『イノセンス 冤罪弁護士』日本テレビ系)の第5話が2月16日に放送された。

放送前、番組の公式アカウントはこんなツイートを発信している。

珍しく激怒する今まで見たことのない拓の姿????最近話題にもなった、生徒が教師を挑発して体罰に…というニュース??今週の5話はそんなニュースを連想するような、名門フェンシング部で起きた事故????大人たちを振り回す、生徒の盗撮動画が法廷を大混乱に…?? #イノセンス #冤罪弁護士 #坂口健太郎 pic.twitter.com/3mgk7lOCKT

— 【公式】今夜10時「イノセンス 冤罪弁護士」第6話! (@innocence_ntv) 2019年2月13日



「最近話題にもなった、生徒が教師を挑発して体罰に…というニュース」が、町田総合高校の体罰動画拡散を指していることは明らかだ。

町田の件だけじゃなく、今回のストーリーには多くのテーマが絡み合っていた。神回だったと思う。

“裁くこと”と“晒すこと”は違う
和倉楓(川口春奈)が働いていた弁護士事務所のセクハラ問題が明るみに出た。その事務所では和倉もセクハラを受けており、正当防衛で上司を殴ってクビになっていた。和倉の元にマスコミからの取材依頼が殺到したが、彼女は返事を保留した。
「元上司のことはもちろん許せません。弁護士として罰を与えたい気持ちもあるんです。だけど……」(和倉)
“裁く”と“晒す”は違うということ。

そんな中、黒川拓(坂口健太郎)は高校の名門フェンシング部の顧問を務める高松洋介(豊原功補)から相談を受ける。部活の指導中に剣で突いたエース選手・藤里瞬(清水尋也)が不整脈による心停止で倒れ、高松は業務上過失傷害で在宅起訴されたのだ。
件の高校を訪れた拓に、フェンシング部副部長の・田代智樹(柾木玲弥)が「裁判で証言させてほしい」と申し出てきた。

当日、拓に協力的だった田代の態度が一変する。
「高松監督はいつも部員に高圧的に接して、体罰も行われていました。僕や他の部員、藤里君も被害を受けていたことがあります」(田代)
田代は高松が藤里を平手仕打ちする動画を掲げ、傍聴席のマスコミに呼びかけた。
「マスコミの皆さ〜ん! これを公表してくださ〜い! 僕たちはずっと苦しんできたんで〜す」(田代)

裁くことと晒すことは別なのに、それを同時にこの高校生はやってのけた。

裁判とは違い、社会的制裁に歯止めはない
藤里の心停止は、藤里本人と田代が画策した自殺だった。高松は関わっていない。高松が藤里に振るった体罰動画も、藤里らが画策し、誘発して隠し撮りしたものだった。
そこに至るまでの過程が明るみに出なかったら「体罰」だけが取り沙汰され、高松は晒され続けるばかりだった。セクハラの事実がもみ消され、暴力行為のみ問題視された和倉も同じ。体罰を切り取り、拡散しようと試みた高校生の狙いと同じ着地点である。暴力行為は責められるべきだが、過程を知って初めて見えてくる真実がある。

体罰動画が拡散されてから、高松はネット上で吊し上げを食らっていた。その被害は妻や娘にまで及んだ。昼夜問わず高松家に押しかけるマスコミを見て、テレビ局ディレクターの有馬聡子(市川実日子)がつぶやく。
「悪いことした奴は叩き潰していい……と思ってる人たちって、忘れてるんじゃないかと思って。相手も人間なんだってこと」

無罪を勝ち取った後、拓は傍聴席のマスコミに“お願い”をした。
「この事件を報道されるのであれば、煽るような批判ではなく、ありのままを正確に伝えてください。裁判とは違って、社会的制裁には歯止めがありません。第三者の偏見や臆測が今回の事件の関係者全員をこれ以上追い詰めることがないように、配慮をお願いいたします」

真実が明るみに出たことで、藤里には“正義”の鉄槌が下されるはずだ。歯止めのない制裁が今度は自分に及ぶ。だから、彼は絶望した。
「全部バレて、報道されて、ネットで叩かれて。どうせこの先、死にたくなるくらい嫌な目に遭うんです」(藤里)

我々は自戒せねばならない。マスコミだけでなく、ネットの言葉も人間を殺しかねない。簡単な力で、必要以上に他者を追い詰めることができる。誰もが“罪人”の人生をボロボロにする力を持っているのだ。

閉廷後、検察官の指宿林太郎(小市慢太郎)は言った。
「社会的制裁が過激になる理由は一つですよ。国民は皆、司法が下す量刑を軽いと思っている。悪に対して厳罰を望んでいるからです」

違うと思う。一概には言えないが。SNSで“正義”の鉄槌を下す際、我々は責任を問われない。不十分な情報のみで義憤に駆られる人もいれば、単に他人事を面白がる人だっている。「マスゴミ」という言葉があるが、一般人がネットで同様の行為を行うことは容易だ。私も自戒したいと思う。

無罪の教師はパワハラじゃなかったのか?
高松は無罪を勝ち取った。でも、本当に高松に非は無かったのだろうか?

高松を嵌め、自殺未遂に至った理由を藤里は激白した。
「僕は別にオリンピックなんて興味なかった。ただ、フェンシングを楽しめればいいと思ってただけなんです。なのに、監督は『もっと頑張れ、もっと上を目指せ』って」
「僕は部内で孤立していました。特別メニューを受けている僕のことを田代たちは嫌ってたんです。でも、部を辞めることは監督も親も許してくれませんでした。監督から『オリンピックも夢じゃない』って言われて、親も舞い上がってたからです」
「それで、監督からフェンシングを奪う計画を立てようって。監督の突きで、僕が死ぬ計画を。ウザいんだよ、そういうの。やる気もないのにやらされて、周りから孤立して。辞めたいって言っても殴られて、結局辞めさせてもらえなくて!」

これを聞き、高松は「何でだ……。何で、そこまで……」と困惑する。その程度のことで自殺未遂し、自分を嵌めた教え子。理由と行動の温度差が理解できず、困惑した。
大人にとっては“その程度”でも、高校生にはそうじゃなかった。高松に従っていれば大成していたかもしれないが、それは彼の望みじゃない。期待を押し付けられ、自殺を思うようになった藤里。「僕はどうすればよかったんですか!?」と拓に迫る言葉が重い。

藤里を追い込んだ責任は、間違いなく高松にある。やはり、これはパワハラだったと思う。教師と生徒の意識のすれ違い。そのせいで両者が社会的制裁を受けるのが悲し過ぎる。法廷では無罪でも、この事件は全ての者に非があった。だから、これから生き地獄を生きるだろう藤里を思うとやり切れないのだ。

判決が出ても解決じゃない。全員に正義があるし、全員が正義じゃなかった。モヤモヤの残る冤罪である。このドラマは、いつもそんな終わり方な気がする。
(寺西ジャジューカ)

『イノセンス 冤罪弁護士』
脚本:古家和尚
音楽:UTAMARO Movement
音楽プロデュース:岩代太郎
主題歌:King Gnu「白日」(アリオラジャパン
参考資料:「冤罪弁護士」今村核(旬報社)
チーフプロデューサー:池田健司
プロデューサー:荻野哲弘、尾上貴洋、本多繁勝(AXON
演出:南雲聖一、丸谷俊平
制作協力:AXON
製作著作:日本テレビ
※各話、放送後にHuluにて配信中
ドラマ「イノセンス 冤罪弁護士」 オリジナル・サウンドトラック/バップ