就任8年目の曺貴裁監督を直撃 昨季までは予測や準備が「物足りなかった」

 昨シーズン、湘南ベルマーレはクラブ創立50周年という節目の年にルヴァンカップを初制覇した。Jリーグ発足後、初のメジャータイトルを獲得したクラブはこのオフ、昨年に筆頭株主となった合弁会社の中核を成すRIZAPグループの主導の下、『RIZAP Lab(ライザップラボ)』と呼ばれる新たなトレーニング施設を導入。また、これまでの傾向に反して、前シーズンの主力がほぼ全員残り、さらに武富孝介、指宿洋史、レレウなど楽しみな新戦力も加入している。

 念願のトロフィーを手にし、バックアップ体制も強化された湘南は今季、昨季よりも高みを見据えている。それを実現するために、就任8年目を迎えた曺貴裁監督が最も重要視しているものは「予測力」だと言う。

「今までは、言われたことをしっかり体現していくことが湘南の良さだった。切り替えを徹底するとか、ボールを奪われたら早く帰陣するとか、球際やゴール前で体を張るとか、そういうことはできていたと思う。でも、ゲーム中に次に何が起こるかと予測したり、そのために準備しておくといった点が物足りなかった。相手の前に出るとか、局面で先手を取るとか。逆に言えば、そこは大きな伸びしろだと思うので、このプレシーズンはそうした部分を高めるようなトレーニングを積んでいます」

 そう話した指揮官は、昨年もシーズン終了後に欧州へと渡り、最先端のフットボールを自身の目で確認してきた。たまたまマンチェスター・シティUEFAチャンピオンズリーグの会場で居合わせたこともあり、その点についても質問してみた。曺監督が今の欧州フットボールから得たインスピレーションはどんなものだったのか、と。

「ポゼッションかカウンターかだけを議論する時代は、欧州では終わっている」

「ポゼッションかカウンターかだけを議論する時代は、少なくとも欧州では終わっている。その両方を実行に移すタイミングを見極められないと、点は入らないし、試合には勝てない。どっちかだけの練習をすれば、絶対に負けると僕は考えている。だから双方を極めていくようなチームでないと、これからは残っていけないと思う。

 プレースタイルについても、ポゼッションもカウンターも、速攻も遅攻も、全部あるなかで、強いて言えばここが優れているよね、という論じ方。ドイツスペインの真似をする必要はないんだけど、サッカーで点を取って勝つという話において、もうこの話に異論を挟む人はいないと思う。それをウチや日本に当てはめた時、状況判断が課題かな、と。その力を上げていけば、少しでも(トップ中のトップレベルに)近づけていけるのではないかな」

 湘南スタイルというキャッチーなフレーズは、その内容も含めて、日本のサッカーファンの間にかなり浸透している。しかしこれを言い出した張本人でもある指揮官は、その意味が「走るとか、ガムシャラとか」だけに集約されることを拒んできた。初タイトルを獲得した翌シーズン、湘南の新章のキーワードはチームスローガンの“アクセラレーション”であり、それを実現させるための「思考力」や「予測力」となる。(井川洋一 / Yoichi Igawa)

昨シーズン、ルヴァンカップを初制覇した湘南ベルマーレ【写真:荒川祐史】