インターネット上に違法アップロードされた漫画や写真など、あらゆるコンテンツについて、著作権侵害されていることを知りながらダウンロードすることを全面的に違法とする方針が、文化審議会著作権分科会で決まった。

これまでも、違法アップロードされた音楽と映像については、ダウンロードすることも違法とされていた。今回の方針によって、漫画や写真、小説など、あらゆるデジタル方式のコンテンツについても、ダウンロード違法化の範囲が広がることになる。

漫画村など海賊版サイトの対策がきっかけで、昨年秋から議論されていたが、「ネット利用や二次創作活動への萎縮効果を招く」「そもそも海賊版対策として意味がない」といった批判が起きていた。

文化審議会の小委員会でも、慎重な議論をもとめる声があがる中、文化庁の事務局が短期間でまとめたかたちだ。こうした状況で、漫画家など、本来ならば海賊版サイトから被害を受けている側からも「誰が頼んだよ、こんなの…」という声があがっている。

今回のダウンロード違法化の範囲拡大の問題点について、国際日本文化研究センターの山田奨治教授(情報学者・文化研究者)に聞いた。

文化庁の姿勢に問題があった

――今回のダウンロード違法化の範囲拡大の問題点は何でしょうか?

スマホやパソコンの画面を撮影して保存する「スクリーンショット」(スクショ)のような、ネットユーザーにとって日常的な行為までもが、場合によっては違法になってしまうことです。メモ代わりにスクショして情報収集する行為が萎縮し、ネットの利便性が損なわれます。

こうした規制をかけるのならば、十分な検討を重ねてマイナス面を減らさなければならないのに、慎重審議を求める委員たちの意見を振り切って、文化庁の事務局が報告書をまとめてしまいました。スケジュール最優先の姿勢は批判されて当然です。

もともとは漫画の海賊版対策だったはずなのに、短い審議期間で対象が大きく広がり、一方で漫画の海賊版への効果は限定的なものになっていて、議論の当初の目的が見失われています。

とりわけ驚いたのは、パブリックコメントで寄せられた国民の懸念に対して、文化庁の事務局がわざわざ「パブリックコメントで提出された個別事例を受けた事務局としての考え方」という文書を用意して論難してきたことです。

国民に向かって「〜には疑義がある」と繰り返す論調は、まるで裁判官か検察官のようでした。創造の現場に渦巻く清濁へのバランス感覚がまったくありません。これでは、文化庁は国民の支持を得られず、文化の発展を司る官庁として失格ではないでしょうか。

私的使用のための権利制限があるのは、零細な複製ならば権利者の利益を害しないからという理由のほかに、私的領域における活動の自由を保障するものであるからとの見解があります。文化庁は仮に後者の考え方を前提にすれば、異なる整理がありうるとしながら、それをまったく示していません。公平な立場からの見解だとはいえません。

――今回の方針が具体的に法案に落とし込まれる際、注意すべきことは?

小委員会での議論が中途で打ち切られた分、外部から活発に提起された意見を取り入れることを求めます。日本マンガ学会(竹宮惠子会長)は、研究者と創作者の立場からの危惧を声明として出しています(https://www.jsscc.net/info/130533{target=_blank})。一般財団法人情報法制研究所(鈴木正朝理事長)も具体的な提案を出しています(https://www.jilis.org/proposal/data/2019-02-08.pdf{target=_blank})。コンテンツ文化研究会とうぐいすリボンによる院内集会もありました。

個人的には、どうしても違法化するならば、原作のまま一定のまとまりでダウンロードする場合と、権利者の利益を不当に害しない場合を民事の要件に加え、刑事はそれらに加えて有償著作物であることと、反復継続性を要件にするべきだと考えます。

●ネット利用や二次創作・研究が萎縮する

――このまま法改正された場合、どんな影響がありますか?

いまだに録音・録画がそうであるように、この改正法は簡単には執行できないだろうと思います。その点では、社会に大きな変化は起きないのかもしれません。

法改正することで違法ダウンロードを控えるアナウンス効果が見込めるといいますが、それは副次的な効果であって、それを理由に違法化や刑事罰化をおこなうものではないはずです。誰も守らず取り締まりもできない法律をつくったら、遵法精神が損なわれるだけです。

それよりも問題は、著作権法の厳格な適用を求める人々が勢いづき、違法ダウンロードらしきものを見つけてネットで告発することが盛んになるようなことになる可能性があることです。そうなれば、ネット利用や創作・研究が確実に萎縮してしまいます。

2020年東京五輪エンブレム問題が記憶に新しいところです(編集部注:2015年夏、アートディレクター佐野研二郎氏デザインのエンブレムが盗用ではないかと騒動になった)。あのエンブレムが著作権侵害だという法律家はほぼ皆無だったにもかかわらず、デザイナーはネット世論の猛烈な非難にさらされ、実効性のある制裁を受けました。著作権がかかわることへの世間の目は、法律家の常識を超えて厳しくなっています。

法改正で大きな影響を受けるのは、たとえば漫画文化の研究者でしょう。海賊版二次創作を研究するには、違法とわかっているものでも資料としてダウンロードする必要があります。文化庁は研究目的の利用は私的使用とは評価しづらいと整理していますが、それは誤りです。特に、研究の初期段階では、研究利用と私的使用を区別することは困難です。コンテンツ分野の研究では、その傾向が顕著です。

また、漫画文化の研究者には、研究機関に籍を置くものばかりではなく、研究を生業としない「アマチュア」が漫画の私的使用をしながら高度な研究をしています。報告書によれば、研究目的の利用については、小委員会で今後検討をするようですが、それについては何のセーフガードもないまま、ダウンロード違法化範囲の拡大がなされようとしています。海賊版研究、二次創作研究は、当面大きな制約を受けることになるでしょう。

●第三者機関をつくって「海賊版サイト対策」を実効性あるものに

――海賊版サイト対策はどうあるべきなのでしょうか?

権利者の利益を不当に奪うような海賊版をなんとかしなければならないのは、言うまでもないことです。リーズナブルな価格の出版社横断型サブスクリプション・サービスができれば、対策の決定打になるかもしれません。

海賊版サイトのユーザーは、かならずしも無料だから使っているのだとは思いません。同じくらい充実したサイトがほかにないから使っているのであって、同様のサイトを合法的に使えるのなら、お金を出してもいいと思っている人は、少なくないのではないでしょうか。

実質賃金がたいして伸びない、あるいはマイナスかもしれないという中で、音楽や動画の有料配信サービスが成長しているのは、注目すべきことです。また、権利者側が言う「被害額」を検証しないまま立法事実にしてしまうようなことは、そろそろ終わりにするべきです。

政府からも権利者からも独立性の高い第三者機関をつくり、著作物の創作・流通・利用の課題についてのデータを日常的に集め、政策立案につなげる体制が必要なのではないでしょうか。

(弁護士ドットコムニュース)

DL違法化拡大「文化庁は失格」「ネット告発の活発化で創作・研究が萎縮」、山田奨治教授に聞く