経団連2021年卒の採用活動から就活ルールを廃止すると決定したことで、今後の企業の採用活動がどうなるのか、予想できない事態となった。

JBpressですべての写真や図表を見る

 時を同じくして、大学1、2年生を対象とするイベントやセミナー、ビジネスコンテストなどを「教育の一環」として企業が開催する動きを見せている。

 主催企業はこれらの活動を、採用とは関係ないものとしているが、本当の狙いは何なのか。第1回で紹介したプロクター・アンド・ギャンブルジャパン(以下、P&Gジャパン)が国内で初めて開催した、大学1、2年生向けビジネスコンテストの決勝を取材した。

プロを驚かせた学生ならではのプラン

 「最優秀チーム選ばれたのは、Y-4チームです。おめでとうございます!」

 審査委員長P&Gジャパン執行役員、松浦香織氏が発表すると会場に拍手が沸き起こった。

 Y-4チーム早稲田大学慶應大学筑波大学の3大学の3、4年生が集まった混成チームだ。

 P&Gジャパンから課されたミッションは、P&Gの4製品において大学生の新規顧客を獲得するためのマーケティングプランを提案すること。

 その課題に対してY-4チームが提案したのは、親がEコマースを利用してP&G製品を購入し、大学に通う子どもに送る、「仕送り」促進キャンペーンプランだ。

 タイトルは「P&G新生活応援キャンペーン~仕送りで繋がる親子の絆~」。

 「仕送りというアイデアはまさに学生さんにしか考えられない、オリジナリティあふれるものでした」と総評で松浦氏は賞賛する。

 購入者を学生本人ではなく、その親としたところが斬新で、他のチームにはない意外な発想だったところが評価されたという。

 優勝チームには、記念の盾と事業資金として300万円が贈呈された。4人は、これからP&Gジャパンサポートを受けてさらにプランを練り、4~5月にかけて実際に事業として手掛ける。

300万円の資金で学生たちのプランが動き出す

 優勝チームメンバー筑波大学国際総合学類4年生の由衛彰敬さんは「プランの立案にあたっては、みんなでいろんなアイデアを出し合い、その中からこの仕送りというスタイルが課題の条件をクリアしやすいということで選びました」と語る。

 このアイデアにまとまるまで、メンバー間で熱い議論が戦わされたという。仕送りというアイデアはどこから出てきたのだろうか。

 「製品のサンプリングはしないルールでしたので、使用体験をせずに購入してもらうにはどうすればいいか、というところが課題のポイントだと考えました。そこで購入者とエンドユーザーを分けたらどうだろうかと考えた末に思いつきました」(早稲田大学商学部4年・ 竹内翔海さん)

 昨年12月に開催された本選考のためのオリエンテーションで、P&Gジャパンブランドマネージャーから、「親が子どものために製品を購入した場合も、新規購入としてカウントされる」と話していたのをヒントにしたという。

 立案に当たっては、一人暮らしの学生約100人にアンケート調査を行い、その結果をもとに具体化していった。

 「メンバーには私大生も国立大生もいて、さらに地方に住む人と都会に住む人もいますので、幅広い学生層の調査と議論ができたことが、結果に繋がったと思います」(由衛さん)

 これからプランを実現していくことについては「大学生活の最後に、インターンでもできない体験をこのメンバーと一緒にできることは本当に楽しみで、素直に喜んでいます」とメンバーたちも笑顔で語る。

日本の大学生は圧倒的に勉強量が足りない

 このところ大手有名企業が大学1、2年生向けの教育プログラムを打ち出している。今回、P&Gジャパンが開催したビジネスコンテスト「マーケッターズ・ハイ2019」もその1つだ。その状況については既に第1回で伝えた。

 P&Gジャパンではこのイベントを開催するにあたり、主な対象を大学1、2年生としていた。そのため1、2年生の参加が全体の約6割を占めたという。結果としては就活を経験した4年生に一日の長があったようだ。

 企業はこれまでインターンシップを通じて学生に就業体験を提供してきた。その対象は3、4年生が中心で、しかも実質的に採用活動の一環として行われている。

 経団連が就活ルールを廃止したタイミングで、企業がこうした教育プログラムを行ったことから、いよいよ企業が1、2年生を採用のターゲットにし始めたかのように見える。

 P&Gジャパンでは自社初となるこのイベント開催の目的をあくまで「グローバルに活躍する人材の育成を目的とした学びの機会を提供するプログラム」とし、採用選考とは無関係だと強調するが、本当にそうなのだろうか。

 今回のイベントを統括するP&Gジャパンの松浦執行役員に尋ねたところ、日本の大学生は海外の学生に比べ、圧倒的に勉強量が足りないことへの危惧が動機にあるという。

 「貴重な大学時代の4年間を日本の学生さんたちが生かし切れているのか、ということなんです」

 「私は大学時代に日本とアメリカの両方の大学で学びましたが、アメリカではたった1つの単位を取るにも、倒れるほど勉強させられます」

 「一方、日本の場合はテストの点をクリアすれば単位がもらえるうえに、授業も1人の先生に数百人の学生という講義形式が一般的。必然的に学業の優先順位は下がってしまいますよね」

