フィラメントの描写とX線と相互作用するフィラメントの図表 / Credit: Chandra X-ray Center
Point
■宇宙の物質の3分の1を構成する「失われた物質」が、「中高温銀河間物質」の中に存在する証拠が見つかった
■地球とクエーサーの間にある17個のフィラメントのデータをもとに、ある高温ガスの中に特徴を持つ酸素を探知
■観測された酸素は「失われた物質」の一部であると推測

「宇宙に存在する物質の3分の1はどこに隠れているのか?」この宇宙に関する最大の謎の一つを解決するための新しい手掛かりが発見されました。

科学者たちは観測データをもとに、水素やヘリウムといったごく普通の物質が、ビッグバン直後にどれくらい存在したかを計算してきました。宇宙誕生から数分から数十億年の間に、これらの物質は、現在の宇宙で望遠鏡が捉えることができるちりやガス、星や惑星といった天体などの普通の物質に姿を変えました。

問題は、現在の宇宙に存在するすべての物質の質量を一般相対性理論から導き出しても、その3分の1がどこにも見つからないことです。この「失われた物質」は、目に見えない「暗黒物質」とは別物なので、どこかに必ず姿を隠しているはずなのです。

そこで立てられたのが、「失われた物質」が、銀河の間にある「中高温銀河間物質」(warm-hot intergalactic medium,  WHIM)の中に存在するという仮説でした。この巨大フィラメントは、光学望遠鏡では見ることができませんが、紫外線を当てるとフィラメント中の温かいガスを捉えることができます。

ある研究チームがNASAの「チャンドラX線観測衛星」の観測データをもとに、ある新技術を使ってWHIMの構成要素が存在する証拠を得ました。論文は、「Astrophysical Journal」に掲載されました。

Detection of the Missing Baryons toward the Sightline of H1821+643
https://iopscience.iop.org/article/10.3847/1538-4357/aaef78

クエーサーが放出する高温ガスとは

チャンドラは、地球から約35億年離れた場所に存在するクエーサーの通り道に沿って広がる温かいガスのフィラメントを観測しました。急速に成長する超巨大ブラックホールの影響を受けたクエーサーからは、大量の紫外線が放出されています。もしWHIMの高温ガスを構成する成分がこれらのフィラメントに関係しているとしたら、クエーサーから出る紫外線の一部はWHIMに吸収されるはずです。そこで研究チームは、クエーサーが放出する紫外線に刻みつけられた高温ガスの証拠を探すことにしました。

問題は、WHIMが吸収する紫外線が、クエーサーから出ている紫外線の全体量と比べてかなり弱いことでした。異なる波長を持つ紫外線スペクトル全体を調べる時は、こうしたわずかな紫外線吸収の証拠を、不規則変動と混同してしまうことがあるのです。

そこで研究チームは、紫外線スペクトルのある一部だけに焦点を当てることに。最初に、紫外線のデータから探知した温かいガスが存在する場所と地球からの距離が同一のクエーサーと、地球を結んだ直線の周辺にある銀河を特定。地球とクエーサーの間にあるフィラメントの候補を17個選び、その距離を計測しました。

これらのフィラメントに含まれる物質によって吸収された紫外線は、より赤い波長に変化します。この変化は、フィラメントまでの距離に依存するため、それをもとにスペクトラムのどの場所を調べるべきかを知ることができます。

酸素は「失われた物質」の一部

ところが、解決すべき課題はもう一つありました。「弱々しい紫外線吸収をいかに捉えるか?」です。17個のフィラメントが発する信号をすべて合わせて、5日半の観測データから100日分に相当するデータを算出しました。その結果、約100万℃の高温ガスの中に、特徴を持つ酸素を探知しました。

研究チームは、酸素の観測データをその他の成分すべてに、そして観測地域から局所宇宙にこの推測を一般化し、これらが「失われた物質」であると報告しています。少なくとも、それがWHIMの中に隠れていたことは間違いなさそうです。

研究チームは、同じ手法を他のクエーサーのデータにも用いて、さらなる確認を進める予定です。

 

「大掛かりなかくれんぼ」をしていた「失われた物質」の居場所が特定される日は近そうですね。

宇宙の「欠けていたバリオン」がついに発見される

reference: phys.org, livescience / translated & text by まりえってぃ
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