安倍首相が「戦後外交の総決算」に位置付け、任期内の解決を目指す北方領土返還交渉が迷走している。

 2016年5月にロシアプーチン大統領に「新たなアプローチ」を提案し、北方領土での共同経済活動をエサに前進を狙ったが、協議は低迷。逆に、昨年9月の東方経済フォーラムプーチン大統領から「前提なしで平和条約締結」を押し込まれ、安倍政権は防戦に追われている。

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積み上げてきた「4島返還」に向けた下地がパー



 

 昨年11月の日ロ首脳会談で平和条約締結交渉の基礎とされた1956年の日ソ共同宣言は、平和条約締結後の歯舞群島と色丹島の日本への引き渡しを明記。国後島と択捉島を含む「4島一括返還」を目指してきた従来の政府方針を大きく後退させる事態になった。

 日本政府が93年の東京宣言と01年のイルクーツク声明で積み上げてきた「4島返還」に向けた下地がパーになってしまったのだ。

レガシーに固執する安倍首相は政府方針の大転換について説明から逃げたまま、平和条約締結交渉に前のめりになっています。悲願の憲法改正も、北朝鮮による拉致問題解決も先が見通せない。アベノミクス偽装も明るみになった。6年を超える長期政権にもかかわらず、成果と呼べるものは何もない。今年11月までしのいで日露戦争時のトップだった桂太郎元首相を超えて憲政史上最長政権となるか、日ロ平和条約締結くらいしかありません」(大手紙政治部記者)

 事実上、「4島一括返還」の線は消え、焦点は「2島ポッキリ」か「2島プラスα」に移った。しかし、それでもなお協議は難航している。

議論は平行線、見通しは真っ暗…

 昨年12月の日ロ首脳会談では平和条約締結に向けた交渉責任者を日ロ両外相とし、今年1月中旬に続いて今月17日(日本時間)にドイツミュンヘンで2回目の日ロ外相会談が行われたが、議論は平行線。

 ラブロフ外相は「南クリル諸島(北方領土)のロシア主権を含む第2次大戦の結果を受け入れなければ協議は進まない」とする従来の主張を繰り返し、河野外相は共同経済活動をアピールするにとどまった。安倍首相の任期は残り2年半、対するプーチン大統領は5年。安倍首相の足元を見るロシアが焦らし戦術でさらなる譲歩を求めてくるのは必至だ。

「官邸周辺は『2島プラスα』を盛んに流し、期待を持たせていますが、現実問題としてどうなのか。色丹島には約3000人の住人が暮らし、引き渡し反対運動を展開しているし、歯舞群島には国境警備隊が配備されている。平和条約を締結しても、領土喪失を望まないロシアは1島も引き渡さず、共同経済活動を口実に日本から資本や技術をむしり取るだけではないのか。そうした懸念が高まっています」(日ロ外交関係者)

 安倍首相は今年6月に大阪で開催されるG20首脳会議のタイミングでの平和条約締結に向けた大筋合意をあきらめていないが、どっちに転んでも見通しは真っ暗だ。

[文/構成:ココカラネクスト編集部]

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