 「そこで入学して間もない1、2年生の学生さんに、このビジネスコンテストを通じていろいろな気づきを得てもらうことによって、残りの学生生活を目的意識を持って勉強したり、チャレンジしたりするきっかけにしてもらいたい、というのが本当の目的です」

 松浦氏は大学生にもっと大学で勉強してもらうきっかけにしてもらいたいという。大学の教育内容に不満があるのではないか、というこちらの予想とは正反対だった。

働くことを「自分ごと」にするための教育

 しかしP&Gジャパンが掲げる「グローバル人材の育成」については、すでに大学でもさまざまな教育プログラムを用意するなど、力を入れているところだ(詳しくは第2回の記事を参照)。

 そうした中でP&Gジャパンが企業として大学1、2年生の教育を行う目的とはどこにあるのか。

 「大学と弊社とではグローバル人材の考え方が違うと思うんです。私たちが言っているグローバル人材とは、どんな環境にあっても自分の頭で考えて行動し、状況を打開する力を持つビジネスリーダーのことなんです」

 つまり大学が目的とする多様な国の文化や価値観を理解するのが目的ではなく、ものごとに向かう姿勢やコミュニケーション能力、意志の強さといったビジネスにおける人間としての総合力だという。

 特に今回、P&Gジャパンが「グローバル人材の育成」を強調しているのは、日本のビジネスパーソンにそうした資質が欠けているからなのだろうか。

 「P&Gの内部でも、日本人社員は国内では能力を発揮するけれど、他国では発言が少ないという声が聞かれるのは確かです。日本以外の環境に身を置くと、自分で考えて行動し、リーダーシップを発揮するということが、他国の人に比べると弱い面はあると思います」

 日本人は優秀だということは共通認識としてあって、もっとできるはずだという期待を込めて、そのように指摘されるのだという。

 「こういう資質は大人になった後で鍛えようと思っても、なかなか難しい。今回私たちが試みたのは、一言でいえば学生さんが、会社で働くということを『自分ごと』にする機会を提供したかった、ということです」

 企業側の視点に立てば、たとえ学校の成績が優秀でも、豊富な海外体験を持っていても、それが働くことにつながっていないものなら、有望な人材ではない。確かにそこは大学では学びようがないところだ。

 今回のイベントで、P&Gジャパンが学生のプランに対して300万円という資金を提供し、実際に実行するところまでを含むプログラムにした意図が見えてきた。

ギリギリまで学んだ体験が必要

 では、学生側は今回の経験をどのように受け止めているのか。

 第1回で話を聞いたチームのうち、最終審査まで残った京都大学経済学部の同じゼミで学ぶ2年生の4人チームに、再び話を聞いてみた。

 「ロジックを積み上げてプランを作るところまではできますが、実際に製品を売ることを前提に考えた経験がなかったので、その点が難しかったです。でもそこが一番、勉強になりました。もっとマーケティングを勉強したいと思いました」(キムセヒョンさん)

 「プラン作成に当たってはP&Gジャパンのマーケッターの方から、わりとボコボコに言われましたが、それが刺激になりました(笑) 僕自身はいずれ日系の安定した企業に就職できればいいかなと思っていたんですが、今回のビジコンを通じてマーケティングも面白いなと思うようになりました」(山東丈将さん)

 こうしたコメントからも、たとえプランを実行に移すことはできなくても、たくさんの収穫があったことが伝わってくる。

 2か月ほど前に最終審査のオリエンテーションの際に話した時とは違い、4人の目つきが鋭く、言葉に熱と強さがこもっている。これから、ゼミでの勉強の熱の入り方も違ったものになるに違いない。

 「今回 、このプログラムに参加してくれた学生さんたちはきっと、1つのプランをまとめる上で様々な困難を経験したはずです。意見が割れたり衝突したりしたこともあったでしょう。それを乗り越えて形にするという経験こそが貴重だと考えています」

 松浦氏はこれをきっかけに、学生が大学で真剣に勉強するようになってほしいという。だが企業では学生が大学で学んだことを職場でどれだけ生かせると考えているのか。

 「専門的な知識やノウハウなら、入社後にいくらでも教えます。みなさんが気にする語学力も、まったくできないのでは厳しいですが、堪能でなくてもいい。そういうことは入社してから鍛えればいいことです」

 「私たちが期待するのは、ギリギリのところまで勉強したという経験です。4年間という短い時間の中で可能な限り文献にあたり、自分の決めた研究テーマを掘り下げ、論文にまとめるといったことを通じて、大学時代にしか経験できないことをたくさん積んできてもらいたいのです」

新卒に即戦力が求められる時代

 高度成長期、日本企業の人事担当者は学生に対して「大学で下手に勉強して余計な知恵をつけるより、真っ白な状態で入ってきてほしい」と言っていたものだ。バブル景気の頃は、まじめな学生より遊んでいる学生のほうが社会で役立つと言われていた。

