ふるさと納税の返礼品について国が規制強化に乗り出すのを前に、大阪府泉佐野市が返礼品に加えて「Amazonギフト券」の“プレゼント”キャンペーンを始め、物議を醸しています。総務省からの「身勝手な考えだ」との批判に、市は「身勝手なのは総務省」と反論。SNS上では、「ロック精神がすごい」「応援する」と市を支持する声と、「公平性を欠き、身勝手」「本来の趣旨から逸脱」と市を批判する声が見られます。泉佐野市総務省の主張を聞きました。

キャンペーンは「地元事業者の救済策」

 2月8日、政府は、ふるさと納税制度の見直しを含む2019年度地方税制改正の関連法案を閣議決定しました。返礼品を「調達費が寄付額の30%以下の地場産品」に規制し、6月1日以降に違反自治体に寄付した場合、税優遇が受けられなくなる仕組みです。早ければ3月末までに成立する見込みです。

 規制強化が迫る中、泉佐野市2月1日に始めたのが「『100億円還元』閉店キャンペーン」です。市のふるさと納税特設サイト「さのちょく」限定で、返礼品に加え、納税額の最大20%分を「Amazonギフト券」として“還元”します。通常配送の場合の還元率は10%、配送月を5月以降にした場合は20%です。キャンペーン期間は3月31日までですが、ギフト券の還元額が100億円に達した時点で終了します。

 このキャンペーンについて、菅義偉官房長官は「良識ある対応を」と苦言を呈し、2月8日には石田真敏総務大臣が「自分のところだけがよければ他の自治体への影響は関係がないという身勝手な考え。社会的にも、教育的にも、悪影響が大きい」と批判しました。

 一方、同市の千代松大耕(ひろやす)市長は2月12日、「『身勝手』さを示しているのは総務省」「なりふり構わず強引に地方をコントロールしようという総務省のやり方は、ふるさと納税以前に地方創生の趣旨に反している」などのコメントを発表しました。

 泉佐野市政策推進課成長戦略室で成長戦略担当参事を務める木ノ元誠さんに聞きました。

Q.キャンペーンの実施理由は。

木ノ元さん「本市のふるさと納税を支えている民間事業者などの雇用を一定期間維持するための救済策の一つです。総務省が考えている地場産品の規制がそのまま法制化された場合、市内約140社の返礼品提供事業者のうち、半数以上が参加できなくなる見込みです。また、総務省やマスコミから厳しい声を頂戴し、世間をお騒がせしている本市に、それでも寄付を頂ける皆さまへの感謝を表したいという理由もあります」

Q.「閉店キャンペーン」とは。

木ノ元さん「『さのちょく』を閉店したり、本市がふるさと納税から撤退したりするわけではありません。法制化されると、総務省が示す基準に該当しない返礼品の提供が3月末までとなるため、『閉店』という言葉を使いました。誤解を招きかねない表現を使用した点はおわびいたします」

Q.「Amazonギフト券」をキャンペーンに採用した理由は。

木ノ元さん「寄付者の満足度やモチベーションを上げる効果が一番高いと判断しました。『Amazonギフト券』は、返礼品ではなく、キャンペーン利用者への“サービス特典”です。『Amazonギフト券』などの金券そのものを返礼品にすることとは、全く別物と考えています。

本キャンペーンは『さのちょく』のみで実施します。民間ポータルサイトのような手数料が不要になるため、この取り組みが可能となりました」

Q.配送を5月以降に指定した場合、なぜ還元率が上がるのですか。

木ノ元さん「先々の配送指定を受けることで、事業者の仕事を一定期間確保することができます。急激な変動を緩和するとともに、事業者の業務や雇用を守ることにつながると考えています。ただし、5月以降に配送する返礼品は、規制の基準と想定される、3割以下の返礼率となるよう設定しています」

市「ルールや基準、自治体とも議論を」

Q.申し込み状況は。

木ノ元さん「予想以上の反響で現在、アクセスが集中し、市のサイトがつながりにくくなっています。市のサイトを『緊急災害情報用』の表示に切り替え、サーバーへの負荷を軽減するとともに、サーバーの強化などの対応を行っています」

