって(笑)。映画では、ぜひ千葉を忍び込ませたいと思いました」と千葉を登場させたオリジナル展開について、楽しそうに語る。とりわけ気に入っているのが「千葉県民埼玉県人が、河を挟んで対立しているシーン」とのこと。「原作を読んで、対決シーンが思い浮かんだ。桶狭間の戦いみたいなことを、埼玉県人と千葉県民で“真面目に”やったら、めちゃくちゃ面白いと思った」。武内監督曰く、この“ギャグを真面目に”ということこそ、映画化成功のキーワードで「キャストの皆さんに言っていたのは、“大河ドラマだと思ってやってください”ということ。あり得ないことを“どマジ”にやるからこそ、面白いんです」と明かす。

 壇ノ浦百美役を初の男役を演じる二階堂ふみ、アメリカ帰りの転校生・麻実麗役をGACKTという、パンチの効いたキャスティングも話題を呼んだ。武内監督は「原作がぶっ飛んでいるから、キャスティングもぶっ飛んだものにしないと乗り越えられない。麗役に“GACKT”という名前が出た瞬間、これだ! と思いました。二階堂さんは、芝居のうまさが決めて。百美について、他のキャスティング案は出ませんでした」と明かすと、魔夜も「二階堂さんとGACKTさんがやってくれるなら、この映画は間違いないと思った。麗役は、GACKTさん以外ではあり得ない。くだらないことを真面目にやって、ちゃんと作品として見せられるのはGACKTさんくらいでしょう」とキャスティングに大喜びだ。


 GACKTの役者力を実感することも多かったそうで、武内監督は「撮影に入ってみると、GACKTさんは想像以上に上手だった」と驚きつつ、「最初に会ったときに、『これは(GACKTが所属していたバンド)MALICE MIZERマリスミゼル)ですね』とおっしゃっていて。役柄について、すべてわかってらっしゃるなと思いました。またGACKTさんは、二階堂さん以外にもうお一人とキスシーンがありますが、それはGACKTさんの提案で生まれたシーンなんです。僕も確かにあった方がいいなと思いました」と原作を理解しているからこその提案だったといい、魔夜は「GACKTさんは、私の作品もよく読んでくださっていて。“大ファンです”と言っていただきました」とGACKTの“原作愛”に感謝していた。
 
 魔夜が「作品を描く上で大事にしているのは、美しいかどうか」というように、耽美性も“魔夜ワールド”には欠かせないものだが、「百美と麗のキスシーンの美しさは完璧。完全に私の描く世界と合致していた」と太鼓判。武内監督は「あのシーンは、クランクイン初日。2人のキスを見て“この映画は行けるぞ”と手応えを感じました。ものすごく美しかった。キスをした後の二階堂さんのリアクションが、また素晴らしいんです」と熱弁が止まらず、魔夜は「私があまりに本作を褒めるものだから、『パタリロ!』の映画チームも“負けてられない”と奮起していますよ」と今後公開予定の、自身の実写化作品にもよい影響を及ぼしていることを明かしていた。(取材・文・写真:成田おり枝)

 映画『翔んで埼玉』は2月22日より全国公開。

(左から)武内英樹監督&原作者・魔夜峰央、映画『翔んで埼玉』インタビュー クランクイン!