 そうした発言は、企業が何年もかけて1人の学生を、一人前の社会人に一から育てることを前提にした終身雇用の時代の考え方だ。

 ところが終身雇用が崩れた今、企業は多様性の中で自分で考えて行動し、結果を出す人物、つまり即戦力を求めているのだ。

 「アメリカでは昨日まで学生であっても、入社1日目から即戦力となることが期待されます。P&Gの米国本社に入社する学生を見ていても、彼らはプロ意識を持って入社してきます」

 「一方で日本の新入社員は入社後、しばらく学生意識が抜けないと言われるケースもあります」

 企業が即戦力を求める時代になっても、大学生の方にはいまだ真っ白な状態で入ればいいという、古い意識が引き継がれているのかもしれない。

 採用アナリストの谷出正直氏によると「学生に対する企業側の感想として多いのが、働く意識ができていないこと」だという。

 「学生の間はサービスを受ける側、すなわち消費者として生活しています。しかし社会人になるということは、生産者になるということです」

 「ところが消費者の視点のまま就職し、なかなか生産者に転換できないというのが、日本の新卒の状態なのです。大学では学生に意識転換させる教育ができていません」

 市場において消費者の意識が高まった現代に育った子どもたちは、サービスを提供する側の勉強をほとんどしないまま就職してしまう。

 谷出氏によれば、企業は難しい知識や能力よりも、社会人としての心構えや意識を持って入社してほしいと望んでいるという。言い換えれば、そのための教育を企業が社員に施す余裕がなく、また大人になると手遅れとみている面もあるようだ。

 職場で少しきつめに鍛えればパワハラと騒ぎ立てられたり、すぐに退職してしまったりする時代には、若手社員を鍛えるという形がとれないといった事情もあるに違いない。

 一方、第1回でも紹介したとおり、日本企業は生き残りをかけて新しいビジネスモデルへと転換しようとしている。そのためにこれまでとは違うタイプの人材を求めるようになった。

 「これまでは従順で言われたことを的確に処理する能力が重視されてきましたが、今は0から1を生み出せる人材、誰に指示されなくても自分で考え行動して利益を生み出す起業家タイプが求められています」

 企業の求める人物像の変化に、日本の教育が追いついていないのだ。だから企業では大学1、2年生の早い段階で学生にきっかけをもたらしたいと考えている。谷出氏は、キャリア教育がさらに早期化していくだろうと予測する。

 「今は大学1、2年生が注目されていますが、今後は高校生中学生のうちにと、年齢を下げて行われるようになっていくと思います」

 キャリア教育は、大学に入学する前に行うべきものになってきているというのだ。

企業も真剣に学生のアイデアに期待

 P&Gジャパンの狙いは学生の意欲に火をつけることだけではない。松浦氏はイベントを通じて、学生のアイデアに期待していたと明かす。

 「教育プログラムとはいっても、私たちもまた、学生さんの柔軟なアイデアによって何か新しいチャレンジを生み出したいという狙いはありました」

 「実際に今回、学生さんたちから寄せられたアイデアは私たちの予想を超える高レベルなものでした。特に優勝チームアイデアは、マーケティングのキャリアをもつ私たちにとって目が覚めるようなものでした」

 「学生チームとともに、弊社も真剣に『仕送り市場』を作りたいと思っています」

 イベントをやってみて、学生のレベルの高さに驚いたというのだ。実は日本の大学生には相当の潜在能力があるのに、それを社会が生かし切れていないという側面もうかがえる。

 今回、P&Gジャパンイベントに優勝したチームプランが具体的に動き出すということは、見方を変えれば学生のアイデアが世界的企業を動かしたということでもある。これは大企業と学生の連携によるオープンイノベーションと言ってもよさそうだ。

 谷出氏は、大学、企業、学生と三者ともに、それぞれが自分で変わる努力をする必要があるという。

 「日本の産業がもう一度、成長を遂げていくためには大学がこうだからとか、企業がああだからとか、就活ルールがどうだとか、誰かのせいにしたり依存したりしている場合ではないと思うんです。それぞれが覚悟を持って変わっていく努力をすることで、日本の産業を発展させていくしかありません」

 企業もまた貪欲に学生たちからアイデアを求めている。再び日本の企業が世界的に存在感を示すには、企業も大学も、そして学生もそれぞれが変わらなければならない時に差し掛かっている。

 そういう意味では、今回のP&Gジャパンビジネスコンテストは企業と学生が雇用者と被雇用者の関係から、協力する関係に変わる新しい試みなのかもしれない。もちろん大学と企業は今後もさらに歩み寄る必要がある。

 第2回東京大学・高大接続開発研究開発センターの濱中淳子教授が語っていたように、企業はリカレント教育を含めた大学の教育機能を、もっと活用してはどうだろうか。

 それによって人材が大学と企業を常に行き来する間柄になれば、三者は縦の関係ではなく、肩を並べて刺激し合う理想の関係を築くことができるはずだと、今回の取材を通じて感じた。

[もっと知りたい!続けてお読みください →]  グローバル人材を育てる「フィールドワーク」

[関連記事]

大学1、2年生のキャリア教育に乗り出した大手企業

紙巻きたばこを地球上から消し去れ!

P&Gジャパンのビジネスコンテストの様子