wolf-2984865_640_e_e

pixabay

 人とオオカミとの緊張は大昔から続いてきた。伝説や神話では、オオカミが恐ろしい獣として描かれており、それゆえにヨーロッパに生息していた彼らは駆逐され、大きく数を減らすことになった。

 1960年代、ヨーロッパに生息するオオカミの数は記録的なまでに激減し、まさに絶滅の淵へと向かおうとしていた。

 だが、最近のドイツでは、オオカミがだんだんと生息数を回復させつつある――その背後にはドイツ軍という意外な庇護者がいたのである。

―あわせて読みたい―

絶滅危惧種のオオカミがあらわれた!「ハイイロオオカミ」が繁殖し、家族で行動している姿が確認される(アメリカ)
野生の王国となったチェルノブイリ、オオカミたちが繁殖し生息域を広げつつある(ウクライナ)
オオカミは人類の最良の友となりえる。タイリクオオカミに関する22の興味深い事実
デンマークにオオカミたちが帰ってきた!絶滅したと思われていたオオカミの群れが200年ぶりに出現
個体数が減ったオオカミが子孫を残す相手として選んだのはコヨーテだった。オオカミとコヨーテのハイブリッド種「コイウルフ」

ドイツ軍の敷地内にオオカミが定住

 ドイツ軍からの庇護は意図されたものではない。

 ドイツでは今、オオカミタイリクオオカミ/ハイイロオオカミ)が毎年36パーセントずつ増加している。だが、そこには、80~90年代にかけて施行された野生動物保護法や、ヨーロッパ各地で有蹄動物が増え、オオカミのエサが増加したといった、いくつかの要因がある。

 それでもなお、興味深い相関がある、とLUPUSドイツモニタリング・研究センター(LUPUS German Institute of Wolf monitoring and research)のイルカラインハルト氏は話す。

 オオカミが移住してまず定住するのは、例外なくドイツ軍の訓練区域なのだ。

 最初にフェンスなどで囲われていない訓練区域に移住してから、周辺地域へと移動し始める。ところが、軍区域から離れすぎてしまうと、またもや戻ってきてそこに縄張りを作る。

 オオカミの保護区域がほかにあるのに、そちらではなく軍の敷地のほうが好まれるのは不思議としか言いようがなかった。

wolf-702820_640_e_e

pixabay

軍の敷地だからこその意外な庇護


 そこでラインハルト氏らが調査を行うと、軍の敷地では、保護区域よりも人間に殺される割合が低いことが判明した。

 軍の敷地では密猟が少なく、一般の区域に比べると、そのせいで死んでしまうオオカミの数が少なかったのだ。

 軍用区域と保護区域などのほかの区域との大きな違いは、狩猟制度にある。

 ドイツにおいて、軍用区域での狩猟は当局によって監視され、広い範囲で管理されている。

 ところが保護区域は、最小75~100ヘクタールほどの私有の狩猟場に区分されているのが普通だ。

 このためにオオカミの群れは100名以上ものハンターと縄張りを共有することになり、その結果として、密猟のターゲットになってしまう。

 軍訓練区域では、人間によって支配されてしまった地域から動物たちが難民として逃げてきて、繁殖する傾向にあることが、きちんと記録されている。

 しかし今回判明したように、軍訓練区域を拠点にしてオオカミが周辺に広まることは盲点であった。

wolf-2782626_640_e_e

pixabay

生態系で大切な役割を果たすオオカミ


 恐ろしいイメージがあるオオカミであるが、付近の生態系にとって総じてみれば好ましい影響を与える。

 たとえば、アメリカのイエローストーン国立公園では、オオカミが帰還したことで、野生のヘラジカが過剰に増加していた地域でのバランスが回復した。

・オオカミってやっぱすごい!ほんの少数のオオカミの群れが自然に奇跡をもたらすまで(米イエローストーン国立公園) : カラパイア

 その反対に、「パンド」というアメリカヤマナラシが群生している森では、ツーリストを守るためにオオカミを駆除したことで、草食動物が増えすぎてしまい、木々がその食害に遭うようになってしまった。

wolf-1352243_640_e_e

pixabay

適切な庇護があれば野生動物は再び帰ってきてくれる


 ドイツでは、オオカミにとって追い風が吹いている。

 最新のデータによれば、現在73のオオカミの群れと60のつがいが確認されており、19世紀以来初めて野生のオオカミの子供が確認された2001年に比べると、状況は大幅に改善している。

 こうした中、軍の訓練区域が果たす役割は注目すべきである。万が一、こうした土地が一般用途に転換されたような場合は、この動物たちの避難先としての機能が維持されるよう気をつけねばならないと研究は述べている。

 だがとにかく嬉しいことは、今回の事例が、野生生物をきちんと守れば、ちゃんと帰ってきてくれるのだということを実証していることだろう。

 この研究は『Conversation Letters』に掲載された。

References:Wolves in Germany Are Making a Comeback, And The Military Is Weirdly Helping/ written by hiroching / edited by parumo

全文をカラパイアで読む:
http://karapaia.com/archives/52271339.html
 

こちらもオススメ!

―動物・鳥類についての記事―

2月22日は猫の日。世界の猫に関する20のトリビア
突然訪れた愛犬との別離。悲しみに打ちひしがれた少年が運命に導かれ、新たな犬に出会うまで(アメリカ)
生き残るため。様々な植物が他植物から遺伝子情報を盗み、それを取り込むという戦略を利用していた(英研究)
外出しようとすると毎回、鉄壁の防御で家の鍵を守ろうとする猫
父親が新しく便器を設置。ちょっと目を離した数分後、猫がこうなってた…に関する海外の反応

―知るの紹介記事―

2月22日は猫の日。世界の猫に関する20のトリビア
アレな生態系日常漫画「いぶかればいぶかろう」第17回:朝ごはんの為の3匹の猫たちの目覚ましミッション
生き残るため。様々な植物が他植物から遺伝子情報を盗み、それを取り込むという戦略を利用していた(英研究)
燻煙式殺虫剤の罠を回避するゴキブリ。だがその煙は他の生物に危険性(アメリカ)
臨死体験は単なる幻覚なのか?科学者が予想する死後に起こること
図らずもドイツ軍に庇護され、その生息数を増やし始めたオオカミ(ドイツ)