先日、はしかに感染した女性が東京と新大阪新幹線で往復し、大阪府が、同じ列車の乗客に注意を呼びかけました。はしかは空気感染でも広がり、感染力が強いことから不安が広がっています。ただ、一口に「空気感染もあり感染力が強い」といいますが、そもそもどれくらいの距離や接触で感染するのでしょうか。また、感染の疑いがある場合、周囲にうつさずに医療機関に行くには、どうすればよいのでしょうか。内科医の市原由美江さんに聞きました。

インフルエンザの10倍の感染力

Q.そもそも、はしかとはどのような病気ですか。

市原さん「はしかウイルスに感染することで、発熱、咳、鼻汁など風邪に似た症状と同時に、口の中に白いできものができ、それが3日程度続きます。その後、39度以上の発熱と全身に発疹(ほっしん)が出現します。1週間程度で解熱し、発疹は皮膚の色が黒っぽくなる色素沈着を起こします」

Q.感染力が強いといいますが、他のウイルスに比べ、どのくらい強いのでしょうか。

市原さん「1人の感染者が生み出す二次感染者数の平均値が、感染力を表す指標として使われています。その数字からすると、インフルエンザウイルスは1~2、ノロウイルスは2~4、はしかウイルスは12~18で、感染力が非常に強いことが分かります

Q.はしかの空気感染や飛沫(ひまつ)感染では、感染者からどれくらい離れた人まで警戒すべきなのでしょうか。

市原さん「空気感染では、咳やくしゃみによってウイルスを含んだ飛沫が床などに飛び散り、水分が乾燥した後にウイルスが空気中を浮遊するため、たとえ感染者から離れていても、同じ空間にいれば感染のリスクがあります。飛沫感染については、咳やくしゃみで飛沫が最大2メートル程度飛ぶため、近くにいる場合は直接ウイルスを浴びて感染します」

Q.今回の新幹線の事案で、感染者が仮に16号車に乗っていたとした場合、最も離れた1号車の乗客も警戒しないといけないのでしょうか。車内や駅構内で感染者とすれ違っただけでも、感染する可能性はありますか。

市原さん「空気中を浮遊するウイルスの量や、車両同士を行き来するためのドアの開閉頻度、患者本人やウイルスを含んだ飛沫が付着した人が移動する距離にもよりますが、1号車と16号車で離れていても感染のリスクはあると思います。すれ違った場合も、感染者本人がその場にとどまっているのか、咳やくしゃみの有無などにもよりますが可能性はあります」

移動時は換気を頻繁に

Q.どのような症状が出た場合に、はしか感染を疑い、どう対応すればよいですか。

市原さん「風邪の症状と同時に、口の中に白いできものができたり、熱がいったん下がった後に再び高熱が出て、発疹が出現したりすることがはしかの特徴です。はしか自体の治療薬はなく、対症療法となります。症状がつらければ、まず医療機関に連絡して指示を仰ぎましょう」

Q.感染の疑いがある場合、医療機関に連絡した上で受診するように求められます。感染症対策の設備が整っている病院ではなく、小さなクリニックでも受診できますか。

市原さん「はしかは感染力が強いため、免疫のない医療スタッフやほかの患者さんにうつしてしまう可能性があります。そのため、感染症対策の設備などが整っている医療機関を受診する方が望ましいですが、この場合も事前に病院へ確認してから受診してください」

Q.医療機関へ行くとき、他者への感染を防ぐため、できるだけ公共交通機関を利用しないよう求められます。受診できる医療機関が遠距離の場合、どうすればよいですか。

市原さん「電車やバス、タクシーなどは空気感染のリスクが高いので、なるべく避ける必要があります。感染対策のために自家用車で移動することが望ましいですが、体調がすぐれないときには運転を避け、身近な家族や友人などに手伝ってもらうことになるでしょう。この場合、感染者本人はマスクをして飛沫感染対策を最大限に行い、窓を開けて換気をすることで空気感染のリスクを少しでも減らすしかないでしょう」

Q.自家用車がない場合はどのようにしたらよいですか。タクシーはなるべく避けたほうがよいとのことですが、たとえばタクシー会社に相談して、感染リスクの少ない運転手を頼むなどの方法は考えられないでしょうか。

市原さん「そうですね。はしかにかかったことのある運転手さんやワクチン接種をした運転手さんにお願いできるか、タクシー会社に相談するのも一つの方法かもしれません。ただ、リスクのあることを承知で請け負ってくれるタクシー会社が少ない可能性はありますが…。」

Q.はしか感染が判明して自宅で療養する場合、食事の提供などで家族が接することもあります。感染者は家族に感染させないため、家族は感染しないため、どのような対応をすればよいですか。

市原さん「感染者はまず、マスクをすることです。そして、部屋の換気をこまめに行いましょう。これまでに、はしかにかかったことのない家族、ワクチンを接種していない家族は、鼻と口を深く覆いつくす『N95マスク』を利用するのも手です。N95マスクは、米国労働安全衛生研究所の規格をクリアした微粒子用マスクで、はしかウイルスや結核菌など、小さな病原体からの感染を防いでくれます。

ただし、正しく顔にフィットさせないと感染予防効果が低下すること、ネット販売されているものの、身近なお店で売っていない可能性があり、入手に時間がかかることが難点です」

オトナンサー編集部

同じ新幹線に乗っただけでも感染する?