劇作家・北村想の「意欲的新作を発表する場」として旗揚げされ、ほぼ年に1作のペースで公演を行ってきたavecビーズ。結成15年目を迎えた今年は、『RE:IN 雨のなかへ ~2019年七月五日アパート北村荘103号室の出来事~』を、名古屋の「損保ジャパン日本興亜人形劇ひまわりホール」で2月21日(木)から4日間にわたり上演。avecビーズでは8年ぶりに北村自身が演出を担当し、出演もする。

avecビーズ『RE:IN 雨のなかへ〜2019年七月五日アパート北村荘 103号室の出来事〜』チラシ表

avecビーズRE:IN 雨のなかへ〜2019年七月五日アパート北村荘 103号室の出来事〜』チラシ表

2019年七月五日アパート北村荘103号室の出来事”という謎めいた副題が付いた今作は、その名の通りアパートの一室を舞台としたワンシチュエーションものだ。家族も家も、仕事も無くし人生に絶望した初老の男が、悪徳不動産屋に騙されて借りた廃屋のような古アパートの部屋。そこで男が独り静かに自殺を試みようとしていると突如、〈国境なき騎士団〉を名乗るポンチョ姿の女性たちが現れ、この部屋に隠されているという“お宝”を探し始める。土足で部屋に踏み込んできた彼女らと口論するうち、某国家の傭兵集団までその“お宝”を狙っていることが明らかに。やがて、外の世界も騒がしくなり戦闘モードへと突入していく中、男はただ者ではない正体を表しはじめ、戦闘もますます激しくなっていく…。

稽古風景より

稽古風景より

avecビーズでも外部提供作品でも、公演のかなり前に戯曲が完成していることが常、の北村。珍しく戦闘モノを手掛けた本作も2~3年前に書いたそうで、当時はまだアメリカで実験段階だったレールガン(電力によって発生させた磁場の力で弾を投射する装置)などもいち早く盛り込まれている。こうした軍事兵器や“お宝”を巡って、会話の中で「重力波」や「ディラックの海」など量子力学物理学の用語が大量に飛び交うため(劇場に用語解説シートを設置予定とか)、作者は「途中から観客が寝るんじゃないかと。でも観客を置き去りにして、話はどんどん進んでいきます」と笑うが、それらがキャストの口から淀みなくスラスラと発せられ会話の応酬が続いていく様は、小気味良くもある。

そんな今作の発想についてはタイトルから思いついたそうで、
メールを返信する時、RE:と付きますよね。そこにINを付けたら「レイン」になるから、「雨の中へ」と読めるんじゃないかなと思ったんです。でも、話の途中まで雨を降らすのを忘れてたんですけどね(笑)。これだけだとわからないから、副題を長くとって。物語はだいたい二の次なんですよ。PCに向かってから考えるから。今回はとにかく、女性の皆さんにポンチョを着せたかったんです。クリント・イーストウッドが『夕陽のガンマン』なんかで着てたやつ。あれがカッコ良くてそういうのを出してみたい、というのが先にあって、それに合うような話を考えたんです」と、北村。
また、「シナリオ骨法十ヶ条」というのがあって、そのひとつが「オタカラ」なんです。宝探し、というのが面白いんですよね。これも、部屋の中に隠されたものがあるのを探したり、それを奪いに来る連中がいる。そういう話ですね。あり得ないことを、さもあり得るかのようにやっちゃうということで、無理矢理こじつければ、S.F喜劇ということです」とも。

稽古風景より

稽古風景より

一方、意外な角度から取り組んだという演出方法も、今回の見どころのひとつになっている。
「集団の劇でほとんど全員が出ずっぱりですから、(しばらく演出を担当してきた小林正和が今回演出するのは)ちょっと難しいかなと思って、書いた本人が演出するのが一番いいんじゃないかなと。それと、S.F喜劇と言ってますけど、自分としては川島雄三監督がずっと撮っていたような、いわゆる“重喜劇”に近づけるようなものがやれれば面白いかなと思ったこともあって、自分で演出してみようと思ったんですね。昨年、川島雄三さんの本が2冊出ているんですけど(2018年に生誕100周年を記念して刊行)、そのひとつ「偽善への挑戦 映画監督 川島雄三」に〈カワシマクラブ〉から頼まれて、この戯曲と同じ頃に原稿を書いたんです。川島監督は心理描写などは何もしなくて、とにかく場面場面、形形を創っていく人。このホンはそういう風に演出していった方がいいなと意識してやっています。まぁでも、全編を通して自分が昔からやってきた小劇場演劇風のものをやっています。その辺は何のブレもなくて、小劇場演劇を正当に継承している。最後の小劇場演劇ですよ、ここは(笑)

稽古風景より

稽古風景より

益川京子、藤島えり子を客演に迎えた5人の女性騎士団は今作のためにアクション指導も受けたそうで、銃を構える姿など立ち居振る舞いや勇ましいセリフ回しも、皆凛々しく格好良い。ここ数年のマスト要素になっている楽器演奏ももちろん披露され、前作『さよならの霧が流れる港町』を観ている方はより楽しめる構造にもなっている。遊びの要素も多く取り入れられ、劇中で爆撃音と共に流れるゴジラの鳴き声にも仕掛けがあるので、よく耳を澄ませて聞いてみよう。

取材・文=望月勝美