Q.キャンペーンについて、総務省などから批判が出ています。

木ノ元さん「『Amazonギフト券』などの金券類を返礼品として取り扱うことは好ましくないと、本市でも考えています。しかし、今回のキャンペーンは、あくまで地元事業者の返礼品を選んでもらうための取り組みで、全く別物だと考えています。

昨年から申し上げていますが、ふるさと納税の返礼品に関するルールや基準は、総務省が独断で決めるものではなく、自治体や有識者、国民世論などを含めて幅広く議論し、大多数が納得できるものをつくるべきだと考えています。総務省が規制を強化し、各自治体のアイデア、取り組みを制限することは『地場産品のある自治体とそうでない自治体』の格差を生むのではないかと危惧しています。

総務省は自分たちが一方的に基準を決め、その基準を守らない自治体を『良識がない』『悪質』と決め付けています。しかし、自治体と議論することなく法制化に突き進んでいることは『良識がある』といえるのでしょうか」

Q.法規制が始まった場合の対応は。

木ノ元さん「これまで総務省が示してきた『返礼率3割』『地場産品に限る』などの基準については納得していませんが、法制化されれば、自治体として規制を順守するのは当然だと考えています」

Q.「ふるさと納税はこうあるべきだ」という泉佐野市としての考えは。

木ノ元さん「ふるさと納税は、一極集中する首都圏と疲弊する地方の格差を埋めるべく創設された制度であり、それこそが『本来の趣旨』だと考えています。一昨年は3600億円の税金が地方に分配されました。意義のある制度であると同時に地方創生にもつながるものです。

ところが、中央省庁が安易に規制を強め、地方自治体の意欲や情熱を削ぐことが危惧されます。本来は各自治体の裁量で決めるべきで、ルールや基準は拙速に決めるのではなく、各自治体のアイデアなども生かす方向で議論すべきです」

国「Amazonギフト券は返礼品の一部」

 泉佐野市のキャンペーンについて、総務省市町村税課の担当者に聞きました。

Q.泉佐野市が「Amazonギフト券」を「返礼品ではなく、サービス特典」として贈ることについて、どう思いますか。

担当者「『Amazonギフト券』は返礼品の一部と捉えています。費用を自治体が負担しているためです」

Q.市は「返礼品のルールや基準は総務省の独断でなく、自治体や有識者などを含めて幅広く議論し、大多数が納得できるものをつくるべきだ」と訴えています。

担当者「総務省では、各都道府県から寄せられた意見をもとにルールや基準を検討しています」

Q.市は「総務省が規制を強化して各自治体のアイデア、取り組みを制限すると、地場産品の有無で自治体格差が生まれる」としています。

担当者「各自治体に一定のものはあると考えており、それをどう生かすかだと考えています。最近は、地域の課題解決のため、ふるさと納税制度を活用したクラウドファンディングを導入する自治体も多いです。返礼品にばかり注目が集まりますが、『モノ』だけではなく『コト』にも注目すべきです」

Q.総務省としての「ふるさと納税はこうあるべきだ」という考えは。

担当者「『ふるさと納税』は、生まれ育った自治体への恩返しや応援したい自治体に寄付する目的でスタートしました。この制度の意義は、(1)納税者が寄付先を選択することで、税に対する意識が高まり、納税の大切さを捉える貴重な機会になる(2)生まれ故郷だけでなく、お世話になった地域、これから応援したい地域に対しても力になれる(3)自治体が選んでもらうにふさわしい、地域のあり方を改めて考えるきっかけになる――の3点です。地域活性化には地場産品を使うのが適切だと考えています」

Q.泉佐野市は「強引に地方をコントロールするのは、地方創生の趣旨に反するのではないか」と指摘しています。

担当者「『ふるさと納税』は応援したい自治体に寄付をするという目的で開始しましたが、最近では、寄付金を集めるために過度な返礼品を送るという形になり、本来の趣旨とは食い違ってきています。税制度の一つですので、適切な対応をお願いしたいと考えています」

 2017年度の寄付額が135億円を超え、全国トップとなった泉佐野市。法規制後には寄付額の減少が予想され、その動向が注目されます。

オトナンサー編集部

2月1日から始まった泉佐野市の「『100億円還元』閉店キャンペーン」(「さのちょく」より)