■地球大気の最も外の層であるジオコロナが、月の軌道の更に2倍先にまで広がっていることが判明
■発見は太陽観測機であるSOHOによって蓄えられていた過去の観測データから
■宇宙望遠鏡の紫外線を使った観測では、影響を考慮する必要がある
地球の大気の中で最も外側の層は、月の軌道をこえて、その2倍先にまで広がっていたようです。
ESAとNASAの太陽・太陽圏観測機(SOHO)による観測を元にした最新の発見で、地球を取り囲むガスの層は地球の直径の50倍つまり63万km先にまで到達していることがわかりました。地球スゴイ。
https://agupubs.onlinelibrary.wiley.com/doi/abs/10.1029/2018JA026136
筆頭著者でロシア宇宙科学研究所のイゴール・バリューキン氏は次のように述べています。「月は地球の大気中を回っていたのです。SOHO観測機による大気の外からの20年間の観測によって、初めてそれに気付いたんです」
地球の大気が外宇宙と交わる所には、水素原子でできた雲、通称ジオコロナがあります。SOHOの観測機器のひとつ、SWANの感度の高いセンサーを使って、水素の痕跡が追跡され、ジオコロナがどれだけ広がっているかが正確に決定されました。
外気圏に水素を持つ惑星は、その表面に水が存在することが多くあります。地球や火星、金星がその例です。共著者でありSWANのオペレーターだったジャン・ルー・バトゥー氏は、「太陽系外で水を蓄えている可能性を持つ惑星を探す時、この発見はとりわけ興味深いです」と、説明しています。
1972年、アポロ16号のクルーによって最初に月に望遠鏡が設置された時、地球を取り巻くジオコロナと、その紫外線で照らされた光が撮影され、想像を掻き立てました。しかし、当時撮影した宇宙飛行士たちも、自分たちがそのジオコロナの中に居たとは思っていなかったでしょう。
水素の雲
太陽光は特別な波長の紫外線であるライマンα線を介して水素原子に作用し、吸収、放射されます。この光は地球の大気によって吸収されるため、宇宙からでないと観察できません。水素吸収セルをもつSWANは、ライマンα線の測定をジオコロナからによるものと、惑星間に漂う水素からによるものとを選択的に行なえます。
新たな研究では、太陽光が地球の昼間側のジオコロナ内の水素原子を圧縮し、夜側では濃度の高い領域を広げることが明らかになりました。水素の濃度が高い昼側の領域であっても濃度はまばらで、6万km上空では1立方センチメートル当たり70原子、月までの距離で0.2原子です。地球上ではそれは真空と呼ばれており、宇宙探査に活用できるほどの十分な水素はありません。
この発見の良い点は、月軌道にミッションに出た未来のクルーや旅行者に、これらの粒子が危険を及ぼすものではないとわかったことです。ジオコロナに関係する紫外線放射が存在し、同時に水素原子が日光を色んな方向へと拡散させますが、月軌道の宇宙飛行士への影響は、直接の太陽からの放射線に比べると無視できるものとのこと。
しかし悪い点は、月近傍での天文学の観察に、ジオコロナが干渉する可能性があることです。
「恒星や銀河の化学組成を調べるために宇宙望遠鏡を使って紫外線観測するときには、それを計算に入れる必要があるでしょう」とジャン・ルー氏は言います。
記録することの力
SOHOは1995年の12月に打ち上げられており、それ以来太陽の研究を20年間、深部から外部のコロナ、太陽風に渡って幅広く行っています。この観測機は地球から太陽に向かって150万kmのラグランジュ点L1に位置します。この位置は、ジオコロナを観察するには絶好の観測点。SOHOのSWAN装置は、1996年から1998年の間に地球とその広がった大気を3回とらえる機会がありました。
ロシアのジャン・ルー氏とイゴール氏のチームは、記録からこのデータセットを掘り出し解析しました。SOHOから見たジオコロナの全体像という独特の視点によって、地球の大気の解明に新しい光を投げかけたのです。
「何年も昔に保管されたデータが、新しい科学の役に立つことはよくあります。今回の発見は、20年間に渡って集められたデータの価値を浮き彫りにし、SOHOの並外れた能力を強調しています」とESAのバーナード・フレック氏は述べています。
地球の大気が月の軌道を超えてた先にまで広がっていたというのは驚きですね。しかし、地球と宇宙の境をそこに設定するには、実用上遠すぎるでしょう。その発見が、過去のデータの中に眠っていたことも、今後の天文学の発展にとって良いニュースです。新発見は意外と足元に埋まっているのかもしれません。
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