(右田早希:ジャーナリスト)

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 日韓の政治的対立が止まらない――。

 韓国の文喜相(ムン・ヒサン)国会議長が、「慰安婦問題天皇陛下が謝罪すれば収まる」と繰り返し述べている問題について、2月15日ミュンヘンで行われた日韓外相会談で、河野太郎外相が康京和(カン・ギョンホア)外相に抗議。ところが康外相は会談後、「日本との外相会談でその件についての言及はなかった」と発言し、火に油を注いで日韓関係はまた悪化した。

政治的には対立でも文化交流は活発

 徴用工問題を巡っても、日本側の有罪判決を受けて、韓国の原告側は、差し押さえた日本企業の株式を、今月中にも売却する手続きに入るとしている。この件に関しても、河野外相が康外相に対して、問題の解決に向けて韓国政府が日韓請求権協定に基づく協議に応じるよう求めたが、韓国側は回答を保留した。徴用工問題で日本企業に「実害」が出れば、安倍晋三政権としても看過できない問題になってくる。

 その他、昨年末に起こった韓国艦艇による自衛隊哨戒機へのレーダー照射事件、「3・1運動100周年」での韓国政府を挙げた反日行事の数々、2月22日の「竹島の日」を巡る争い・・・。日韓の政治的対立は、もはやとどまるところを知らない。

 だが、私が今回、このコラムであえて強調したいのは、日韓関係には、政治的対立とは別の「友好的側面」も存在するということである。特に、文化交流の面では現在、あの15年前の「ヨン様ブーム」以来の韓流ブームが到来している。言ってみれば、いまの日韓関係は「政冷文熱」なのである。

「そんなバカな」と思われる方に、いくつか実例を示したい。

 観光庁の発表によれば、昨年日本を訪れた韓国人観光客は、前年比5.6%増の752万6000人と、過去最高を記録した。消費額も5842億円と、「爆買い」の中国人に次ぐ額を、多くの消費を日本でしてくれている。

 同様に、韓国観光公社の発表によれば、昨年韓国を訪れた日本人観光客も、295万人に達した。これは前年比28%増である。こうした日韓交流の増加は、政治問題と関係なく、文化的関係が熱を帯びていることを意味している。

 また、この原稿を執筆している2月17日現在、日本のアマゾンの和書で「文芸作品」単行本の第1位は、日本の有名作家の作品ではなくて、韓国人女流作家のチョ・ナムジュが書いた小説『82年生まれ、キム・ジヨン』である。昨年12月7日に日本語版が発売されて以来、すでに2カ月以上にわたってベストセラー街道を驀進している。日本人の反韓感情が文化面にまで浸透しているのだったら、こんな現象が起こるはずはない。

原爆Tシャツ騒動のBTSもドーム公演で38万人動員

 読んでみると分かるが、この小説のストーリーは、多分に韓国的だ。34歳の専業主婦キム・ジヨン(1982年生まれの韓国人女児で最も多かった名前をつけた)は、IT企業に勤める男性と2年間付き合った末、3年前に結婚し、現在は1歳の娘と3人暮らしだ。

 そんな中、彼女に他人の人格が瞬間的に乗り移る現象が見られるようになる。自分の母親になったり、親しかった先輩女性になったりするのだ。そして「秋夕」(チュソク=旧盆)の日、釜山の夫の実家に一族が集まっている席で、ジヨンに自分の母親が憑依して、夫の両親への不満をぶちまけてしまう。驚いた夫は、彼女を産後の鬱病ではないかと疑い、精神科に行かせる。

 精神科医は、彼女を解離性人格障害と診断する。病院通いを機にジヨンは、自分の人生が生まれてから現在まで、女性だということで、韓国社会の中でいかに差別を受けてきたかを振り返る・・・。

 この本は、2014年に韓国で発売されるや100万部を超えるベストセラーとなり、文在寅政権がたびたび、この本を取り上げて女性差別やセクハラ防止を訴えている。そのような「文在寅公認本」が、日本でバカ売れしているのである。

 K-pop部門でも、「防弾少年団」(BTS)をご存じだろうか? 2013年6月に韓国で結成された男性7人組のヒップホップ・アイドルグループで、言ってみれば「韓国版ジャニーズ」のような存在だ。アジア人初のビルボード1位を獲得し、この2月10日には、グラミー賞のプレゼンターも務めた。デビュー以来の経済効果は4兆1400億ウォン(約4060億円)に達すると、韓国経済研究院は発表している。

 彼らは2014年6月に日本デビューを果たし、「日本中の女性を虜にした」という意味では、あのヨン様以来の存在感を見せている。これまでオリコン週刊ランキングで1位になったシングル曲が4曲もあり、2017年6月には雑誌『an・an』の表紙を飾った。日本語バージョンのオフィシャル・ミュージックビデオのユーチューブでの再生回数は、3331万850回にも上っている(2月17日現在)。


「防弾少年団」は、昨年11月9日の『ミュージックステーション』(テレビ朝日系)に生出演する予定だったが、メンバーの一人(ジミン)が過去に着ていたTシャツに、原爆投下後のキノコ雲の写真と韓国人の万歳写真が印刷されていたことが発覚し、急遽出演を取りやめた(後に事務所が謝罪)。それでも同月から本日(2月17日)にかけて、東京ドーム、大阪京セラドームナゴヤドーム、福岡ヤフオク! ドームと、4都市9公演を行い、計38万人を動員したのである。

 韓流ドラマも、日本ではすっかり人気が定着した感がある。これだけ日韓関係が悪化している現在も、例えばNHK総合チャンネルでは、夜11時から1時間、『オクニョ 運命の女』(全51回)を放映している。

「嫌韓」ムードの影響は皆無、絶好調の韓流ドラマ市場

 多くの韓国ドラマの買い付けを行っている日本企業のバイヤーが証言する。

「この業界には『嫌韓』なんてありませんよ。逆に、ますます韓流ドラマの『爆買い』に拍車がかかっています。2015年には、1話あたり3万ドルが相場だったのですが、昨年から1話あたり20万ドルのドラマが続出するようになったのです。

 例えば、『100日の郎君様』は1話あたり23万ドル、このほど韓国で放映終了したばかりの『ボーイフレンド』は、韓流ドラマ史上最高額の1話あたり30万ドルで契約が決まりました。『ボーイフレンド』は全16話なので、計5億3000万円です。

 韓国側も、一時期は中国が最大の輸出市場でしたが、(2016年にTHAAD=終末高高度防衛ミサイルの配備を巡って)中国との関係が悪化してからは、日本が最大の輸出市場になっています。韓国側も、誰をキャスティングし、どんなストーリーに仕立てれば日本で人気が出るかを吟味して、ドラマ作りを行っているのです。その意味では、韓国のエンタメ業界にも、『反日』なんてありません」

 このように現在の日韓関係は、あくまでも「政冷文熱」なのである。

 日本から見ると、文在寅政権は看過できない面が多いのは確かだ。だがそうだからと言って、それが日韓関係のすべてではないことも知っておくべきである。

[もっと知りたい!続けてお読みください →]  もはや隠しようもない韓国・文在寅の「独裁気質」

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