欧州に比べると香水への意識が決して高いとは言えないが、最近、日本でもおもしろい動向が見られる。香水ブランドの“フレデリック マル”と“キリアン”に注目したい。前者は「香りの出版社」と呼ばれ、ブランド名にもなっているマル氏が世界中にいる最高の調香師達に依頼をして香水を作ってもらうというスタイル。
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あたかも出版社が作家に作品を書いてもらうかのごとく香水を作るのだ。そもそも彼の祖父はあのパルファン・クリスチャン・ディオールの創設者であり、母親もまた香水に携わっていた言わばサラブレッド。そんな彼が世界の最高の香りのデザイナー12人とともに作りあげたのがこのブランドなのだ。
それでは、筆者が数ある作品の中でも最も気に入っている3つの香りを紹介しよう。まずは『フレンチ ラバー』という調香師のピエール・ブルドンの作品。アンジェリカというめずらしい香料に意欲的に取り組んだもので、名前の優しげな印象とは裏腹に実に男性的で力強い香り。
といってもむせかえるようなセクシーさではなく、パチュリやツリーモス、シダーといったどっしりとしたベースが感じられ、ワーグナーの音楽にもたとえられるほど重厚だ。ブルドン氏はかの“ダビドフ”の名香『クールウォーター』の調香師として有名で、男性向けの香りが得意というのも納得できる。
男性用の香りの王道であるパチュリやシダー、モスなどを使いながらもどこかに新鮮さを感じるのはアンジェリカのおかげだ。
フレンチラバー 100ml
3万円
次にソフィア・グロスマンの『アウトレイジャス』。日本語の訳語に「常識外れ」とついており、ブラジルのカクテルのカイピリーニャにインスパイアされたもの。ベルガモットやグリーンアップル、シナモン、ムスクなどの調和が見事で陽気でカラフルな印象。マル氏は「クリーンなセックスアピール」と評したそう。グロスマン女史は香水の女王とも呼ばれ、彼女の紡ぎ出す香りは大胆なものが多い。この底抜けに明るい香りはビーチリゾートで活躍するだろう。
サンバのリズムが聞こえてきそうな香り。シトラスにグリーンアップル、シナモンやムスクが混じり合う陽気さがいい。
アウトレイジャス 100ml
2万6000円
最後は重鎮、ドミニク・ロピオンの『ポートレイト オブ ア レディー』。オリエンタルローズとパチュリの馥郁たる香りは主に女性向け。パートナーや友人にプレゼントすると喜ばれること間違いない。香りだけでなく、ボディバターやシャワークリーム、ヘアミストなど一部限定発売のボディラインも充実しているので、香水はあまりつけないという人にはこちらがお勧め。もちろん、セットで贈るのも素敵だ。
優しく洗い上げるボディ用洗浄料。肌に香りが留まる処方で長時間楽しめる。数量限定。
ポートレイト オブ ア レディー シャワー クリーム 200ml
1万500円
もうひとつのブランド“キリアン”だが、こちらも出自がスゴい。あのコニャック メゾンとして知られているヘネシー家の生まれで、一家所有のフランス南西部にある城(!)で、砂糖やアルコール、バニラのしみこんだ木樽の香りの中で育ったという。この強烈な原体験によって彼はソルボンヌ大学を卒業後、香水の道へと進む。
ジャック・キャバリエ(ブルガリのプール オムやロードゥ イッセイの調香で知られ、現在はルイ・ヴィトンのインハウス マスターパフューマー)やティエリー・ワッサー(かのゲランの5代目専属調香師)など名だたる調香師からトレーニングを受け、その後、2007年にブランドを起ち上げた。そんな香水ブランド“キリアン”は2018年に日本上陸し、7つのコレクションで19のパルファムを展開している。
さて、筆者のお気に入りはスカルが目印のボックスに入った『ブラック ファントム メメント モリ』。「死を忘れずに、今日を生きろ」という強烈なメッセージ付きで、刺激的なコーヒーやラムなどのグルマンな香りは見た目のハードな印象と異なって日本人にも使いやすい。苦味と甘み、そして最後にサンダルウッドのアーシーな雰囲気が絶妙に組み合わせられている。
豪華な意匠が施され、スカルのレリーフがついたボックスに度肝を抜かれる。
ブラック ファントム メメント モリ オード パルファム 50ml
3万4000円
次に『ムーンライト イン ヘブン』。これはピンクペッパーのスパイス感とレモンなど柑橘が調和し、爽やかさの中にココナッツやマンゴーなどのジューシーなイメージもある。
こちらは名前の通り夜に纏いたいロマンティックな香り。クラッチ型のケースもスタイリッシュ。
ムーンライト イン ヘブン オード パルファム 50ml
3万4000円
そして女性にプレゼントするなら『バンブー ハーモニー』がいい。アジアン テイルズ コレクションのひとつで、「かぐや姫」からインスパイヤされたとか。高貴なネロリやミモザ、柔らかなホワイトティーリーフとフローラルの軽やかさがありながら、官能的な側面も有している。
東洋的な落ち着きと上品さが香るこちらはマテ茶やフィグリーフなどめずらしい香料が複雑に調和する。
キリアン バンブー ハーモニー オード パルファム 50ml
3万4000円
今まで紹介した両氏の立ち位置はやや異なるが、香りをプロデュースをする人と調香師の連携で作品を生み出すというスタイルは世界的な潮流になってきた。今まで日本ではあまり知られていなかったが、これからグンと浸透しそうな予感もする。春に新しい香りを試したいなら、ぜひ検討を!
【Profile】
フレデリック・マル:
2018年、ファッション グループ インターナショナルにおいて功績をあげた人物として美容業界でただ一人、ビューティーアワードを受賞。名実ともに今の香水界を牽引する人物。
キリアン・ヘネシー:
華麗なる生まれに奢ることなく、あらゆる香水の処方を嗅ぎ分けることができるという天才的な嗅覚がある現代の貴公子。また、3000を超える香水原料のライブラリーも有している。
藤村岳(ふじむらがく):シェービングを中心に据えた独自の男性美容理論で、メディアへの出演や美容コンサルティングで活躍。著書に『一流の男はなぜ爪を手入れするのか?』(宝島社)などがある。
※『デジモノステーション』2019年3月号より抜粋。
関連サイト
男性美容研究所 藤村岳danbiken.net
text藤村 岳
(d.365)
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