ゼロ・グラビティ(13)で第86回アカデミー賞監督賞を受賞したアルフォンソ・キュアロン監督の5年ぶりの最新作『ROMA/ローマ』が現在Netflixにて全世界独占配信中。第91回アカデミー賞では作品賞と監督賞、外国語映画賞など最多10部門にノミネートされた本作。このたびキュアロン監督に電話インタビューを行い、本作の制作の裏話や、映画を取り巻く環境を大きく変えようとしているNetflixへの想いなどを熱く語ってもらった。

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ーー本作はキュアロン監督自身の少年時代の体験が反映されているとお聞きしました。何故このタイミングでそのような映画を撮ろうと?

「歳じゃないかな(笑)。人生を歩んでいると時折自分が誰であったかや、自分はどこから来たのか、そして自分が誰であるのかというテーマと向き合わなければならない瞬間がある。歳を重ねてきたことで、その瞬間に至ったというのが大きな理由だ。そしてもうひとつは、自分のルーツと再び繋がりたいという気持ちが強かったことだ。これまで長いことメキシコ国外で暮らしてきたので、改めて自分の文化や家族と繋がってみようと考えたんだ」

ーー映画の主人公クレオは、監督の家で働いていたリボリア・ロドリゲスさんがモデルに。彼女は監督にとってどういう存在ですか?

「彼女は、僕が特に小さい時に一番強い絆を持つことができた相手で、最も強い愛情を注いでくれた女性です。僕が子供の頃は、彼女を中心に世界が回っていたと言ってもいい。5歳か6歳の頃、僕はいつも彼女と一緒にいて、家のキッチンに入り浸ったりマーケットに行ったりしたよ。その絆は今でも続いているよ」

ーーそんな重要な役柄を演じたヤリッツァ・アパリシオはこれが演技初挑戦。彼女を選んだ決め手と、役作りの上でどのような指示を?

「そもそもこの役をキャスティングする段階で、リボ(リボリアさんの愛称)にルックスが似ている人や、感覚的にも彼女に似ている人、そして先住民というバックグラウンドを持っている人をキャスティングしたいと思っていた。ヤリッツァはそのすべてを持ち合わせていた。そして彼女は実際にリボに会って、色々な話をしていたんだ。おそらくその会話を通して、リボがどんな人物なのかを理解していったのだと思う。ひとつ言えることは、ヤリッツァは今まで僕が仕事をしてきたすべての女優の中で最も素晴らしい女優だ。初めての演技でありながら、キャラクターを構築することがどういうことなのかをすぐ理解してくれて、しっかりと演技をしてくれた。実際の彼女は、クレオのキャラクターとはまったく違うタイプの人なんだよ」

ーー劇中には“映画館”が印象的に登場します。物語と同じ70年代当時、監督にとって映画館はどのような場所だったんですか?

「一言で言うなら、日々の生活の一部だった。当時のメキシコは、他の国からすこし隔絶された国だった。でも映画を観ることで、他の世界や文化を知ることができたんだ。メキシコの映画やハリウッド映画はもちろん、フランスの映画や日本の映画も上映されていて、映画は真に多様性を持つものだと知った。それに、映画館行くという行為そのものが何よりも多様性のある行為だったんだ。それはテレビも同じだった。メキシコのテレビでは日本の番組、『マッハGO!GO!』や『ウルトラマン』も放送されていて、子供の頃はよく観ていたんだ」

ーーちなみに、一番好きだった番組は?

「(ワイドショットのポーズを真似しながら)『ウルトラセブン』だね(笑)」

ーー映画館のシーンで上映されていた作品は、ジェラール・オウリー監督の『大進撃』(66)と、ジョン・スタージェス監督の『宇宙からの脱出』(69)。この2本を選んだ理由は?

