三菱ふそうが、高速バスや貸切バスに用いられる大型観光バスエアロクイーン」「エアロエース」の新型を発表。観光バスでは日本初となる「車体側面のレーダー」を搭載するなど、安全装備の強化が図られました。

「顔」も刷新

三菱ふそうトラック・バス(以下、三菱ふそう)は2019年2月21日(木)、大型観光バスエアロクイーン」「エアロエース」の新型を発表しました。

客室の位置が高いスーパーハイデッカータイプが「エアロクイーン」、それよりやや客室位置が低めのハイデッカータイプが「エアロエース」で、いずれも高速バスや貸切バスで広く用いられるものです。今回は国産の大型観光バスでは初めて、ヘッドランプがLED化され、従来よりも吊り上がった形状になりました。

これら新型について三菱ふそうが強調するのが、安全装備の数々です。

車体前方のレーダーを用いた衝突被害軽減ブレーキや、前車との間隔を保持して走行するオートクルーズなど、従来からの技術も精度や機能を向上させています。また、ドライバーの急病時に乗客が非常停止ボタンを押し、バスを自動停止させることができる「ドライバー異常時緊急停止システム(EDSS)」も、日野やいすゞの2018年モデルに続いて採用されました。

そして、大型観光バスとしては日本初搭載となる安全装置が、左折時の巻き込み事故を防ぐ「アクティブ・サイドガードアシスト」です。

レーダーを「側面」にも搭載

今回の新型は前方だけでなく、左の後輪近くにも側面全体をカバーするレーダーが搭載されています。車体の左側にいる歩行者自転車を検知すると、運転席の警告ランプが黄色く点滅。この状態でドライバーがハンドルを切ったり、ウインカーを出したりすると、ランプが赤く点灯し、運転席を震わせるバイブレーターが作動します。

こうして「ぶつかる」ことをドライバーに警告し、ブレーキを促す「アクティブ・サイドガードアシスト」機能は、おもに街なかの交差点における事故を想定しているといいます。もちろん、交差点の縁石やガードレールなど、動かない障害物も検知します。

三菱ふそう バス開発部長の伊藤貴之さんによると、「左側面はサイドミラーに備え付けられたカメラの映像でも確認できますが、後輪の近辺まで大きく映るわけではなく、このため左折時に障害物を巻き込んでバスを破損させる事例が少なくありません。この技術をバス事業者さんに説明すると、強い反応が返ってきます」と話します。

事故や車両の不具合が起きてからの対策も強化されています。火災発生時にタンクからエンジンに至る燃料の流れを遮断し、二次火災を防ぐ延焼防止装置が備わったほか、走行中の車両情報を三菱ふそうのカスタマーセンターで受信し、車両の不具合などに対し24時間のサポートを提供する「バスコネクト」も搭載されました。三菱ふそうの松永和夫会長は、バス・トラック市場における「最高水準の安全性能」と胸を張ります。

メインは高速バス向けか

新型「エアロクイーン」「エアロエース」は2019年4月に発売予定。安全装備の充実により、価格は従来モデルよりも40万円から60万円ほどアップし、「クイーン」が4920万2000円、「エース」が4681万円(いずれも東京地区標準販売価格)です。三菱ふそうでは12月までの販売目標を600台から650台程度と見込んでいます。

三菱ふそうのバス事業本部長、高羅克人さんによると、今回の新型は高速バスなどの「路線系」用途が中心になると見ているそうです。「貸切バスは2013年くらいから、インバウンド(訪日観光客)の急増で“バブル”ともいえるほどの車両需要がありました。いまではそれがひと段落している一方で、路線系の需要は堅調です」とのこと。

背景には、インバウンドの旅行形態が、貸切バスを用いた団体旅行から、公共交通機関を利用する個人旅行へと変化していることがあります。実際、高速バスを利用する訪日観光客も増えており、そうした実情を受けて、車両の更新だけでなく、増備の需要も見込めるのだそうです。

ドライバー不足が取りざたされて久しいですが、各事業者は新人教育に力を入れているのはもちろん、貸切バスの運転手を高速バスに回すなどして対応しているところもあるそうです。そうしたなかで、バスにまつわる事故が相次いでいることからも、安全性能への関心が高まっているといいます。

「従来の『エアロクイーン』『エアロエース』は運転の安定性、操作性で多くのドライバーから好評を得ていますが、さらに安全性能を高めることで、ドライバーの肉体的な疲労だけでなく、精神的な疲労を軽減します」と高羅さん。バス事業者が安全性の向上に努めるなか、「その真のパートナーになりたい」と話します。

※一部修正しました(2月25日11時15分)。

三菱ふそう「エアロクイーン」2019年モデル(2019年2月21日、中島洋平撮影)。