開幕を1週間後に控えたJリーグ。今シーズンの「チームビジョン」はどんなものか。元日本代表の岩政大樹氏がキャンプをとおして各チームを分析する。二度目のJ1となった反町・松本山雅に感じたこと。

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「素走り」を行っている理由

 2月6日に『スカサカ!ライブ』の取材で、静岡県清水市で行われている松本山雅FCキャンプに行ってきました。

 私にとって松本山雅FCは、ファジアーノ岡山プレーしていた時こそ“因縁の相手”でしたが、色々と馴染み深いクラブでして、取材に行くといつも良くしていただいています。特に反町監督とは日本代表で少しご一緒した時期もあってか、とても気にかけていただいているのを感じています。私の勝手な想像ですが、常識よりも自分の感覚を大事にするという点で、どこか似たところを感じていただけているのではないかと思っています。

 そんなこともあり、今回も取材の枠を超えて、とてもたくさんの学びを得ることができました。

 さて、練習ですが、その日は2部練習。次の日には実践的な紅白戦があることなどお構いなしに、見るからに厳しい練習を課していました。特に午前中は、ボールは使わずにシャトルラン。選手によって個別にタイムを設定して、長い距離と短い距離を織り交ぜたシャトルランを繰り返します。

 現代ではこのような所謂「素走り」を行わないチームも増えてきましたが、反町監督は「必要だからやる」と。

 なるほど。それが良く分かったのは午後の練習においてでした。

 午後は打って変わってゲーム形式の練習。基礎的な練習で体と感覚を研ぎ澄ませると、コートを少し狭くした中で11対11のゲームが行われました。

 この日は攻撃にフォーカスをあてた練習。チームが始動してしばらくは守備をメインに、この時期あたりで攻撃に着手してきたようでした。

一度目とは違う松本山雅のスタイル

 反町監督の松本山雅FCは、初めてのJ1昇格を果たした2015年のときとは違うプレーモデルの中で2度目の昇格を目指し、実際に実現してみせました。

 私は反町さんと松本山雅FCにとって「J2再挑戦」となった2016年シーズンに対戦しましたが、以前の、“まずは相手陣地のコーナーフラッグ付近を目指していく”攻撃はあまり見られなくなり、相手の内側の急所となる場所をまず目指して攻撃を始め、そのためのパスのルートも明確に設定してきたように感じていました。

 練習で見られたのは、まさにそうした判断基準の中でプレーをする選手たちの姿でした。

 そして、肝はその先です。パスで相手の懐に入れたら、攻撃側にはスプリントをしてアクションを起こしていくこと、逆に守備側にはプレスバックや背後にスプリントして戻ることが徹底されていました。

 ここが午前のトレーニングと合わさって一つのセットとなり、選手たちの無意識に刷り込まれていきます。それが松本山雅FCプレーモデルを構築していく。そのためには、今よりもっと「行って帰る」ことができなければいけない。そのための午前練習だったということです。

 また、各選手の判断の部分は、反町監督から実に歯切れのいい指示が選手たちに伝えられていきます。「どこにパスを出すか」だけではありません。「どのタイミングで誰と誰がつながっておくべきだったか」、「どこに判断の基準を置いておくべきだったか」。そのような一つ一つが、ゲームのリズムが失われないように留意しながら、的確に提示されていきました。

 ゲームのルールも、最初は前方と後方で違うルールでプレーさせることで、「狙いとする攻撃が出やすい設定」にしておき、その後で実際のゲームに近い形に変えていきました。

 午前から午後にかけて、あるいは午後の練習の頭から最後まで、実に流れのある練習が作り上げられていて、選手たちが、実際の試合につながっていく感覚を覚えやすい練習となっているだろう、ということがよく分かりました。

弱音が伝わらない空気感

 また特筆すべきは練習に向かう選手たちの姿勢です。練習の後に話を聞くと、みんな口を揃えて「きつい」と漏らします。しかし、練習中にネガティブな空気感がピッチ内に出てこないのです。それは午前のシャトルランのときも同じで、これが実はサッカーチームにはとても大きな要素となります。

 反町監督の作るチームにはいつも献身性や結束感など、強い空気感が感じられます。それを作るのは日々の練習です。ピッチから弱音が少しも浮かび上がってこない練習の空気感こそが、率いたチームを全てJ1昇格に導いてきた反町監督の結果を出す秘訣でしょう。

 加えて、今年の松本山雅FCは選手層が厚くなり、各ポジションで同じレベルの選手が競争をするスカッドが出来上がりました。練習を見ていても、誰がスタメンとなっていくのか予想が非常に難しいと思いました。

 そのことを反町監督に伺うと、「やっとそのようなチーム編成を作れるようになってきた」と監督自身も手ごたえを感じているようでした。

 サッカーチームは大体、1週間に1試合。それ以外は練習をしています。試合だけでは足りません。練習での競争力がチームの成長につながっていくのです。反町監督のお話からも、練習の中で選手たちが自分たちで切磋琢磨することで生まれるチームの雰囲気をとても大事に思われていることが分かりました。

 理論や戦術などサッカーに大切なことはたくさんあります。ただ、勝つチームには決まって勝つ雰囲気というものがあります。

 そのためのマネージメントが反町監督の練習にはいたるところに感じられて、今回の練習取材も「サッカーの本質」みたいなものを学ばせていただく機会となりました。

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