「両方とも当時映画館で上映されていて、何度も何度も観た作品なんだ。とくに『宇宙からの脱出』は『ゼロ・グラビティ』でもオマージュを捧げた作品なので、絶対に登場させなきゃと思っていたんだよ(笑)。実はこの『ROMA/ローマ』と『ゼロ・グラビティ』、そして『宇宙からの脱出』には共通している部分があって、それは主人公が孤独を感じていることだ。人間というものはそもそもそういう存在であって、それを救うことができるのは唯一、人と人との関わりなのだということを描きたかった」

ーーなるほど。ところで本作は65mmフィルムで撮影され、ドルビーアトモスなど音響設計も徹底的にこだわられている。劇場公開を前提とされた作品だと思っておりましたが、Netflixには自らアプローチされたと聞きました。

「そうだよ。メキシコを舞台にしたスペイン語で白黒の作品だから、劇場公開が限定的なものになると最初からわかっていたんだ。だけど大切なことは、なるべく多くの人にこの作品を観てもらうことだ。僕らがアプローチした時、Neflix側は作品の表面的な部分にフィルターをかけることなく、作品の内側にあるエモーショナルな価値を重視してくれたし、こうして世界中で劇場公開が叶ったということもNetflixと組んだおかげ。とにかく感謝しているよ」

ーーカンヌ国際映画祭での論争もありましたが、Netflixの存在は今後、映画にどのような変化をもたらすと考えていますか?

Netflixはすでに映画の見方というものに影響を与えてくれていると思っている。そして映画作りの面でも、彼らは世界中をハリウッドの基準でコントロールすることなく、それぞれの国のローカルプロダクションの制作の仕方を大切にしている。あとは劇場体験とのバランスをどう取っていくかが重要になってくる。映画作家にとって、映画館で映画を観てもらえるということは映画作りの根源的な部分でもあるからね。少なくとも、多様性を持つことで映画は進化していく。その意味では誰も足を踏み入れたことのなかったテリトリーに足を踏み入れているNetflixに、僕はすごくワクワクしているんだよ」

ーー本作を家で観る際、監督のオススメの鑑賞環境は?

「ああ、それは公式Twitterでも紹介しているから、そっちもチェックしてくれると助かるな(笑)。もし家に5.1chや7.1chのサラウンド設備が整っていれば映画館で観るのと同じ体験をしてもらえるはずだ。ステレオでも、この映画の中に自分が入り込めるようなレベルを見つけてくれれば嬉しいな。ヘッドホンを使うのもいいと思うよ!」

ーー監督は普段どのような環境で映画を?

「新作はできるだけ大きなスクリーンで観たいから、劇場に行けるタイミングまで取ってあるんだ。でも最近は忙しくて全然観ていないんだよね…。『女王陛下のお気に入り』や『ブラック・クランズマン』も気になってるし、是枝監督が大好きだから『万引き家族』も早く観たいんだ!」

ーー監督が2018年に観た映画の中で良かった作品を教えてください。

「そうだな…パヴェウ・パヴリコフスキ監督の『COLD WAR あの歌、二つの心』は本当に素晴らしい、アメージングな映画だった。それと『インクレディブル・ファミリー』も大傑作だったよ。ブラッド・バード監督はいま活躍している監督の中で最も敬愛している監督の1人なんだ。それと『Eighth Grade(原題)』も大好きだ。ボー・バーナム監督にはこれから素晴らしいキャリアが待っているはずだよ!」

ーー最後に、2019年のご予定は?

「できるだけ長いこと休みたいな(笑)。あとまだ詳しくは言えないけれど、テレビシリーズの脚本も書き始めているんだ」

キュアロン監督と言えば、昨年『シェイプ・オブ・ウォーター(17)アカデミー賞を席巻したギレルモ・デル・トロ監督や『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』(14)のアレハンドロ・G・イニャリトゥ監督と無二の親友であることが知られている。キュアロン監督は、自身が『ゼロ・グラビティ』で監督賞を受賞したことをきっかけに、同じメキシコ出身の彼らがハリウッドの頂点に立ったことに「とてもハッピーな偶然だよ。長いこと映画の仕事をしてきた僕らが次々受賞できるなんて!」と顔を綻ばせた。

そして「いま僕自身は、本作のように、撮りたい映画を好きに作ることができる。すごく恵まれているし幸せだけれど、その分絶対に良い作品を作らなければと感じているよ」と、すでに世界中で大絶賛を集めている本作への確かな自信をのぞかせた。はたしてアカデミー賞ではどんな結果が待っているのか。第91回アカデミー賞授賞式は日本時間2月25日(月)に開催される。(Movie Walker・取材・文/久保田 和馬)

第91回アカデミー賞では作品賞と外国語映画賞をはじめ、最多10部門にノミネート!