大ヒットしている書籍、『せつない動物図鑑』『東大教授がおしえる やばい日本史』『わけあって絶滅しました。』の編集を担当した、ダイヤモンド社の金井弓子さん。日頃から本に接することの多いお仕事ですが、これまでどんな本に影響を受けてこられたのでしょうか。普段よく読む本や、感銘を受けた本などについて、お話を伺いました。

一番ワクワクする本との出会いは、書店での“一目惚れ”

―― 普段どのような本を読まれることが多いですか?

大学時代は小説も多く読みましたが、今はもっぱら漫画を読んでいます。中でも好きなのが『ジョジョの奇妙な冒険』(荒木飛呂彦)と『キングダム』(原泰久)。漫画は小説に比べて、作品のパワーがダイレクトに注入される気がするんです。作家さんがエネルギーを注いで描いたものが、すごい迫力で熱を帯びて入ってくる。仕事がつらいときには毎朝出勤前に漫画を1冊ずつ買って、元気をチャージしたりしていました。

また、生き物についての本も以前から好きです。たとえば吉川浩満さんの『理不尽な進化』には多大な影響を受けましたし、ドーキンス博士の講義をまとめた『進化とは何か』もよく読みました。


―― 読みたい本はどのように見つけますか?

まず売れ筋ランキング上位の本はチェックするようにしています。学生の頃は「ベストセラーではなく自分だけのお気に入りの作家を見つけたい」と思っていた時期もありましたが、多くの読者に支持される本は、やっぱりすごく面白いんですよ。また、人から薦められた本は必ず読みます。普段自分が手に取らないような本から、思いがけない世界が広がることもありました。でも一番ワクワクするのは、書店の店頭で本に一目惚れした瞬間です。表紙を見た瞬間に「いいな」とビビッと来た本は、やっぱり好みに合うものが多いですね。“一目惚れ買い”した本は「私が見つけた」という喜びもあります。

最近はインターネットで本を購入したり、電子書籍で作品を読んだりすることもできますが、私は書店で紙の本を選ぶのが好きです。書店によって、おすすめや本の並べ方もそれぞれ。「本屋さんを味わう」ように本を選ぶことは、とても豊かな時間ではないかと思います。

人の人生観を変えるほどの力が本にはある

―― 考えや人生に影響を受けた本はありますか? その本のどういう部分に特に影響を受けましたか?

大学生のときに読んだ、町田康さんの『告白』です。これは実際に起きた大量殺人事件「河内十人斬り」を題材に、犯人の幼少期から、大人になって殺人を犯すまでを描いた作品です。普通、大量殺人を犯すような人は、おかしい人だと思いますよね。でも私はこの本を読んで、それまでの価値観がすごく揺らぎました。自分自身の中にあるいろいろな思いをうまく表現できない、他人から見られる自分のキャラクターにギャップがある――私がそれまで思っていたことが、私だけの悩みではないと気付かせてくれた本です。「自分の価値観だけが正解なのではない」と痛感し、すごく生きるのがラクになりました。

そして、「人の人生観を変えられる、本ってなんてすごいんだろう!」と感動しました。私はこの本に出合っていなかったら、出版社で働こうとは思っていなかったかもしれません。高校生の方にも是非読んでもらいたい一冊です。

好きなものの周りをウロウロしていれば、きっと“ブレイクスルー”が訪れる

―― 高校生の頃はどのような生徒でしたか?

高校生の頃は本当に不真面目な生徒で、毎日明け方まで本を読んでは授業中寝ている、ということが続いた時期がありました。あと、なぜかどうしても宿題をやりたくない時期もあって。今思うとなぜあんなにやりたくなかったのか分からないんですけど(笑)。でも、真面目に授業を受けないことも宿題をしないことも自分の中では嫌で、劣等感を抱えていました。

当時は『ファウスト』や『メフィスト』という文芸誌が大好きで、森博嗣さんや西尾維新さんの作品をよく読んでいました。オースティンなど海外文学作品も読みましたね。


―― 高校生に向けてメッセージをお願いします。

難しい本を読んでいるとき、最初は面白く感じなくても突然面白くなる“ブレイクスルー”のような瞬間があります。「分厚くて読むのに気乗りしないな」「文章が難しいな」と思っても、少し我慢して読み進めていくと、急にその世界に入り込める瞬間が来るんです。

編集の仕事も同じで、私は1冊目も2冊目もうまくつくれなかったのですが、3冊目の本をつくっているときに突然「こうやしたらもっと面白くなる!」と分かる瞬間がありました。何でも最初からできる人や才能に恵まれた人はごく一部です。でも分からないなりに、何となく好きなものの周りをウロウロしていると、突然パッと道筋が見えることがあるんです。
高校生の皆さんも、「自分が何をしたいのか分からない」「何もかもうまくいかない」と悩むことがあるかもしれません。そんなときはひとまず先のことを考えず、好きそうなものの周りをウロウロしてみてください。道は最初から見えません。ウロウロしているうちに、あるとき突然“ブレイクスルー”が訪れると思いますよ。



金井さんの人生を大きく変えたという『告白』。金井さんはこの本を、当時アルバイトをしていた書店の先輩に薦められて読んだそうです。自分で選んだ本だけでなく、人に薦められた本を読むと、思いがけない新たな世界に出会えることもありますよね。高校生の皆さんも、今回のインタビューで紹介された本を是非読んでみてはいかがでしょうか。


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株式会社ダイヤモンド社 書籍編集局 第一編集部
金井 弓子
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