冬になると、街行く人のマスク着用が目立ちます。神戸で新型インフルエンザが流行した際には、電車の乗客ほぼ全員がマスクを着用していましたし、不特定多数の乗客を乗せるタクシー運転手も、マナーとして多くの人がマスクをつけています。

 10年ほど前、フランスインフルエンザにかかった家族を「マスク着用・非着用」に分けたところ、両者に大きな差はなかったとの報告がありました。

 ただ、こうした実験結果が完璧に正しいとは言い切れません。なぜなら、過去にインフルエンザにかかった人は免疫ができており、インフルエンザウイルスが体内に入っても発症しにくいためです。また「人が集まるところで仕事をしているが、生まれてからインフルエンザにかかったことがない」と豪語する人もいるように「免疫がある人」も、マレですが存在するからです。こうした結果を踏まえて質問です。マスク予防に効果はあるか否か、どちらでしょうか?

 実は、マスクは完全なウイルス予防のフィルターとは言えません。インフルエンザウイルスのように細かく小さなウイルスはマスクを素通りしてしまいます。病院に勤務する人の多くがマスクをしながらも、インフルエンザの予防接種をしているのも、マスクでは完璧に防げない、とわかっているためです。

 つまり、インフルエンザは「完璧に予防する手だてがない」わけです。

 ただ、マスクをすることでウイルス感染の確率が減るのも事実です。インフルエンザに限らず、風疹や麻疹、ノロウイルス、RSウイルスなど、飛沫感染する各種ウイルスも、ある程度はマスク着用でシャットアウトできます。

 また、マスクには自分の吐いた息による保湿効果があります。インフルエンザウイルスは湿度が60%以上になると死滅するため、マスク着用による保湿効果は非常に意味があります。家族がインフルエンザにかかった場合、部屋で加湿器を使うのが効果的ですが、それと同様の効果をマスクがもたらしてくれます。

 ちなみに、せきやくしゃみなどによって飛沫する唾液(5マイクロメートル以上)に含まれるウイルスは1メートル前後しか飛び散らないので、ウイルス感染した人の家族にはマスク着用の効果が見込めます。ただ、インフルエンザウイルス自体は0.1マイクロメートルほどなのでマスクで完全に防ぐことは難しいです。こうした点を踏まえると「感染確率を小さくする」ため、マスク着用は「一定の効果がある」と言えます。

 マスク着用と同じぐらい予防効果があるのが「手洗い」です。ドアノブやインターホン、エレベーターのボタンなど、人の手から手へ接触感染するのもインフルエンザの特徴です。入念に20秒ほど洗い流す手洗いには効果があり、各種の実験でも「マスク+手洗いでは効果が高まる」という報告がいくつかみられます。

 つまり、マスク着用に加え、入念な手洗いをすることで、より予防できると言えます。

 高齢者ホームで集団感染して死亡するニュースを耳にするように、高齢者ほどインフルエンザにかかると重症化するので、予防も厳重にしてください。慢性呼吸器疾患、慢性心疾患、糖尿病などの代謝性疾患、肝機能障害などの症状を持つ人、ステロイド内服などによる免疫機能不全も同様です。

 こうした症状を持つ方は、寝る際にマスク着用に加えて、入浴後に体を拭いたバスタオルを枕元に置いて寝ると、保湿効果による予防も見込めますので、気になる人は、ぜひとも試してください。

■プロフィール 秋津壽男(あきつ・としお) 1954年和歌山県生まれ。大阪大学工学部を卒業後、再び大学受験をして和歌山県立医科大学医学部に入学。卒業後、循環器内科に入局し、心臓カテーテル、ドップラー心エコーなどを学ぶ。その後、品川区戸越に秋津医院を開業。

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